裏庭

著 者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:2001年1月1日 発行 2010年9月30日 第28刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は、「家守綺譚」「からくりからくさ」などの作品で、ゆっくりと不思議な時間が流れる物語で私を捕らえた。「西の魔女が死んだ」では、美しい自然の中の暮らしとともに、女性の凛とした生き方を描いた。本作は、1995年に「児童文学ファンタジー大賞」の第1回の大賞受賞作。

 物語を簡単に紹介する。主人公の13歳の少女、照美はレストランの経営で忙しい両親からの愛を、あまり感じられないでいた。ある日、かつて英国人の別荘で今は荒れ放題の洋館の裏庭に、照美は入り込む。「裏庭」とは、その洋館の持ち主だったバーンズ家の秘密、この世とは別の世界のことだった。そこでは、照美はある役割を担っていて、それを成し遂げないことには元の世界に帰ってこられない..。

 想像していたものより、ズシリと重い手応えの物語だった。私自身が書いた上の紹介や「児童文学ファンタジー」という語感からは、「少女の溌剌とした冒険ストーリー」を思い浮かべるかもしれない。しかし本書は、照美の内面を深く深く潜行し、彼女は、少女が向き合うにはあまりに辛いものに向き合う経験をする。いや、いい歳をした私でもあんなことに向き合う勇気はない。

 「ファンタジー」という分類について。ジョージ・マクドナルドの「リリス」のレビューにも書いたが、英語の「Fantasy」に「幻想文学」という言葉を充てることがある。私の感じ方では「ファンタジー」と「幻想文学」では語感がかなり違う。そして本書は「幻想文学」の方だ。
 見返してみると著者の作品「f植物園の巣穴」のレビューで、私は同じようなことを書いている。心の奥へ奥へと進むことも、本書と同じだ。著者は心の内奥を描く「幻想文学」の書き手だったのだ。

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2つのコメントが “裏庭”にありました

  1. もうずっと以前のことですが、雑誌「幻想文学」が休刊してしまったのは残念でした。
    幻想文学とは自分の脳内にダイブして掴んできたものを、現実に戻って言語化する作業だと思います。脳内にダイブするのを続けるのはなかなか危険なものですよね。その勇気を持つ、というか、そうせずにはいられない作家さんがこの世には存在しているのだと思います。

  2. YO-SHI

    敦さん、コメントありがとうございます。

    脳内にダイブ、とはうまい言い方ですね。

    この本の中に、自分の心の奥にあるものを取り出そうとして手を伸ばしたら、
    何もなくて真っ暗な底無しの穴のようだった、というくだりがあります。
    そして「ぞっとして、慌ててそこにふたを」するのですが、自分の心とは言え
    奥の奥まで探るのには勇気が必要ですね。

    著者はこんな経験があるのかしら、とちょっと思いました。
     

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