村田エフェンディ滞土録

著 者:梨木香歩
出版社:角川書店
出版日:2004年4月30日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 タイトルの意味を後ろから追うと、「滞土録」の「土」は「土耳古(トルコ)」の頭文字、エフェンディ」はトルコで昔使われていた、学者に対する尊称、「村田」は主人公の名前。つまり「村田エフェンディ滞土録」は、「村田先生のトルコ滞在記」の意味。

 時は1899年、舞台はイスタンブール。主人公の村田は、トルコ皇帝からの招聘を受けて、かの国の歴史文化の研究のために来ている。1890年に起きたトルコの軍艦「エルトゥールル号」の和歌山沖での遭難事件での、地元民の献身的な救難活動への返礼としての留学なのだ。しかし彼はまだ青年で、大学の史学科の講師。「エフェンディ」と呼ばれるのは、自分でもしっくりこないらしい。
 そして、村田が下宿する屋敷には、ドイツ人の考古学者、ギリシア人の発掘家、下働きのトルコ人、屋敷の主人兼家政婦のイギリス人と、村田を入れて5人が住んでいる。物語は、この5人の会話を中心に、現地で出会った人々との交流を描く。

 いろいろと不思議なことが起きる。下宿の壁がユラユラと揺らぐように光る。天井から大きなものが走り回っているような音がする。敷石に人の影が浮き上がる...。と言ってもホラー感はない。100年以上前だからなのか、遠く中東の国だからなのか、イギリス人の主人が言うように「そういうこともあるでしょう」という感じなのだ。
 いや、年代のせいでも国のせいでもない。著者の描く世界が、そんな不思議を許容するゆったりした空間だからなのだ。そう、私が初めて読んだ著者の作品である「家守綺譚」のように。実は本書は「家守綺譚」と同じ時代の物語で、かの物語の主人公の綿貫と高堂は、村田の友人なのだ。共にに2004年に出版されたこの2つの作品は対になっている。だから、両方読んでみることをおススメする。

 最後に。村田の下宿にはまだ住人がいる。下働きのトルコ人が拾ってきたオウムだ。主人が作る料理のにおいがしてくると必ず「失敗だ」と言い、食べ物を取りに行ったトルコ人に「友よ!」と呼びかけ、夜明け前に鶏の鳴きまねをし、「何時だと思っているのだ」とドイツ人に叱られると、「楽しむことを学べ」とラテン語で返す。実にいい味を出している。

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3つのコメントが “村田エフェンディ滞土録”にありました

  1. Medeski

    ブログ村か飛んで来ました、初めまして。私も先日、本作を読了したばかりで、家守綺譚を気に入ってたばかりに過剰に期待し過ぎてしまいましたが、改めて読み返してみると、やはり良い作品ですよね。是非とも、作者には暇潰し感覚で派生作品を出し続けて頂きたいものです。

  2. YO-SHI

    Medeskiさん、コメントありがとうございます。

    確かに「家守綺譚」には圧倒的で独特な空気感がありましたが、
    この本には、そこまでのものは感じられませんでした。
    それでも、梨木作品の雰囲気が色濃く感じられ、引き込まれて
    しまいました。

    ところで、この本は「家守綺譚」の派生作品なんですね。
    まぁ、作家さんが、暇潰し感覚で作品を出すとは思いませんが
    この設定で、他の物語も読んでみたいですね。
     

  3. たかこの記憶領域

    村田エフェンディ滞土録 / 梨木香歩

    今からだいたい100年前、トルコに考古学の研究のため派遣された村田さんの話。エフェンディというのは、学問を修めた人に対する敬称で、村田先生といった感じかな。
    実は漢字が多 …

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