著 者:恩田陸
出版社:集英社
出版日:1997年10月30日第1刷 2000年6月13日第5刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
この本は、liquidfishさんに「暖かい、懐かしいような感じ」と薦めていただいて読みました。liquidfishさん、良い本を教えていだたいて感謝。
「常野」とは、地名ではなくある一族の名前。一族の名前と言っても、全員が同じ姓をもつ血族ではなく、かつては共同体として生活していた人々の子孫たちだ。かれらを結び付ける共通点は、それぞれが常人にはない能力を持っていることだ。
ある家系は、目にしたもの読んだもの全てを記憶することができる、別の家系は、未来を見ることができる、また別の家系は、遠くで起きている事柄を聞くことができる...といった具合だ。
そして、本書は、今は全国に散って普通の人々の生活に馴染んで暮らしている、そういった特別な能力を持った人々の出来事を、様々な視点から綴った連作短編集だ。
正直に言えば、この本にはしてやられた。「暖かい、懐かしいような感じ」と聞いていたし、最初の作品がその特殊な能力を使って、理解し合えずに死に別れた父と子を結びつける、いわゆる「泣かせるイイ話」で実際泣けたので、「感動する態勢」(そんな態勢があるとすればだが)で読んだ。しかし、そんな思いはあっさりと裏切られてしまった。
2つ目、3つ目..と読み進めるうちに、どうも雲行きが怪しいことに気が付いた。「泣かせるイイ話」ばかりではない、それどころか相当ツライ話もあり、読み終わってあまりの救いのなさに呆然としてしまったこともあったぐらいだ。
そう、私のような特別ではない人間は特別な能力にあこがれ、そのような力があればさぞかし人生が楽しいだろうと思う。しかし、「他の人とは違う」ということは、周囲の悪意を買うこともあれば、自らを深く傷つけることさえある。
本書は、常野の人々の暮らしだけでなく、その苦悩や悲しい歴史をも生々しく描くことで、人間として幸せに前向きに生きることの尊さを際立たせている。
「泣かせるイイ話」だと思って読んでいると、途中で読むのがつらくなるかもしれないが、それでも最後の1編まで通読してもらいたい。「暖かい、懐かしいような感じ」になれると思うので。
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