25.梨木香歩

家守綺譚

著 者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:2004年1月30日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「家守」はヤモリではない、イエモリと読む。さらに、平安貴族でも徳川一族でもない。主人公綿貫征四郎は、亡くなった親友の高堂の実家が空くのに伴い、そこに住んで管理をしている。つまり「家の守」をしている。それで家守。
 場所は京都。山一つ越えたところに湖がある、その湖から引いた疎水の近くとあり、文中に登場する山の名前などから考えると、山科から大津にかけてのあたりらしい。時代は、トルコの軍船の遭難事件への言及などから推察するに、明治の中ごろか。
 山科は古くから宿場町として栄え、この頃には鉄道も通っていたので、決して辺鄙な田舎町ではなかっただろう。それでも100年以上前の日本には、この小説のような、濃密な自然や異世界を感じる空気が流れていたに違いないと思う。

 そう、本書では様々な怪異なことが起こる。死んだ親友の高堂は壁の掛け軸を通ってやってくるし、主人公は何度か異界へ迷い込みそうになる。河童や鬼、狐狸妖怪の類が次々登場する。そういった短編が28編収められている。
 しかし、決して怪奇小説のような怖さを感じさせないのは、話の背景を流れる時間がゆったりしていることと、こういった怪異な現象を、登場人物たちが普通に受け止めているからだろう。
 とくに隣家のおかみさんが、いい味を出している。池の端に落ちていた気味の悪い布か皮か分からないものを見て「河童の抜け殻に決まっています」。散歩の途中で見かけた不思議な老人のことを聞くと「それはカワウソですよ」しかも「この辺の最近の子供なら、みんな知っている」とくる。悪さをするものならそれに備えるのが知恵だし、害がないのなら特に騒ぐこともない。誠に自然体の暮らしぶりなのだ。

 私は、乱読多読気味の読書なので、基本的には時間と気力のある限りドンドン読み進めます。本書もそうして読んでいたのですが、なかなか先に進まない。つまらないわけではないのにどうしてだろう、と思っていました。
 それは、本書の時間の流れがゆったりしているからなんだと思います。気が付くと、何となく今読んだ話を思い返して浸っていました。そんなことを一話ごとにやっていたので読み進まないのでした。
 この本は、手元に置いといてゆったりと一話ずつ読む、そんな読み方が似合うのでしょう。そんなことを思った本は初めてなので、そうしてみたいと思います。

 本書は、「鴨川ホルモー」のレビューにコメントをくださったLazyMikiさんから薦められて読みました。LazyMikiさん、良い本を教えてくれてありがとう。

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