3.ミステリー

禁断の魔術

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月10日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は「禁断の魔術 ガリレオ8」に収録された「猛射つ(うつ)」という150ページの中編を加筆・改稿した長編。帯には「シリーズ最高のガリレオ」と書かれている。

 今回の事件は、ガリレオこと天才物理学者の湯川の、高校の後輩が絡んでいる。湯川に近い人物が事件に関係している点では、短編集「ガリレオの苦悩」のいくつかの収録作品と共通している。

 その高校の後輩の名は古芝伸吾。物語の冒頭で、湯川が理学部の准教授を務める帝都大学の工学部に合格し、湯川にあいさつに来ている。優秀なのだ。そして未来に希望を持っていた。

 ところが彼は、一か月ちょっとで大学を中退してしまう。それはどうしてなのか?ホテルでの女性の殺人事件、マンションでのフリーライターの殺人事件、屋形船の爆発事件...。伸吾はこれらの事件と関わりがあるのか?

 伸吾が湯川にあいさつに来たのは、以前に湯川にレールガンの製作の指導を受けたことがあるからだ。レールガンは電磁エネルギーで物質を射出する装置。湯川は「実験装置」と呼ぶが、刑事たちは「武器」と呼ぶ。

 伸吾がレールガンを使って何かをしようとしているのは、ほぼ間違いない。殺人に使われれば、科学は「禁断の魔術」になってしまう。そうなれば、指導した湯川にも科学者としての責任がある。

 「ガリレオの苦悩」と共通しているは、湯川に近い人物が事件に関係しているだけでなく、湯川の「苦悩」と「決意」を描いている点。この一点に読み応え有り。

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追風に帆を上げよ(上)(下)

書影
書影

著 者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2015年4月1日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「時のみぞ知る」 「死もまた我等なり」「裁きの鐘は」に続く、超長編サーガ「クリフトン年代記」の第4部。7部完結とのことだから、これで折り返し地点通過ということだ。

 前作のラストは、クリフトン家の長男であるセバスティアンが乗る車が、3台のトラックに挟まれて、悲劇的な交通事故を起こしたところで終わっている。

 それを受けて、本作はセバスティアンの母のエマが、夫のハリーに、息子の死を告げる電話で始まる。その時エマはイギリス西部の街ブリストルに、ハリーは大西洋を隔てたニューヨークにいた。

 この事故は、エマとハリーを激しく憎悪するペドロ・マルティネスという男が仕掛けたもの。本作は全編を通して、このマルティネス家と、クリフトン家-バリントン(エマの実家)家の対立を描く。

 マルティネス家は偽札作りで財を成したギャングで、クリフトン-バリントンへの憎悪は、悪行の邪魔をされた「逆恨み」。だから「対立」と言っても、マルティネス家の攻撃と、それに対する防御だ。

 ここに「勧善懲悪」の分かりやすい構図ができあがる。単純な構図には良し悪しがある思うが、エンタテイメントとして安心して楽しめるところがいい。上手にハラハラさせてくれるので、退屈するということもない。

 前作「裁きの鐘は」のレビューで、主人公がハリーからセバスティアンに移ったのでは?ということを書いた。本作でそれはもっとハッキリした確信に変わった。冒頭に書いたように本作は7部完結の折り返し地点。まだこの後に「次のクリフトン」が登場するのだろう。

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チーム・バチスタの栄光

書影

著 者:海堂尊
出版社:宝島社
出版日:2006年2月4日 第1刷 2006年3月27日 第4刷 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2005年の「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。本書は2008年には映画とテレビドラマになり、さらに続編を重ねてシリーズ化されている。きっと面白いのだろうと、ずっと前から気になっていた。

 主人公は田口公平、41歳。東城大学医学部付属病院の神経内科教室の万年講師。「不定愁訴外来」という、不安や不満を抱えた患者を精神面でサポートする診療科の責任者。なかなか先進的な取り組みとも言えるが、実態はその通称が表している。それは「愚痴外来」。

 東城大学附属病院には最先端の医療チームがある。米国から招聘した外科医の桐生恭一が率いる、心臓移植の代替となるバチスタ手術の専門の、通称「チーム・バチスタ」。成功率6割と言われるバチスタ手術を26例連続で成功させ、その名声は轟いていた。

 まぁ言ってみれば、出世競争から降りた万年講師の田口は、「チーム・バチスタ」とは対極にいる。その田口が、桐生を含めてチームのメンバー全員を調査することになった。「チーム・バチスタ」に立て続けに3例の術中死が起き、病院長からその原因についての調査の特命を受けたからだ。果たしてこの術中死は、連続した不運なのか?医療事故なのか?それとも....。

 チームには医師の他に、看護師、臨床工学技士などコ・メディカルと呼ばれる医療スタッフがいる。その立場の微妙な違いや、病院内の対立や妬み、さらにはそれぞれの個人的な事情などを、巧みにストーリーに取り込んでいる。さらには、物語半ばで絡んでくる厚生労働省の調査官の白鳥圭輔が、ちょっと突き抜けた感のある個性的キャラクターで、飽きさせずに読ませる。

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ラスト・ワルツ

書影

著 者:柳広司
出版社:角川書店
出版日:2015年1月20日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「ジョーカー・ゲーム」シリーズの第4作。大日本帝国陸軍に設立されたスパイ養成学校、通称「D機関」のスパイを描く。「アジア・エクスプレス」「舞踏会の夜」「ワルキューレ」の3編を収録。

 「アジア・エクスプレス」は、満州でソ連の内部情報収集の任務に就くスパイの話。情報提供者のソ連の外交官が、情報の受け渡し場所の満鉄特急「あじあ」車内で暗殺される。ソ連のスパイ組織との謀略戦が始まる。

 「舞踏会の夜」は、華族の出身で今は陸軍中将の妻となった女性が主人公。アメリカ大使館で催された仮面舞踏会に出席する。そこでなぜか、20年前の十代の頃に、この身を救ってくれた男のことを回想する。

 「ワルキューレ」は110ページの中編。ナチス政権下のドイツに潜入したスパイの話。日独共同製作のスパイ映画が完成した。その主役を務めた日本人俳優と、かれに接触したスパイの周辺にゲシュタポの影が迫る。

 今回はこれまでとは少し趣が異なる物語だった。子どもに手品をして見せたり、愚連隊に絡まれる少女を救ったり、逃亡者の脱出に手を貸したり。任務の達成のためと言えばそれまでだけれど、「人間味」の側面が見える。

 「D機関」を設立した結城中佐の影がチラチラと現れる。彼のカリスマ性が、このシリーズの求心力になっている。

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イニシエーション・ラブ

書影

著 者:乾くるみ
出版社:文藝春秋
出版日:2007年4月10日 第1刷 2015年3月15日 第58刷 
評 価:☆☆☆(説明)

 ずいぶん前に知り合いから薦められていた本。その時にはそれほど売れてはいなかったと思うけれど、今や150万部超(2015年4月)というミリオンセラーになっている。今年5月23日には、松田翔太さん主演の映画が公開予定。

 主人公は鈴木、大学4年生。舞台は1987年の静岡。人数合わせで参加した合コンで知り合った繭子と恋に落ちる。本書は、鈴木と繭子が織りなすラブストーリーだ。

 ラブストーリーは嫌いではないけれど、本書には抵抗があった。官能小説(エロ小説と言っしまっては品がないので)と見まがうシーンもあって、50代のオジサンの私が、自宅のリビングで読むのはどうだろう?と。

 とは言え楽しめたこともあった。著者は私と同い年で、主人公の鈴木は私の2つ下。物語は私が過ごした学生時代と重なることが多く、懐かしいものに再会したような気分だった。「クイズダービー」とか「フィーリングカップル5vs5」とか。

 それだけの小説であったなら、150万部のミリオンセラーにはならない。さらに付け加えることがある。これは「ネタバレ」に相当する情報かもしれないけれど、Amazonの紹介文にも本の裏表紙にも書いてあるので、許容範囲と判断して言う。本書には大きな仕掛けがあって、読者が読んでいる物語は、実は全然違う物語だったことが最後に分かる。

 著者はミステリー作家。だから本書も一見するとラブストーリーだけれど、実はミステリーなのだ。

 映画「イニシエーション・ラブ」公式サイト

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満願

書影

著 者:米澤穂信
出版社:新潮社
出版日:2014年月3月20日 発行 
評 価:☆☆☆(説明)

 第27回山本周五郎賞受賞作品。本屋大賞ノミネート作品。著者の作品は単行本は「折れた竜骨」しか読んだことがないのだけれど、新潮社のアンソロジー短編集「Story Seller」シリーズ(annex)の常連なので、短編はいくつか読んだ。本書も6編が収録された短編集で、うち2編は「Story Seller」の3とannexに収録されたもの。

 6編を簡単に紹介する。「夜警」交番勤務の巡査部長の話。その交番に配属され殉職した新人警察官のことを振り返る。「死人宿」山奥の温泉宿にかつての恋人を訪ねた男の話。その宿は自殺の名所となっていた。「柘榴」その美貌と策謀で目当ての男を射止めた女の話。彼女の娘たちも美しく成長するが..。

 「万灯」(Story Seller annexにも収録)バングラデシュで天然ガス開発を目論む商社マンの話。ビジネスはきれいごとだけでは進まない。「関守」都市伝説の取材に訪れたフリーのライターの話。峠のドライブインを営むおばあさんから話を聞く。「満願」(Story Seller 3にも収録)学生時代に世話になった下宿のおかみさんの弁護をする弁護士の話。事件の真相は..。

 ミステリーでは、表面的に見えていることに別の意味があることが多い。本書の6編でもそう。ただ本書の作品に共通して特徴的なことは、その「別の意味」の全ては明らかにならなかったり、結末までは描かれていなかったりすることだ。

 そのため読み終わった後に余韻が残る。あるものはゾクゾクする寒気を伴って、あるものは苦いものを噛んでしまったような後悔と共に。こういうのが好きかどうかは好みによるだろう。

「柘榴」と表題作の「満願」が印象に残った。

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火星に住むつもりかい?

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:光文社
出版日:2015年2月20日 初版1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新書き下ろし長編。

 今回の舞台は「地域安全対策地区」に指定された仙台。「地域安全対策地区」には「平和警察」という組織が設置され、「危険人物」の早期発見と犯罪の未然防止に取り組むことによって、地域の安全を守る。「早期発見」の方法は一般住民からの情報を得ること。早い話が「密告」を受け付けることだ。

 本書は3部構成になっている。第一部は、様々な事件が紹介される。上級生にいじめられる高校生。平和警察の取り調べを受ける男性。隣人が平和警察に連行された男性。...第二部は、平和警察の部署に配属された新人警察官から見た平和警察の活動。第三部は、平和警察によって監視カメラが設置された、理容店の店主を主人公とした物語。

 書誌データでは「らしさ満載、破格の娯楽小説!!」と紹介されている。「娯楽小説」なのだから楽しめばいいのだろう。でも私はあまり楽しめなかった。善良な市民を、いい加減な密告を基に連行し、人権を無視した取り調べで自白させて、首切りの公開処刑にする。「娯楽」にはできなかった。

 「火星に住むことを選びたくなるぐらい酷い世界」という含意だとは思う。こんな世界にも「正義の味方」はいて、悪の権化のような「平和警察」に立ち向かう者もいる。なかなかユニークなキャラクターも登場する。方々に伏線もある。「らしさ満載」については「満載」は言い過ぎのように思うが「らしい」とは言える。

 「らしい」で言えば、伊坂さんは時々「強大な権力」を描く(「モダンタイムス」や「ゴールデンスランバー」など)。それから「闇」や「得体のしれないモノ」を描くこともある。「黒伊坂」作品と呼ぶ人もいる。そういった作品が好き、という人もいるので、本書もそういう読者の支持を得るかも。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

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怒り(上)(下)

書影
書影

著 者:吉田修一
出版社:中央公論新社
出版日:2014年1月25日 初版発行 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。

 冒頭にある殺人事件が提示される。八王子郊外の新興住宅地で、男が住人の夫婦を次々と殺した。廊下に被害者の血で書かれた「怒」という文字を残して。物語はこの事件から1年後から始まる。犯人の山神一也はまだ捕まっていない。

 別々の場所に住む4人のストーリーを、それぞれ追う形で物語は進む。外房の港町の漁協で働く槙洋平と、その娘の愛子。大手通信系の会社に勤めるゲイの藤田優馬。母と共に沖縄の離島に逃げるように移住してきた高校生の小宮山泉。そして山神一也の事件を追う八王子署捜査一課の北見壮介。

 山神一也の事件から1年後に、洋平・愛子、優馬、泉のそれぞれのところに若い男性が現れる。職を探して漁港に現れた男。新宿のサウナで膝を抱えて座っていた男。沖縄の無人島で野宿をしていた男。過去も素性も定かではない男ばかりだ。

 そうであるにも関わらず、彼らは男を受け入れ る。自分たち自身が心の痛みを知っているからだ。その男によって、それぞれの暮らしに波紋が広がる。最初は戸惑いの波紋、次には安堵と喜び。しかしやがて、不審の波紋となり、それは御しきれない大波となって、彼らを翻弄する。

 著者は心に傷を負った人々を描くのがうまい。ちょっと憎らしいぐらいだ。登場人物たちは、狂気に駆られた犯人を除けば、善き人たちばかりだ。挫折や不幸を経験し、ある者はだれかに追われながら、それぞれに日々を懸命に生きている。そうしていれば、喜びを感じる瞬間もある。

 しかし、その喜びの時にさえ、物語は緊張感を湛えている。そして哀しい。洋平は愛子の幸せを願いながら、心のどこかで「この子に普通の幸せが訪れるはずがない」と怯えている。そうしたことがとてもとても哀しい。
 

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その女、アレックス

書影

著 者:ピエール・ルメートル 訳:橘明美
出版社:文藝春秋
出版日:2014年9月10日 第1刷 2015年1月10日 第9刷
評 価:☆☆☆(説明)

 本書のことが各所で取り上げられて、昨年の11月ぐらいからお祭り騒ぎのようになっている。帯にも書いてあったが「史上初の6冠達成」のことだ。

 6冠というのは「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」「IN☆POCKET」「英国推理作家協会」「フランスの読書賞」の6つのランキングで、それぞれ第1位または部門1位を獲得しているのだ。当然、書店でもこのことが大きく取り上げられて宣伝していた。期待して読んだ。

 主人公はアレックス。30歳、女性、美女。それともう1人、ヴェルーヴェン警部。50代、男性、身長145cm。この2人のストーリーが交互に語られる形で物語は進む。この2つのストーリーは、すぐにも交差しそうでいて、なかなか交わらない。

 アレックスのストーリーは、開始早々に緊張が走る。なんと彼女はいきなり誘拐されて、犯人のサイコ野郎に監禁される。「サイコ野郎」という表現は本書にはなく、私が思った。なぜかと言うと、そいつは彼女を裸にして、体を折り曲げないと入らない木箱に閉じ込めたから。「淫売がくたばるところを見てやる」と言って。気色悪い。

 ヴェルーヴェン警部のストーリーは、このアレックスの誘拐事件を追う。優秀な刑事らしく、地道な捜査と閃きで犯人を追いつめる。こちらのストーリーには、警部の個人的な事情が絡んで、なかなか「いい話」になっている。

 さて、これまでの紹介が本書のすべてなら「6冠達成」はないだろう。実は、ヴェルーヴェン警部が犯人を追いつめるのは、物語の開始からわずかに100ページ、約450ページの本書の4分の1ぐらいの場面なのだ。そこから物語はナナメ上の方へ疾走を始める。

 そのナナメ上加減が評価されての「6冠達成」なのだ。それはとてもよく分かる。帯に「101ページ以降の展開は、誰にも話さないでください」と書いてあるので、それを守って明かさないけれど、読んでいて「これはスゴいわ」と、私も思った。

 しかし、私なら本書を「第1位」には選ばないと思う。(何の審査員でもない私が偉そうに「選ばない」なんて言っても失笑されるだけだけれど)それは、事件があまりに凄惨で、正視に耐えなかったからだ。もちろん、その「凄惨さ」には意味があるのだけれど、それでもこれはキツい。

 「第1位」になれば、たくさんの人が読むことになる。私などよりもっとショックを受ける読者もいるだろう。そうなったら申し訳ない、というか私自身がイヤなので、私なら「第1位」には選ばない。そんなわけで、☆4つは堅い作品だとは思うのだけれど、1つ減らして☆は3つ。

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ビブリア古書堂の事件手帖6

書影

著 者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2014年12月25日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 累計600万部突破の人気ベストセラーシリーズの第6巻。

 4巻に続いてシリーズ2作目の長編。今回は太宰治の処女作品集「晩年」の初版を巡るミステリー。「晩年」はこのシリーズとの因縁が浅からぬる本だ。第1巻で古書堂の店主である篠川栞子は、「晩年」に妄執する古書マニアに襲われて大ケガをしている。

 そして、こともあろうにその事件の犯人である田中敏雄が、主人公の五浦大輔と栞子の前に、再び現れる。しかも「晩年」を探し出して欲しいという依頼を持ちかける。あの事件の発端となった「晩年」とは別の「晩年」がある、というのだ。

 一見、田中は改心したようだ(というより、目当ての古書を手に入れるためには手段を選ばないけれど「悪人」ではないらしい)。しかし、それは本当か?今回も大輔と栞子の周囲には、危険が影がチラつく。その正体は田中なのではないのか?という疑念が最後まで付きまとう。

 読み応えのあるミステリーだった。「晩年」を追う過程で浮上してきた「47年前の事件」の謎解きが絡んでくる。さらに、その47年前の事件には、大輔の祖母や栞子の祖父までもか関わっているらしい。構造がドンドン重層的になってきた。

 本当にそんな人がいるのか分からないけれど、狂信的な古書マニアは怖い。最初と最後にだけ登場する、栞子の母の智恵子の存在も目が離せない。次巻が楽しみ。

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