著 者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:2015年10月1日 発行
評 価:☆☆☆(説明)
梨木香歩さんのエッセイ集。「あとがき」によると、2007年から2009年に雑誌「ミセス」に連載されたもの。それを2010年に単行本としてまとめ、さらに2015年に文庫化した。全部で28編を収録。
日々の暮らしの中で目にしたこと、旅先で出会った物事、十年以上前の出来事、さらに遡って子どものころの話等々、テーマを特に設定せずに様々なことが、落ち着いた筆致で綴られる。テーマはない中で一つ全体の特長を挙げると、著者の作品の読者なら馴染みのことだけれど、動植物、特に植物の話題がとても多くて、とても細やかだということだ。
例えばこんな感じ。「貝母という花には複雑な思いがある。一本であるときは真っ直ぐに誰にも何にも依りかからず生きているのだが、これが数本まとめて花瓶に挿そうものなら、みるみるうちにその巻きひげのような葉っぱがお互いに絡み合ってまつわり合って簡単には離せなくなる。」
貝母は別名をアミガサユリといい、取り立てて珍しい花ではないようだけれど、私はその名前を知らなかった。著者は、露地に咲くその花を見つけて、両手のひらで包むようにして「ようこそようこそ、永らえて、まあ」と話しかけた。こういう感性の持ち主なのだ。身の回りの小さなことを、ちゃんと受け取ることができる。
さらに「絡み合って依存し合うのは莢が重いから」という説を引いて、「自分で何とかまかなえるだけの暮らしをすればいい話ではないか」と言う。これが「サスティナビリティ(持続可能性)」の話につながっていく。本書の特長をもう一つ挙げると、1つのエッセイの中に、こんな風にいくつかの話題があって、それが繋がって最初の話題に戻って円を成していることだ。読んでいてとても気持ちがいい。
最後に。本書には著者の憂いも感じる。例えばこんな一文に。「たとえば国のリーダーが、どう考えてもばかばかしい政策を掲げたときにはどうしよう。従うのか、意見するのか、見限るのか。(中略)もっと他に何かあるだろうか」。念のため言うと、これは今のことを言っているのではない。このエッセイが始まったのは2007年で10年近くも前だ。..今と同じ人が首相だったけれど。
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