5.ノンフィクション

ネット炎上の研究

書影

著 者:田中辰雄 山口真一
出版社:勁草書房
出版日:2016年4月25日 第1版第1刷 5月20日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の二人は共に、大学の計量経済学の研究者。経歴を拝見すると、どうも師弟関係にあるのでは?と推測される。本書は「ネット炎上」を、計量経済学の統計分析の手法を用いて解き明かしたレポート。

 ネットにおける炎上事件を取り扱った本は「ネットが生んだ文化」「ウェブはバカと暇人のもの」などがあった。特に「ネットが生んだ文化」は、「炎上」がごく少数の人によって引き起こされることを明らかにしたところなど、なかなか読み応えがあった。

 本書の分析でも、この1年で炎上事件に書き込んでいるのは、インターネットユーザの0.5%としている。しかも、その多くは一言感想を述べる程度で、直接当事者に攻撃を加えるのは、0.00X%のオーダー(つまり10万人に数人)と算出している。

 これを踏まえた上で、本書の特長は2つ。ひとつ目は炎上に加わる(率の高い)人のプロフィールをはじき出したこと。若い/子持ちの/男性で/年収が高く/ラジオをよく聞き/ソーシャルメディアをよく使い/掲示板に書き込む/ネットでいやな思いをしたことのある人。住んでいる場所や結婚や学歴などは関係がなかった。どうだろう?私は、ちょっと意外だった。

 もうひとつは、社会的コストの観点から炎上を考察したこと。炎上を放置したり、回避するために発言を控えたりすることは、自由で多様な言論空間を損なう。それは本来得られるネットの効用を失うという意味で、社会的コストになる、という考え方だ。

 詰めが甘いところはあった。調査結果から数字を理詰めて分析してきたのに、最後の方で「仮に1割とすれば」と、唐突に裏付けのない仮定が入る。4つの炎上事例(だけ)から、攻撃を行うのは「コミュニケーション能力に難がある一部の特異な人」と結論してしまう。(私の理解では)数値の誤植もある。

 ただし、そういうことを差し引いても、新しい知見を示した優れたレポートだと思う。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

職業は武装解除

書影

著 者:瀬谷ルミ子
出版社:朝日新聞出版
出版日:2011年9月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は「日本紛争予防センター」という認定NPO法人の事務局長(発行当時。現在は理事長)。活動内容は「紛争予防・平和の推進を図る活動、国際協力の活動...」。世界中で起きる紛争を相手に、その解決や予防に力を尽くそうという団体。私は、そのような団体が日本にある、という事から認識を改めなくてはならなかった。

 本書は、群馬の「クマが出るような村」での、著者の子ども時代から書き起こす。その後、ルワンダの難民キャンプの写真との出会い、高校3年生の時に人生の目標を決める。その目標は「紛争解決の専門家になる

 そして日本と英国の大学で学び、NGOの駐在員としてルワンダに赴任することになる。ここまでページ数で言うとわずか30ページ。このスピード感が、そのまま著者の生き方でもある。とにかく「迷いがない(ように見える)」

 この後は、数多くの「現地」での体験が綴られている。ルワンダの次はシエラレオネ、その次はアフガニスタン、その次はコートジボワール、ソマリア、ケニア、南スーダン、バルカン地域。その先々で困難に会い、時には打ちのめされ、追い詰められる。そのたびに「退路を断って」「あと一歩だけ進んでみる」。こんな生き方、ほとんどの人はできない。

 著者は「本当の戦争の話をしよう」の、伊勢﨑賢治さんとも一緒に働いたことがある。同じようなエピソードを紹介している。アフガニスタンで武装解除にあたっている時「日本が言うから、信頼して武器を差し出すんだ(アメリカやイギリスに言われたら、撃ち殺してやる)」、兵士たちにそう言われたそうだ。

 最後に。著者は2011年にNewsweek日本版で「世界が尊敬する日本人25人」に選ばれた。日本が「戦争をしない国」であることと、著者のような日本人が世界で貢献していることが「日本への信頼」につながっている。そのことを、私たちは肝に銘じて意識すべきだと思う。

参考:著者のブログ「紛争地のアンテナ: 瀬谷ルミ子のブログ

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

捏造の科学者 STAP細胞事件

書影

著 者:須田桃子
出版社:文藝春秋
出版日:2014年12月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 いわゆる「STAP細胞」騒動を、新聞記者の目で追ったレポート。ある人から「小保方さんの「あの日」を読んだなら、合わせて読むといいよ」と言われて、手に取った。

 よく整理された優れたレポートだと思う。本書に記録された期間は、2014年1月の華やかな記者会見から、理化学研究所による検証実験の最中の11月まで。その間の新聞報道の通りで、小保方さんによる捏造を強く示唆する内容となっている。

 本書のもっとも注目すべき点は、渦中の人々の肉声を伝えていることだ。笹井氏や若山氏といった、論文の共著者や理研の幹部らに、メールや面談で取材をしている。特に笹井氏とのメールの往復は、当事者の心の内を知ることができて、貴重だと思う。

 読んでいて一つ気付きがあった。「STAP細胞」についての私の関心は「(本当のところ)STAP細胞はあるのか?」だった。しかし著者をはじめ多くの人(特に科学者コミュニティの)が、そうではなかったことだ。そしてその考えに理があることにも気が付いた。

 つまり、彼らの関心は「論文不正の真相究明」にあって、「STAP細胞の存在の真偽」は副次的なものだったらしい。著者は「検証実験」に熱心な理化学研究所の態度を強く批判している。研究者らに対しては「科学者の倫理より組織の論理を優先させた」と手厳しい。

 私も今は、再発防止の観点からも「真相究明」が大事であり、STAP細胞を再現できたとしても、それでOKとはいかない、ということは分かった。ただそれでも「論文が不正」「証明が不十分」をもってして「STAP細胞(現象)は捏造」という結論が、胸に落ちない。

 「STAP細胞(現象)はあるのでは?」と思う理由の一つは、亡くなった笹井氏の言葉。「自分の目が確信したものを「ない」ということは、たとえ、自分の実験でなくても、研究者である限り、できません」。笹井氏が見たものは真実(STAP細胞)ではないのか?そういう想いが未だに残る。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

ギリシア人の物語1 民主政のはじまり

書影

著 者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2015年12月20日発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ローマ人の物語」の著者による新シリーズの第1弾。予告によるとシリーズは3部作になるらしい。

 「ギリシア・ローマ時代」という言葉があるように、現代の西洋文明の源流には、ギリシアとローマの文化文明がある。しかし、ローマが帝国として千年を超えて存続したのに対して、ギリシアの方は統一されることもなく、その隆盛は短かった。だた強い輝きを放っている。

 本書は、スパルタとアテネの両国の成り立ちと、そこで行われた社会の基盤を形作った改革を簡単に紹介。続いて、大帝国であったペルシアの侵攻を、ギリシアの都市国家の連合軍が迎え撃った、2度にわたるペルシア戦役を、本書の7割を割いて詳細に追う。

 古代の戦争を描くのが著者の真骨頂だ。それも、その戦争を指揮する司令官や将軍といった「人間」を中心に据えて、戦略戦術を解説する。「見てきたように」語って、鮮明に戦場を眼前に立ち上げて見せる。

 アテネのテミストクレスとアリステイデス、スパルタのレオニダスとパウサニアス、ペルシアのダリウスとクセルクセス。全員の来歴を言える人は、あまりいないだろう(ペルシア戦役は、ときどきハリウッド映画になっているようだけれど)。本書を通読すると、彼らが一人の人間として感じられる。

 著者がギリシア人を書く気になった理由について。昨今の「民主主義とは何か」という論争に、しばらく付き合ってはいたが、拒絶反応を起こしたそうだ。そこで著者が選んだのが「民主主義の創始者である、古代のギリシア、それもアテネに戻る」ことだった。

 最後に。著者の言葉を引用「アテネの民主政は、高邁なイデオロギーから生まれたのではない。必要性から生まれた」今はちょっとよく分からないけれど、この言葉をかみしめてみたいと思う。

 にほんブログ村:塩野七生「ローマ人の物語」ブログコミュニティへ
 (塩野七生さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

紙つなげ!彼らが本の紙を造っている

書影

著 者:佐々涼子
出版社:早川書房
出版日:2014年6月25日 初版 7月25日 7版発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 本書は、東日本大震災で壊滅的な被害を受けて完全に機能停止した「日本製紙石巻工場」の復活の記録。

 1平方キロメートル(約33万坪)もの広大な工場が津波に呑み込まれ、近隣から流れ込んだガレキに埋まってしまった。その日、何があったのか?それからどうなったのか?丹念に広く関係者を取材した、優れたルポルタージュになっている。

 先の見通しがまったく立たない中で、工場長が事業の再開を決意する。しかも「半年」と期限を切った。半年でまず1台動かす。甚大な被害と荒涼とした光景を前に、多くの人が絶望していた時だ。その場に居た全員が「無理、絶対無理」と思った。

 これ以上の内容をここで説明してしまうのはもったいない。もし興味が湧いたら、ぜひ読んで感動を味わって欲しい。それより読んでいて痛切に感じたことがあるので、そのことを。私の暮らしは誰かの仕事が支えている、ということだ(缶コーヒーの宣伝みたいだけど)。

 今、私が手に持っている本は紙でできている(当たり前だ)。この紙はどこかで誰かが作ったものだ(これも当たり前だ)。当たり前すぎて私たちは意識さえしていない。

 日本製紙は出版用紙の約4割を担っているそうだ。その主力工場が機能停止すれば、出版業界への影響は必至だ。実際にそうだった。電子メディアに押されてはいるが、新聞・雑誌・書籍など「紙」は、情報を伝える媒体として、私たちの暮らしにまだまだなくてはならないものだ。

 「なくてはならないもの」私たちの方にはそんな意識はほとんどなかったけれど、製紙工場の技術者の皆さんは、そうした矜持を持って働いていらっしゃった。だからこそこの「奇跡」は起きた。そう思う。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

里海資本論 日本社会は「共生の原理」で動く

書影

著 者:井上恭介 NHK「里海」取材班
出版社:株式会社KADOKAWA
出版日:2015年7月10日 初版発行 8月10日 再版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「里山資本主義のパクリ?」タイトルを見てこう思う人もいるだろう。私もそう思った。次に、著者が同じNHK取材班だと気付いて「あぁ二番煎じか?」と考える。確かに「里山資本主義」がなければ、本書は出なかったかもしれない。しかし、パクリでも二番煎じでもないことは読めば分かる。

 本書の主な舞台は瀬戸内海。岡山から広島にかけての海だ。そのひとつの岡山県の日生(ひなせ)。縄文の昔から漁業を生業にして来たと言われる、瀬戸内有数の漁業の町だ。

 その日生の海が、1970年代に「死んだように」なり、みるみる漁獲高が減るという事態に陥る。それから試行錯誤が始まり、なんと30年におよぶ地道な努力によって、ここ数年になってようやく「以前の海」が戻って来た。

 実を結んだのは、かつては船のスクリューに絡んで邪魔者扱いだった「アマモ」という藻類の復活だった。水質の改善から取り組んで取り戻したアマモの森が、小さな生き物たちを呼び寄せ、魚たちの産卵の場所となり「海のゆりかご」の役割を果たしていた。

 本書は、ここに至る経過と、現在の海の様子を実に活き活きと描く。著者がテレビマンであるからか、その映像が目に浮かぶようだ。

 最初に講じた「稚魚の養殖と海への放流」という、「高度経済成長型」の対策はうまく行かなかった。「原料さえ供給し、機械のメンテナンスさえぬかりなくやれば、製品は予定どおり生産される」という「人工の世界」とは違うのだ。

 必要なのは「海のゆりかご」といった「命のサイクル」を修復して回すことだった。このように「人手が加わることにより生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」のことを「里海」という。「里海資本論」は、「循環」と「共生」によって、「生産」と「消費」のパターンを持続可能なものに変え、有限の海(世界)に無限の生命の可能性を広げるものだ。

 ちなみに「sato-umi」は、2013年にトルコのマルマリスで行われた、海洋の環境保全の国際会議で採択された「マルマリス宣言」に組み込まれている。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 

本当の戦争の話をしよう

書影

著 者:伊勢﨑賢治
出版社:朝日出版社
出版日:2015年1月15日 初版第1刷 2月15日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 著者は、国連PKOの幹部として、まず東ティモールに、次はシエラレオネに、さらに日本政府特別代表としてアフガニスタンに派遣されて、それぞれの場所で武装解除の任務にあたった人物。

 「武装解除」というのは、紛争の当事者に武器、特に重火器を手放させること。つまり著者の任務は、最近までドンパチやっていた(場合によってはその最中の)連中の幹部に会って「もうその辺でやめたらどうだ」と説得する役目。並の胆力でできることではない。

 本書はそんな著者が2012年に、福島高校の2年生、この企画に応じた18人の生徒に話した5日間の講義をまとめたもの。「平和」について、世界の紛争の現場、ニュースでは報じられない事情などを、時にユーモアを交えて話す。

 私は、テレビのニュースを見て、新聞を読んで、それに疑問があれば調べてと、「事実」を知る努力をそれなりにしてきたつもりだ。しかし、著者が語る話は驚きの連続だった。

 例えば、紛争の現場では「正義の英雄」と「テロリスト」が容易に入れ替わること。それは国際社会が(多くの場合はアメリカが)、どちらに付くかによること。民主主義国が戦争をする前には、国家がウソをつくこと。

 思ったこと。私たちはよく「日本政府は」とか「アメリカが」とか「アルカイダは」と、国家や組織が人格と意思を持って活動しているように話すし考える。でも突き詰めれば、判断し行動するのは一人の人間なのだ。著者はPKOや政府を代表しているけれど、紛争当事者の幹部とは、お互いに一人の人間として相対することになる。

 注目した言葉。「日本人のYOUが言うんだからしょうがない」著者が武装解除の交渉をしたアフガニスタンの軍閥のリーダーの言葉です。上に書いたこととは矛盾するようだけれど、国家は個人の属性のひとつだ。「戦争をしない日本」の役割、と漫然としたイメージで語られることが、紛争の交渉の場で現実に言葉として結実している。

 最後に。著者が行った武装解除は例外なく完了したが、その地域は例外なく「平和」になっていない。また著者自身が言うように「戦争の現場の経験者だと特別視されがち。でも、実はあまりあてにならない」。だから、著者自身を100%肯定して崇めるのは間違っている(「すげぇ人だな」とは思うけれど、どこか私と相容れないものを感じる)。

 それでも、安倍政権が進める安保法制に賛成する人はもちろん、賛成しない人も、本書を読んで内容を咀嚼してから、もう一度自分の考えを整理して欲しい。だから☆5つ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

(さらに…)

安倍政権の裏の顔 「攻防 集団的自衛権」ドキュメント

書影

著 者:朝日新聞 政治部 取材班
出版社:講談社
出版日:2015年9月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、序章を除くと2012年暮れの第2次安倍政権発足から、2014年7月の集団的自衛権の行使を認める閣議決定までの、約1年半の与党の動きを追った記録。タイトルからは、何やら陰謀めいたものや秘密の暴露を期待してしまうが、そういったものはない。

 「秘密の暴露はない」というのは、秘密にすべきことは書かれていないからだ。本書は「オンレコ」を原則とした取材を基に執筆されている、つまり取材対象者が「公開していい」と判断した内容だということ。著者が朝日新聞の取材班というだけで、否定的な見方をする人もいそうだけれど、これは与党の議員や関係者が話したことなのだ。

 読んで多くのことが分かったし、多くのことを思った。今回は本の感想・書評というより、この本を読んで思ったことを2つ述べる。1つめは「集団的自衛権の行使容認なんて必要なかったんじゃないか」ということだ。

 そう思った理由は次の一言に集約されている「「集団的自衛権行使に必要な事例を探せ」と言われたので、ひねり出した」。これは公明党の勉強会での、内閣官房の役人の発言。ここで「ひねり出した」という事例が、あの「赤ちゃんを抱いた母親」のイラストのパネルを使って安倍総理が説明したものだ。

 順序が逆なのだ。解決すべき問題への対処の必要という「理由」があって、集団的自衛権の行使容認という「結果」がある、というのが正しい順序だ。「結果」が先「理由」が後では本末転倒。これでは国会の答弁が混乱するはずだ。後付けの「理由」は本当に必要なのか?、それが必要でなければ「結果」も必要ない。

 思ったことのもう1つ。「「結果を出す」ことへの強迫観念」。これには少し説明が必要だと思う。

 「平和の党」の公明党は、集団的自衛権の行使を認めない立場だったが、ブレーキ役を自任し、連立離脱を封印して与党に残る。ある時から「落としどころ」を探るようになり、結果として「歩み寄って」合意する。ただし「歩み寄る」うちに一線を越えて、行使容認NOからYESへ180度変わってしまっていたわけだ。

 これについて「与党にしがみついて魂を売ってしまった」的なことを言われるけれど、それは違うらしい。主張をぶつけ合うだけでは、一歩も前進しないで「結果」がでない。実社会では「過程」より「結果」が重視され、政治の世界では特にそうだ。公明党は、だから「結果」を求めてしまった、そういうことだと思った。

 しかし、今回は「結果」を求めて「落としどころ」なんか探っちゃいけなかった。「過程」はどうあれ「結果」として、「魂を売ってしまった」感は否めないし、多くの民意に背いているからだ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

ドローン・ビジネスの衝撃

書影

著 者:小林啓倫
出版社:朝日新聞出版
出版日:2015年7月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ドローンと呼ばれる小型無人飛行機、そのうち特にビジネス向けのドローンの「これまで」と「これから」を、豊富な事例と共に紹介する本。ドローン業界のキーパーソンへのインタビューを効果的に挟んでいる。

 第1章の「なぜいま「ドローン」か」から始まり、「多様化するドローン活用」「システムに組み込まれるドローン」「ドローン・ビジネスのバリューチェーン」「ドローンと規制」「空飛ぶロボットとしてのドローン」と全6章の構成。

 私は仕事の関わりがあって、この数カ月にドローンに関する書籍を何冊か読んだのだけれど、「ドローンの活用」を多方面から描く本書は、群を抜いて良かった。著者は「POLAR BEAR BLOG」を運営するアルファブロガーで、ドローンの専門家ではないらしい。だからこそ、執筆にあたって多数の取材を行ったことが良かったのだろう。

 ドローンのビジネス利用と聞いて、まず「空撮で使うやつ」と思った人は(私も最近までそうだった)、本書を読んで認識を改めた方がいいかもしれない。例えば、先行する「無人ヘリ」は、農薬散布のために国内で2700機運用され、水稲耕作地の36%をカバーしている。機体側で自動制御が可能なドローンは、さらに広範囲な活用が見込まれているのだ。

 将来に目を向けると、カメラや各種センサーを活用した警備や建築・測量などに使われる。また、高度成長期に建設された橋梁や道路や建物などの、大量の建造物の検査には、なくてはならないものになるだろう。さらに、障害物のない空を飛び同じ場所に留まれるという特性は、通信インフラの整備などに威力を発揮する。

 今はまだ想像もされていない使い道があるかもしれない。新たな用途を考えるには、著者が考案した「空飛ぶロボット」というドローンの位置付け方が役に立ちそうだ。米国では2025年までに10万人以上の雇用を生み出すと試算されている。その周辺にもビジネスが立ち上がってさらに拡大する。

 安全性やプライバシーなどの人権の問題をうまくクリアして、この将来性を実らせて欲しいと思った。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

学者は語れない儲かる里山資本テクニック

書影

著 者:横石知二
出版社:SBクリエイティブ
出版日:2015年8月25日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は徳島県の上勝町で、日本料理に彩りを添える葉っぱ(つまもの)を栽培・出荷・販売する「葉っぱビジネス」を展開・成功させた立役者。地域の再活性化に取り組む人で、上勝町の「葉っぱビジネス」のことを知らない人はいないだろう、そう思うぐらい有名な事例。そして上勝町はさらに進化していた。

 「進化」とは例えば、70代80代のおじいちゃん、おばあちゃんたちが、タブレットを操って市場情報を分析して、高値で売れるように出荷数を調整している、という驚くべきことだ。これだけでもじっくり聞きたい話なのだけれど、本書のメインはこの「葉っぱビジネス」のことではない。

 章タイトルをいくつか紹介すると、本書のメインが分かると思う。「里山資本で儲ける仕組み」「地元の"重鎮"に気をつけろ!」「効率を重視すると失敗する」..。本書は、著者が経験した数々の「成功」と、それより多い「失敗」から得た、「葉っぱビジネス」の成功を普遍化した、地方の生き残りのノウハウを記したものだ。

 実は、私は以前から疑問に思っていた。上勝町が最初に話題になったのは90年代で、今から20年も前のことなのだ。「山にいっぱいある葉っぱを商品として売る」というシンプルなビジネス。どうしてマネをして成功する「第二の上勝町」が現れないのだろう?それが私の疑問。

 本書を読んで、その疑問が少し晴れた。「地元の"重鎮"に気をつけろ!」など、書いてあることは「地方あるある」の類が多くて、地方に住む人にとっては「常識」に近い。

 秘密はその「常識」への取り組み方にあった。正直言って私にはマネできない。私だけでなく、マネできる人がなかなかいないから、「第二の上勝町」が現れないのだろう。

 それでも私にもできそうなこと、役立ちそうなこともあった。「人を生かすためには「出番」と「役割」を作ること」。これは「地域の再活性化」のような大きな取り組みでなく、もっと小さなことにも応用ができそうだ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)