6.経済・実用書

安いニッポン「価格」が示す停滞

書影

著 者:中藤玲
出版社:日本経済新聞出版
出版日:2021年3月8日 1刷 4月6日 3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「価格を下げる」ことを「経営努力」と呼び始めたあたりから、世の中がおかしくなってしまったと思った本。

 日本の様々なものの価格が他国と比べて安い、ということを調査や統計データによって論じる。4章建て。第1章「ディズニーもダイソーも世界最安値水準」、第2章「年収1400万円は「低所得」?」。第3章「「買われる」日本」、第4章「安いニッポンの未来」。

 世界の6都市にあるディズニーランドの大人1日券(円換算、当日券、1パークのみ、2021年2月)の比較が、冒頭の話題。日本の8,200円に対して、一番高いフロリダは1万4,500円で約8割も高い。カリフォルニア、パリ、上海も1万円を超える、香港は8,500円。日本が最も安い。実は、2014年3月までは6,200円で、6年で2,000円、3割以上も値上げしたけれど「世界最安」なのだ。

 このくらいのことはなんてことはない。「いいサービスを安く受けられて何が悪い?」と言っていられる。「ディズニーランドの入場料なんて、一部の国民にしか関係ない」という声も正論だ思う。ダイソーが「100均」なのは日本だけで、台湾は180円、フィリピンは190円、タイは210円、と聞いても「大した違いはない」と思うかもしれない。

 実は、日本だけは100円で売ることができる主な要因は「人件費」なのだ。第2章で明らかになるけれど、日本の賃金が先進国でダントツで低くて「一人負け」の状態。そしてこれが経済の停滞の主要因。さらには、日本の不動産や技術を持つ会社や人材が安値で外国資本の手に渡る。ということが書いてあるのが3章。

 「安くて何が悪い?」とは言っていられない。なんでこんなことになってしまったのか。何とかしないとこのままではジリ貧だ。

 ある意見に「わが意を得たり」と思った。

 日本の生産性が低いという理由の一つは、日本の価格付けの「安さ」にある。

 何とかするためのヒントになる意見だと思った。

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超リテラシー大全

書影

編 者:サンクチュアリ出版
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2021年7月17日 初版 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 ネットでなんでも調べられるけれど「信用できる情報」を見分けるのは難しいから、こういうのがあってもいいかなと思った本。

 ニュースやSNSを見ていて、情報が多すぎるのはしんどい。本当のことだけ教えて欲しい。そういう人に「その道のプロ」が正しいと考える情報をだけを厳選して一冊にまとめたもの。「お金(投資・貯蓄・保険)」「仕事(転職・独立)」「IT(情報収集・デバイス)」「住まい(家・土地選び)」「法律(トラブル対処)」「セキュリティ(被害予防)」「医療(病気・治療)」「介護(親と自分の老後)」「防災(災害対策)」の9つの分野を網羅する88項目が収められている。

 例えば「お金(投資・貯蓄・保険)」の最初の項目は、「老後2000万円を信じてはいけない」。金融庁の「年金だけでは老後には2000万円足りない」という試算のことだけれど、あれには前提があってその通りにはならない、という話。じゃぁどうなるの?と言えば「2000万円ではまったく足りない可能性もある」「年金をあてにしない場合はだいたい1億円」。

 「おいおい。ずいぶん煽ってくれるじゃないか」と思ったけれど、このあとで「数字だけ漠然と追いかけていてはお金のリテラシーは高まりません」となって、「今のお金の使い方を見直す」「必要なお金を見直し、一発逆転を狙わない」「投資の正しい情報を身につける」と続く。つまりは「自分のケースで試算しろ」ということで、最初の「煽り」から一転したいい着地点だった。「信用できるかも」と思った。

 9つの分野の全部に興味があったわけではないけれど、全部読んでみた。そうしたら、さほど興味がなかった「医療(病気・治療)」「介護(親と自分の老後)」が、読んでよかったと思うことが多かった。考えてみれば「興味がないこと」は知識もないわけで、いろいろと知ることができてよかった、ということなのだろう。

 ひとつ気になったことも。「住宅ローンの繰り上げ返済はしない」とあって、それは返済に充てるお金を「利回り3%で運用したら、支払いの金利分を上回る」という理由。言っていることに間違いはないけれど、「3%で運用」は簡単じゃないだろう。いやむしろかなりハードルが高い。

 もちろん別のところに「投資の正しい知識を身につける」ことも書かれているけれど、多くの人はそういう「前提」を飛ばして「結果」の「繰り上げ返済はしない」だけが頭に残ってしまう。危険だ。

 私はITの分野なら(プロだなんて言わないけれど)誰かに教える立場にある。「ITを活用しましょう」という話の中で、似たような「危険」が潜んでいないか心配になった。

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公務員のための情報発信戦略

書影

著 者:樫野孝人
出版社:CAPエンタテインメント
出版日:2021年11月1日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

やっぱり実際にやってきた人の言うことには価値があるなぁと思った本。

著者はリクルート出身で、映画製作やITベンチャー、そして政治の世界でもと、様々な場所で実績を残してきた人。広島県が全国に先駆けて設置した「広報総括監」も務め、その実績が評価されたのか、福山市の情報発信戦略の委託先として著者が代表を務める会社が選定された。本書は、その福山市が取り組んだ内容と成果を整理し、地方自治体の情報発信戦略の手法をまとめたもの。

全部で4章ある。第1章「戦略的広報の基本」どのようにしてメッセージを伝えるのか?を手順を追って分かりやすく説明。第2章「広島県福山市の現状分析」情報発信戦略立案のための現状分析から、福山市での実践の概要まで。

第3章「ファクトをつくるマーケティングOJT」中身のない事業をPRでよく見せるのは本末転倒、との認識を基に「芯を食った政策・事業」の推進について。第4章「具体的な事例」実際のケースで、現場での市職員とのやり取りをまとめた報告書。

「公務員のための~」なので読者を限定するけれど、これは実践的でとても役に立つ本だと思った。実は「地方自治体の情報発信」には、私も仕事で関わっていて、本書のテーマについての問題意識は日ごろから持っている。そのためか、第1章から項目を追うごとに共感したり気付きがあったりで、一々役に立つことばかりだった。

例えば「民間プロフェッショナルの使い方」。そもそも福山市が「情報発信戦略を民間会社に委託」したことが、私には驚き(+羨望)だけれど、ここでは自治体と民間会社の関係のあり方の有意義な示唆が得られる。

もうひとつ例えば「プレスリリース+東京での情報発信」。どこの自治体も広報には力を入れていて、プレスリリースや首長の会見は仕組みが確立されている。しかしもう一段の積極的・戦略的な取り組みが必要だと思う。その方法が書いてある。

シティプロモーションに関わる人におススメ。市長も副市長も読むといいと思う。☆4つにしたけれど、公務員向けに限定するなら☆5つ。

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クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界

書影

著 者:ヤニス・バルファキス 訳:江口泰子
出版社:講談社
出版日:2021年9月13日 第1刷 9月14日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ひどいタイトルだと思うけれど、こんなタイトルでなければ読むこともなかったと思う本。

 2015年のギリシャの経済危機の際に財務大臣を務めた経済学者による異色の小説。

 主な登場人物は語りの「私」の他に4人。コスタはクレタ島生まれの天才エンジニア、アイリスは筋金入りのマルクス主義者の活動家、イヴァは元リーマン・ブラザーズの金融エンジニアでリバタリアン、トーマスはイヴァのひとり息子だ。時代は何度か前後するけれど「現在」は2025年、つまりは近未来で「コロナ危機」も過去のことになっている。

 描かれている物語はかなり突拍子もない。コスタが開発したシステムから意図しないメッセージが届くようになった。発信元はこの場所で、発信者は自分と同じDNAの持ち主。テストと実験を重ねた結果、システムが時空に小さな折り畳み構造をつくり出し、ワームホールが開いたらしいことが分かった。発信者は多元宇宙の別の世界のコスタだった。(区別のために、物語ではもう一つの世界のコスタを「コスティ」と呼んでいる)

 とまぁSF的な設定なわけだけれど、本書のキモはSFにはなくて、コスティが語ったもう一つの世界の内容にある。コスタとコスティの世界は、2008年の世界金融危機、リーマンショックのころに分岐し、コスティの世界では中央銀行を除いて銀行が廃止され、株式市場もなくなっている。つまり資本主義は終焉を迎えたということだ。

 例えば、会社の株式は社員全員が一株ずつ持ち、経営に関して平等な議決権を持つ。人々は中央銀行に口座を持ち、そこに基本給とボーナスが振り込まれる。基本給は全員が同額で、ボーナスは社員による一種の投票で決まる。その口座には、生まれた時にまとまった資金が振り込まれる。社会資本の還元として年齢に応じた一定額の配当もある。

 ここで描かれる社会モデルは、経済学者らしいとても緻密に吟味されたものだ。それでもリアリティを批判して冷笑するのは簡単だ。共産主義と同一して「失敗は歴史的事実」と相手にもしないこともできる。細かい論点を突いて「あり得なさ」を指摘することもできるだろう。でも、ここで大事なのは、私たちには「オルタナティブ(別の選択肢)」がある、ということだ。

 1980年代にマーガレット・サッチャーが「There is no alternative」と盛んに言い、安倍元首相が「この道しかない」なんてまねしていたけれど、そう言われると、妙な力強さを錯覚で感じてそんな気がしてしまう。でも「別の選択肢」はあるのだ。私たちが選びさえすれば..。

 冒頭に「異色の小説」と書いたけれど、実は著者の理想を小説の形で主張した異色の「ポスト資本主義宣言」だった。

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伝説の経営者たちの成功と失敗から学ぶ 経営者図鑑

書影

著 者:鈴木博毅
出版社:かんき出版
出版日:2021年6月7日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 偉大な経営者たちもスタート地点では偉大ではなかったと改めて知った本。

 著者の鈴木博毅さんから献本いただきました。感謝。ベストセラー「戦略図鑑」第二弾。

 19世紀のアンドリュー・カーネギー、ジョン・ロックフェラー、渋沢栄一といった、いまや物語(例えば大河ドラマとか)として語られる伝説の経営者から、現役のイーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグを経て、ブライアン・チェスキーまで、国内外の名経営者30人をまとめた「図鑑」

 30人すべてに対して、「概要」「サクセス・ストーリー」「世界企業へのステップ」「悩みと答え」「成功のポイント」を3つ、コラム(マンガ)、の共通フォーマットで6ページで構成。コラムは失敗談や意外なエピソードを紹介している。

 例えば「本田宗一郎」。成功のポイントは「得意に飛び込む行動力」「徹底的なブルーオーシャン思考」「自分と違う人間と組み、違う才能を集める流儀」の3つ。コラムは、基礎知識がゼロで事業転換したために、貯蓄が底をつき、奥さまのものまで質屋に入れたエピソードを紹介している。

 本書のプロローグの冒頭に「みんなが、問題解決力を問われる時代に入った」とあって、誠にその通りだと思う。新型コロナウイルスのような、生活に広く大きな影響を突然与える事態には、だれかが問題を解決してくれるのを待っていては間に合わない。

 だからと言って、成功した経営者の話が何の役に立つのか?という疑問はある。伝説の経営者はもちろん、現役の経営者の成功談も、成功したとたんに過去になるのだから、それをマネしても成功しない。いやその前に、私が解決すべき問題は、経営者たちのそれとはまったく違う。

 それでも本書は有用で学ぶことが多い。それは問題に対する「態度」とか「考え方」とかだ。それらは問題に関わらず共通することがある。本田宗一郎の「行動すること」「ブルーオーシャン思考」からは「一歩踏み出す」という「態度」が、「自分と違う人間と組む」は仲間づくりの「考え方」が学べる。著者が「悩み」や「失敗」も紹介したのは、そこからも多くを学べるからだろう。

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21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由

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著 者:佐宗邦威
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2015年9月1日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 紙に書いて貼っておきたいことがたくさん載っていた本。こういうの好きです。

 本書は、ビジネスにおける「デザイン思考」の重要性を説いて、その実践方法を著者自身の経験から指南する。

 著者は、P&G社に入社しマーケターとしてデータ分析などの「MBA的」なビジネス術を身につけた後、「市場のルールを変えてしまうようなイノベーションを起こせる一流のマーケターになりたい」と思うようになり「デザイン思考」にたどり着く。そしてイリノイ工科大学デザインスクール(ID)で学ぶ。本書の多くはそのIDでのメソッドや著者の経験が披露されている。

 「デザイン思考」が何を指すのか?は、もうそれは前提知識なのか、明確な定義がされることなく本書の中で使われている。まぁ簡潔な定義を示す代わりに、本書の全部を使ってそれを語っている、とも言える。

 私なりに「こういうことか」と思ったことを2つ紹介する。1つ目は、著者の経歴の紹介で使った「MBA的」との対比だ。MBAは論理的思考をベースにした「ビジネスをより効率的にするやり方」を教える。対してデザインは、今までの延長線上にはない「まったく新しい事業、商品などを創るやり方」を教える。(と言っても今やMBAコースでデザインを取り入れるビジネススクールは多いらしい)

 2つ目。「デザイン思考」の「1丁目1番地」は「デザイナーの思考法」だという。これだけでは言葉を分解しただけのようでよく分からないので補足すると、重要なのはリサーチもアイデアもビジュアル情報で捉えること。著者の説明によると、リサーチのために訪問調査をすると、200~300枚も写真を撮ることも普通らしい。アイデアはイラストにしたり、ポストイットを使ってビジュアル化する。

 「デザイナーの思考」のその他には例えば、「振れ幅の大きい世界に触れる」例えばユーザーリサーチをするなら極端な好みを持ったユーザーを敢えて選ぶ。あるいは「アナロジー思考」とツールとしての「比喩」自分が取り組んでいるテーマを、全然別のもので例えて置き換える」など。意図していなかった繋がりや共通点が見えて「思考のジャンプ」につながる。

 一流のデザインファーム出身の優秀なデザイナーの共通点、がとても印象に残った。彼らは自分のアイデアのプレゼンを「私が解決したい課題は...(the problem I would like to solve is..)という言葉で始めるらしい。優秀なデザイナーは「課題解決」を自分の仕事として捉えているということ。まねして使いたい。

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デジタル・ミニマリスト

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著 者:カル・ニューポート 訳:池田真紀子
出版社:早川書房
出版日:2019年10月15日 初版 2020年7月15日 3版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 読んでさっそくTwitterを開くのを1週間に1回だけにした本。

 本書は「デジタル・ミニマリズム」の基礎となる概念や実践の方法を説明したもの。「デジタル・ミニマリズム」は本書の中で定義がある。

 「自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否かを基準に厳選した一握りのツールの最適化を図り、オンラインで費やす時間をそれだけに集中して、ほかのものは惜しまず手放すようなテクノロジー利用の哲学」

 つまりは、デジタルツールの利用は自分で選んだ本当に必要なものだけにして、できるだけ少なく(ミニマムに)しよう、ということだ。そして、こんなことをわざわざ言うには前提がある。私たち(の多くは)、SNSやニュース、ストリーミングメディアなどのデジタルツールを使いすぎているのだ。

 もちろん人によって違うけれど、本書が引用した調査によれば、Facebookの「平均的なユーザー」は、ソーシャルメディアと関連サービスに1日2時間を費やし、スマートフォンなどのデバイスを85回もチェックする。しかし、本当に問題なのは時間や頻度ではない、ユーザーがデジタルツールの利用のコントロールを失いつつあることだ、と著者は言う。

 それには「承認欲求」と「間歇強化」という人間の心理が関係している。「承認欲求」は言わずもがな。「間歇強化」とは、報酬を予期せぬパターンで与えられると喜びが大きくなる、というものだ。「いいね!」されているかも?コメントが付いているかも?その期待は、叶う時も叶わない時もある。まさに「予期せぬパターンの報酬」だ。

 スマホの新着を占める赤い丸数字(赤い色にも心理的な意味がある)を見るとチェックせずにはいられないのは、そういう心理的な理由だ。人間の心理に基づく行動だから、これに抗ってコントロールするのは難しい。さらに留意すべきなことは、この状態はサービス提供企業が意図して作り出している。もう私たちはサービス提供企業に操られているも同然だ。

 SNSを使わないと「でも何か役に立ちそうな情報を見逃してしまうかもしれないでしょう?」と不安を口にする人が多いらしい。それに著者はこうコメントしている。

「使ってみなよ、意外なメリットがあるかもしれないから」というのは、商品の売りこみ文句として史上最悪の一つに違いない。

 ごもっともで。

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不平等と再分配の経済学

書影

著 者:トマ・ピケティ 訳:尾上修悟
出版社:明石書店
出版日:2020年2月28日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 分量を目算して軽い気持ちで手を出したら、読むのがけっこうたいへんだった本。

 著者のトマ・ピケティさんはフランスの経済学者で、数年前に「21世紀の資本」という著書が世界的なベストセラーになって、日本でも知られるようになった。その本は、注釈を含めて700ページを超える大書で、告白すると、私は読み通すことができなかった。本書は200ページあまりで「これならば...」と思って読んでみた。

 本書のテーマは、「不平等」と「再分配」によるその解消。

 本書で扱う「不平等」は大きく2つで、「資本」と「労働」の間の不平等と、「労働所得」の不平等。前者は、機械や設備などの「資本を持つ資本家」と「労働力を提供する労働者」の間の不平等。後者は、高賃金の労働者と低賃金の労働者の間の所得の不平等だ。

そして「再分配」も2つ。「直接的」再分配と「財政的」再分配。前者は、不平等で劣位にある労働者や低賃金の労働者の「賃金を増やす」方法で、後者は、一旦課税によって資本家や高賃金の労働者から徴収して、それを劣位にある労働者に分配する方法。

 本書は、この2つの「不平等」のそれぞれについて、どちらの「再分配」が望ましいのかを、国別のマクロな統計を駆使して検討する。

 ページ数に比して読むのに時間のかかる本だった。元の文章がそうなのか、訳文がそうなのか(「訳者解題」を読むと両方の可能性がある)、複雑な構造の文章で、理解するのに集中を要する。

 「このような~」「これらの~」と、前の段落を受けての深堀りが繰り返されるのはまだしも、「しかし...ところが...」と「逆接の逆接」があったり、けっこう長い論説の最後に、「しかしこのことが...実現されるとは考えられない」と否定してみたり。(関西人なら「考えられへんのか~い!」とツッコむと思う)

 最後に、本書のテーマとは別に感じたことを。統計による国際比較をしているのだけれど、英国や米国(著者は「アングロ・サクソン諸国」と称している)と、フランスではずいぶん様子が違い、ドイツもまた違う(日本にはほとんど触れられない)。日本語に訳される海外の経済書は、おそらく圧倒的に米国(か英国)のものだと思う。国によってこうも違うのであれば、この偏重は問題だと思った。

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人は話し方が9割

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著 者:永松茂久
出版社:すばる舎
出版日:2019年9月14日 第1刷 2020年4月19日 第15刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 会話とは双方向のものなのだ、と当たり前のことを再確認した本。

 薦めてくれる友人がいて読んでみた。実は以前に同じタイトルの本を間違えて読んだことがある。

 「話し方」それもプレゼンや面接のような特別な舞台ではなくて、職場や家族、友人、配偶者といった身近な人たちとの日常的な場面での「話し方」に焦点を当てた指南書。「話し方を変えるだけで人生の9割が変わります」と、著者は断言する。

 4つの章に分けて合計37のポイントを「話し方のコツ」として紹介。4つの章は「人生は「話し方」で9割決まる」「「また会いたい」と思われる人の話し方」「人に嫌われない話し方」「人を動かす人の話し方」。

 ポイントは例えば「「否定のない空間」に身を置いて、自己肯定感を高める」。著者によれば「話す力は「スキル」より「メンタル」」なのだそうだ。自信がないと、だれでもうまく話せない。自信があれば話しやすい。自分に自信がある「自己肯定感」を高めるには「否定されない」ことが有効、そういう空間を作るためには「自分も他人を否定しない」ことが大事。

 こんな感じで本書には「会話に対する姿勢や考え方」のポイントが多く、「言い回しの工夫」といったテクニックは少ない。それは著者も「はじめに」で言っている。「言葉だけのテクニックが欲しい方は、この本はお勧めしません」と。「他の本をお探しください」とまで。

 とは言え、本書にはテクニック的なことも書かれている。もっと言えばそれを身につけるための、日々の暮らしの工夫にまで落とし込んである。例えば「拡張話法」のキーワードをトイレとか天井に貼って、1日1回は見るようにする、とか。

 「人と話すのが苦手」でも別に構わないのでは?と私は思う。でも上手になりたいと思う人は一読をおススメ。あぁそうだ。「自分は話すのが得意、いくらでも話していられる」という人にもぜひ読んで欲しい。

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日本の文化をデジタル世界に伝える

書影

著 者:永﨑研宣
出版社:樹書房
出版日:2019年9月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

やっぱり本からは得るものが大きいなぁ、と思った本。何度も読んで参考にしたい。

本書は、日本の文化に関する資料の中で、特に紙媒体で共有されてきた資料を、デジタルの世界で情報として流通させる、より端的に言えばWEBに公開することを考察したもの。「デジタルデータへの変換の考え方」から「利便性を高める工夫」「情報を長く維持するための留意事項」「可用性を高めるための国際標準」「実際の公開時のポイント」「評価の問題」まで、本来なら何冊かの本になりそうな情報がコンパクトに収められている。

実は、私は「デジタルアーカイブ」に仕事として携わっている。本誌にはとても有用な情報が多かった。その中で深く共感を覚えたことを紹介する。それは「デジタル社会に移した後、なるべく長持ちさせるには」という章。情報を長く維持するための留意事項がいくつか挙げられている。

まず何より「なるべく長持ちさせるには」という章を設けたこと自体に共感。公開時に最適と判断して採用した技術も、いずれは最適ではなくなる。感覚的で申し訳ないけれど、5年ぐらいで古くなり、10年経つと使えなくなってしまうものもある。「長持ちさせるには」をテーマとすることは、10年とかの経験があるか、あるいはそのようなレガシーなコンテンツを抱えて、困ったことがある人でなければ思いつかないと思う。

また「幅広い利用・活用」を「長持ちさせる」要素として挙げていることにも共感。予算や人材に限りがあることもあって「使ってもらう」「評価してもらう」ことは、長く続けるために欠かせない。そしてたくさんの人に使ってもらうためには「利用条件を明確にして分かりやすく提示する」こともとても重要だ。これも言われてみれば明らかなことかもしれないけれど、自分で思いつくのには経験が必要だと思う。

ちょっと「これに気がつくなんて大したものだ。私も知ってたけど」という偉そうな印象の論評になってしまったけれど、これは「共感を覚えた」部分のこと。目から鱗が落ちる思いをしたところは、もっとたくさんある。

その最たるものが「(日本の文化を)デジタル世界に伝える」というタイトル。これは例えば「デジタル化と公開」とかいうのでも無難で問題なかったと思う。でも違う。デジタル世界は、世界の人々と未来の人々につながっている。「公開」が目的ではなくて、その人々に日本の文化を「伝える」ことが目的。それを私も明確に意識できた。よかった。

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