6.経済・実用書

20代のいま知っておくべきお金の常識50

書影

執  筆:有限会社verb
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2011年12月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書の編集の株式会社マルコ社様から献本いただきました。感謝。

 本書は、景気が悪く将来に不安がある今こそ知っておかなければならない「お金の常識」を、ファイナンシャル・プランナーなどの「お金のプロ」に取材してまとめたもの。税金や保険や年金といった「制度の常識」、貯金の仕方やおトクな預け先といった「貯め方の常識」、結婚や家の購入にかかる費用やローンの話といった「使い方の常識」などが網羅されている。

 タイトルによれば想定読者は20代の若者。運よく社会人としてのスタートが切れた人は、月々にまとまったお金が入る。入ったお金をパァっと使ってしまっていては将来は覚束ないし、だからと言って闇雲に節約して貯金すればいいというものでもない。そこで「お金のプロ」から、失敗しない使い方や貯め方を指南しようという訳だ。

 例を挙げるとこんなことが書いてある。給料から天引きされている社会保険料は、将来への保障費用で、会社も半額負担していること(自営業の人は全額自分で負担しなくてはならない)。貯蓄をするなら銀行の自動積立が便利なこと。結婚の挙式費用に平均で356万円(!!)もかかっていること。カードの支払いでリボルビング払いは厳禁であること...。

 良くも悪くも真面目に作った本だと思った。「良くも」の方は、お金に関する沢山のことを、広く万遍なく紹介したこと。テーマごとに全部で6人の「お金のプロ」の意見を聞き、20代の人に伝えたいことを、抜けがないように紙面が許す限りに詰め込んだ感じだ。

 「悪くも」の方は、上に書いたことの裏返しで、「常識」としては、こんなに多くのことは必要ではないだろうと思うことだ。また、本書の項目のほとんどは、「真面目」にルールに則ったことばかりだが、お金に関わるトラブルの多くは、ルールの外やグレーゾーンで起きている。投資やネットワークビジネスや資格講座の勧誘や詐欺など、社会に出るとたくさんの危険が待ち受けている。しかし、本書にはそういったことは触れられていないのが残念だ。

 最後に苦言を。全体的に校正が甘いようだ。誤字や「ら抜き」言葉や言い回しが変なところが散見された。表とそのタイトルが合っていないと思ったら、数ページ前の表のタイトルと同じだった、というのもある。校正をしっかりやれば防げたものだ。私も書類を作っていて同じような失敗を何度かしているが、それと出版物では求められる精度が違うはずだ。

 また、「お金の常識50」というタイトルだけれど、裏表紙に列挙されている「お金の常識」は21項目、本文の「お金の悩み」は39項目しかないし、本文の「常識」という吹き出しは、逆に100項目以上もある。「50」が何の数字なのか、私には分からなかった。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

経済は感情で動く はじめての行動経済学

書影

著 者:マッテオ・モッテルリーニ
出版社:紀伊國屋書店
出版日:2008年4月20日 第1刷発行 5月12日 第3刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 突然だけれど質問。あなたならどちらを選ぶ?

  A 3万円が確実に儲かる
  B 15万円が儲かる確率が25%で、まったく儲からない確率が75%

 答えは人それぞれだと思うが、本書が紹介する調査では、Aを選んだ人が84%だったそうだ。少し数学や経済学に明るい方ならお分かりのように、期待値はAが3万円(3万円×100%)、Bは3万7500円(15万円×25%)で、Bのほうが高い。Bを選ぶ方が合理的であるにも関わらず、Aを選ぶ人が圧倒的なのだ。。

 本書は、このように「不合理」な人間の経済行動を論じた「行動経済学」という学問領域の本で、「予想どおりに不合理」と同じジャンルだ。「伝統的な経済学」は、常に合理的な行動をする「ホモ・エコノミクス」を前提とする。上の質問で分かるように、多くの人は不合理な行動もしてしまうので、それでは現実への適応が難しい(もっと言えば「役に立たない」)。「行動経済学」は、その補完でありアンチテーゼでもある。

 では次の質問。あなたならどちらを選ぶ?

  C 10万円を確実に損する
  D 15万円を損する確率が75%、損失ゼロの確率が25%

 本書によれば、Dと答えた人が87%だったそうだ。期待値はCが-10万円(-10万円×100%)、Dは-11万2500円(-15万円×75%)。Dの方が損害の見込み額は大きい。どうらや人は、得をする時は安くても確実さを優先し、損をする時には危険でも賭けに出てしまうらしい。これではギャンブルで勝てないはずだ。

 本書ではこの他に、「赤味80%の豚肉は売れるけれど、脂肪分20%の豚肉は売れない」「何かを「した後悔」と「しなかった後悔」ではどちらが大きいか」「100万円得した喜びより、100万円損したショックの方がはるかに大きい」など、面白そうな話題が豊富。設問が約50個もある。重複もあるようだけれど、話のネタに良さそうだ。

 終盤の脳科学と経済行動を結びつけた「神経経済学」は、興味深いけれどまだその有用性が見えてこない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

プロフェッショナルを演じる仕事術

書影

著 者:若林計志
出版社:PHP研究所
出版日:2011年11月1日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。

 冒頭の「はじめに」に、「道を極めた「プロフェッショナル」からエッセンスを学ぶために「演じる」というやり方を紹介する」とある。本書のタイトルはこれに通じている。
 他人から何かを学ぶ時に、「自分」というものが壁になってしまう。「自分には合わない」と。その壁を越える方法として「演じる」、換言すれば「マネる」というわけだ。最終的には「単なるモノマネ」を超えることができる、としている。

 着眼点は良かった。成功した経営者の話を聞いてもピンと来ない、仮にヤル気になっても長続きしない。つまり、自分のものにならない。それぐらいなら、そっくりマネをしてプロフェッショナルを演じる。そのうちに自分の振る舞いだけでなく、思考や周囲の対応まで変わってくる。なかなか面白い考えだ。

 しかし、内容は少し分裂気味だった。章のタイトルと内容が合っていない。例えば第3章、タイトルは「プロフェッショナルのスゴさを「見える」化する」だ。それなのに、まず出てくるのは「自分を客観的に見るための3つの方法」だった。「自分」と「プロフェッショナル」という、主体と客体が不明瞭になってしまっている。
 さらに「自分を客観的に見るための3つの方法」の説明が進んでいくと、4P(Product、Price、Promotion、Placement)が出てくる。マーケティングを学んだ方ならお馴染みの、製品戦略のフレームワークだ。自分を客観的に見ることに、使えないとは言い切れないが、違和感は拭えない。

 もちろん全くバラバラなわけではなく、「見える化」→「(自分を)客観的に見る」→「(心理状態を)客観的に把握するフレームワーク」→「(製品戦略の)フレームワーク」と、関連した話題で話が転がっているのだ。だから読んでいても断絶は感じないのだけれど、当初の話題からはドンドン逸れてしまって、「何の話をしていたんだっけ?」となってしまう。

 この傾向は本書全体にも及んでいて、何の話か捉えにくくなってしまっている。ただ、著者が主張する「学ぶ姿勢」が大切なのも事実。私は、立川談春師匠の著書「赤めだか」から引用されていた、亡き談志師匠の言葉に沁み入った。「よく覚えとけ。現実は正解なんだ」 合掌。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

20代で読んでおきたい成功の教科書

書影

著 者:嶋田有孝
出版社:PHP研究所
出版日:2011年11月7日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の嶋田有孝さまから献本いただきました。感謝。

 著者は、「世の中には仕事に悩みや不安を抱えている方がとても多く、そういう方々に少しでも元気になってもらいたい」との思いから、若手のビジネスパーソン向けに、この本を書かれたそうだ。著者は私より3歳下、まぁ同年代と言わせてもらおう。私も、若い人たちに少しでも元気になってもらいたい。

 本書には、「ポジティブに生きていくためのものの見方、考え方」が、「プラス発想をしよう」「ストレスを乗り越えよう」など5章に分かれて、全部で40個紹介されている。それぞれに「下を向いて立ちすくんでいないで、前を向いて歩きだそうよ」という著者の励ましが滲む。

 その1つめは「事実の解釈を変えてみよう」。頬を縫うケガをした上司の例で、「悪い出来事だ。俺はついてない」と解釈するか、「少し上か下だったら、目か口をやられていた、俺はついている」と解釈するかの違いについて述べている。ケガをした「事実は変えられない」けれど、「解釈は自分で変えられる」というわけだ。
 ケガをしたのに「ついている」と思え、というのはかなり無理がある。同じように、プラスの意味に捉えるのが難しい出来事もたくさんあるでしょう?、と問いたいところだ。しかし、この問いへの著者の答えは明快だった「無理やりにでもプラスの解釈を考えてみる。それだけで十分」ということだった。そうした考えは、ほんの僅かかもしれないけれど、事態を良い方向へ進めると、私も思う。

 実はこの1つめの「事実の解釈を変えてみよう」は、その後の39個のほとんどに通じている。失敗した時に、失業した時に、悔しい目に会った時に、不満を感じた時に...それをどう解釈するか。また、心配ごとができた時に、目標が出来た時に、困難に直面した時に...どういう選択をするか。
 つまりは、1つの「事実」に対するアクションの「選択」の問題、ということだ。それは、それぞれの項目に付いているチャート図のほとんどが、「Aを選ぶかBを選ぶか」2つに分かれる図になっていることからも分かる。
 タイトルの「成功の教科書」や帯の「これであなたの将来は約束された!」という言葉はどうかと思うけれど、たくさんの方が本書を読んで、「要は選択の問題で、選択するのは自分なのだ」と気付いてくれれば、少し世の中が元気になると思う。

(2011.11.4 追記)
タイトルと帯の言葉は、出版社が決めたもので、著者の意思ではないそうです。そう言えば、「恋の六法全書」の著者の長嶺超輝さんのベストセラー「裁判官の爆笑お言葉集 」もタイトルが内容と合わないのですが、これも出版社が著者の意に反してつけたんだそうです。出版社の「売るための工夫」なんでしょうが、消費者を欺くようでいただけませんね。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

もっと論理的な文章を書く

書影

著 者:木山泰嗣
出版社:実務教育出版
出版日:2011年9月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 まずは、「こんな本をよく出したなぁ」と感心した。「こんな本」とは「論理的な文章の書き方を書いた本」という意味だ。論理的な文書の書き方を書いた本の文章は、当然論理的でなければならない。万一そうでなければ、本も著者も自滅してしまう。
 そうすると読む方も、「どれどれ、どれだけ論理的か見てやろうじゃないか」と、意地悪くなりがちだ。意地悪く読めば、アラの一つや二つは見つかる。こんな本を出す著者はよほど勇気があるか、自信があるか、浅薄なのか。弁護士で法科大学院で文章セミナーの講師を務めるというから、この著者は「自信がある」のだろう。

 私も実は意地悪く読み始めた。いくつかの「論理的でない(少なくとも私はそう思う)」文章も見つかった。それを書評に書けば、弁護士の著者の鼻を明かして、ちょっと気分が良かったかもしれない。しかし3分の1ぐらい読んできたところで、著者のこんな文章が目に留まった。

 「でも、しかし」とは考えずに素直にお読みください。

 そうなのだ。素直に読むことが肝要なのだ。意地悪く読めば気分が良いかもしれないが、素直に読めば得るものがある。どっちを取るかは読む人次第なのだ。
 以前に読んだものにあった、「講演会に来て「目新しいことがなく、得るものがなかった」という人がいますが..」という話を思い出した。いわゆる「エリート」は勉強熱心な人が多くて、本もよく読んで講演会などにも顔を出す。だから大概のことは知識として知っている。けれども、知っているのと実行するのは別のこと。
 学ぶべきは「目新しいすぐに役立つHowTo」ではなく、如何にして実現するかということ。それを実現した当人が目の前にいても「これはもう知っている」と、感覚をシャットアウトしたら何も学べない。ざっと言うとこんな話だった。

 今回の私の場合は、最初っからアラ探しをしていたわけだから、「これはもう知っている」以前の問題だけれど、「学ぼうとする態度次第」という部分は共通する。そう思って読み返すと、この本は結構内容豊富だった。やや「カタチ」に重点が置かれ過ぎな感じがするが、著者は、「すぐに役立つHowTo」の提供を意識したのだと思う。

 少しだけ本書を補足したい。本書の本当のテーマは「説得力のある文章を書こう」なのだ。本書でいう文章とは、小説などではなく主にはビジネス文書の文章のこと。そしてビジネス文書は「説得するための文章」だ。著者は「論理的な文章」=「説得力のある文章」だと考えている。だから「論理的な文章を書く」ようにしましょう、とタイトルにつながっている。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

20代で身につけたい質問力

書影

著 者:清宮普美代
出版社:中経出版
出版日:2011年7月6日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者が代表を務める株式会社ラーニングデザインセンター様から献本いただきました。感謝。

 「20代」という若い世代、組織で「新入り」の世代がタイトルになっているので、一見すると「先輩(上司)に好かれる上手い質問の仕方」という「処世術」っぽいものを想像するが、本書はそういう本ではない。
 本書冒頭に曰く、質問力が高いと「人間関係がうまくいきます」「問題解決がうまくいきます」「人を動かすことができます」「自己成長につながります」と、本書が言う「質問力」という力は随分と強力なのだ。

 この主張には、裏打ちがある。著者は、世界で9人しかいない、日本人としては初めての世界アクションラーニング(AL)機構の認定マスターALコーチ。「アクションラーニング(AL)」とは、現実の問題に対処する過程で生じる行動などを通じて、個人や組織などの問題解決力を養う学習法のこと。
 そのALの特徴的で重要な要素が「質問」。つまり、著者は「質問」を問題解決力や組織力の向上につなげる第一人者。「処世術」レベルのHowTo本とは違って、もっと大きく高いゴールが設定されていて当然なのだ。

 全部で40項目ほどあるが、特に腑に落ちたのが「クローズ質問」と「オープン質問」について。例を挙げると、「プロジェクトは順調に進んでいるか?」は「クローズ」で、「どうすれば順調に進むだろうか?」は「オープン」。
 「クローズ」は、「はい」「いいえ」で答えられる→相手の自由な意見(アイデア)は出てこない。そして「順調に進んでるんだよな!」というニュアンスを含んでしまう→相手は押し付けられた感じがする、他人事に聞こえる。「オープン」はその逆。問題解決にはアイデアが必要だし、一緒に事に当たる姿勢も重要だから、「オープン質問」をうまく使いこなしたいところだ。

 さて、上の「オープン質問」は、ある程度上の立場でこそ役に立つ。このことから分かるとおり、本書は20代という世代限定の本ではない。私のように50歳に届きそうになっていても読むべきことは多い。タイトルに「20代」が謳ってあるのは「20代の人はチャンスです。若いうちはどんどん質問をしても許されます(「はじめに」より)」ということらしい。
 そう、年季が入ってくると聞けなくなることもある。「クローズ質問」が多くなる。自戒を得た本でもあった。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

ひたむきな人のお店を助ける 魔法のノート

書影

著 者:眞喜屋実行
出版社:ぱる出版
出版日:2011年7月1日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の眞喜屋実行さまから献本いただきました。感謝。

 主人公は山田一歩。大学4年生。学校近くの地鶏屋のアルバイトをしていた彼女は、店主の入院によって店長代理になり、おまけに店の立て直しをしなくてはならなくなった。銀行への返済が滞っており、滞納分だけでも納めないと店を手放さないといけないからだ。期限は3か月あまり。
 そんな彼女の前に、亡くなったはずの父が現れる。「しばらく前に送ったノートはあるかい?きっと今の一歩に役立つはずだよ」と告げた。ノートとは、父が亡くなる直前に一歩に送ったもの。各ページにひと言ふた言書いてあるだけのノート。一歩が最初に開いたページには「窓の外は、雪」と書かれていた。はたしてその意味は?

 本書は、一歩が店の経営を立て直していく、物語形式の実用書だ。近いところでは「もしドラ」が思い浮かぶ(「もしドラ」の著者の岩崎夏海さんが、帯に推薦を寄せている)。私が思いつく限りでも、古くは「金持ち父さん貧乏父さん」や「ザ・ゴール」以降、結構売れた本が何冊かある。
 売れた本と言えば「ソフィーの世界 」「夢をかなえるゾウ」も、それぞれ「哲学書」「自己啓発書」を物語形式にしたものだ。人に何かを伝えようとする時、物語はとても強力な方法なのだろう。100年、1000年を越えて語り継がれるものもあるのだから。

 ただし難点もある。実用書なら実用書としての内容と、物語としての魅力との両方が揃わないと、中途半端なものになってしまう。著者は販売促進関連の仕事が本職で、それについては自信も持っていらっしゃる。だから、本書は実用書としての内容は、地に足の着いた確かなものを感じた。サービス精神からか、いろいろな要素を入れ過ぎた感はあるが、物語としての魅力も、最後まで飽きずに読めるのでそれなりにある。及第点といったところだろうか。

 そうそう、長い物語を今回初めて書いた著者は、「窓の外は、雪」を地で行ったことになる。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

利益を生み出す逆転発想

書影

著 者:川合善大
出版社:かんき出版
出版日:2011年6月8日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者が社長を務める株式会社にちほシンクタンク様から献本いただきました。感謝。

 著者の会社は、新規ビジネス創造・経営支援を行う、経営コンサルタント会社。そして本書表紙のコピーによれば、この会社は31年間増収増益なのだそうだ。実は私は中小企業診断士の端くれで、プロコンサルタントの知り合いも多い。中には自分の会社の業績が思わしくない人もいて、「そんなところにコンサル頼みたくないよねぇ」と、仲間内だけで言える笑えない冗談も聞く。翻って言えば著者の「31年間増収増益」には、大変強い説得力を感じる。

 まず、著者の言わんとすることを、逆の面から端的に表している言葉を引用する。「ピンクの工具箱などは売れないでしょう」 これはある商品で、それまでなかったピンク色を作ったらヒットした、という例を踏まえた著者の提案に、工具箱の製造メーカーの社長が返した言葉だ。
 この社長は「工具箱のことなら誰よりも知っている」と自負していたことだろう。しかし、世の中も客の要求も変わってきている。「ピンクの工具箱は売れない」と、自分の経験だけで判断してしまっては、新しい商品もニーズも生まれない。つまり「固定観念を捨てろ」ということだ。

 固定観念を捨てれば、発想は拡がる。「早さ」でなく「遅さ」で勝負。「安さ」でなく「高さ」がウケる。「商品」を売るな。本書には、タイトル通りの逆転発想の例がたくさん紹介されている。もちろん、他と反対のことをやればいいというのではない。その発想の底には徹底した顧客志向がある。客の心になり切る、できないなら客に直接聞くのだ。

 とは言え、数ある例の中には、うまく行きそうにないと感じるものもある。私の「固定観念」が邪魔しているだけだ、ということもあるが、著者のこんな言葉を見つけて、私は得心がいった。きっとこれが本質であり、31年間増収増益の秘訣のひとつでもあるに違いない。

いずれにしても頭を使って様々な手を打ち出さないと、ヒットは出ない。事業転換というのは成功率の低いものなのです。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

不景気でも儲かり続ける店がしていること

書影

著 者:米満和彦
出版社:同文館出版
出版日:2011年5月2日初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の米満和彦さんから献本いただきました。感謝。著者には以前に「「ゼロ円販促」を成功させる5つの法則」もいただいています。

 本書で書かれているのは「新規顧客獲得」→「固定客(定期的に来店してくれる客)化」→「ファン客(信者的な客)化」という「3段階必勝法」。客商売をしている経営者や店主で、こうした流れを考えたことがない人はいないだろう。率直に言ってこの流れには、オリジナリティは全くない。しかし著者は言う。「知っているから実践しない人ばかり」。大事なのは「実践すること」。そして、本書に書かれたその方法は、著者が経験から導き出したオリジナルなものだ。

 「物事はシンプルに考えよう」と本書の最初の方で著者が述べている。シンプルな方が却って普遍性もあるし、何よりも取り組みやすいからだ。そもそも「販促の3段階必勝法」は、「新規顧客」から「ファン客」へのシンプルな一本道だ。そのベースには「お客は知っている店(人)から買う」「知っている人=信頼できる人」という、シンプルな考え方がある。
 この「シンプルさ」をどう評価するかは人それぞれだろう。私は「シンプル過ぎる」と思う部分もあった。お客がそんなに思い通りににはならないだろう、という気もした。また、「知っている人=信頼できる人」と言われても、私はそう思わない。「知らない人→信頼できない人」が正しくても、その裏は正しいとは限らない。

 ただし、このことは本書の価値をそれほど減じるものではない。書かれている販促方法は、その一つ一つのアイデアが的を射たものが多い。冒頭に書いたように、これらは著者が経験から導き出したもので、うまく行った実績もある。それに大事なのは「実践すること」。私もさっそく、仕事で月に1回出しているニュースレターに「人に関するコンテンツ」を入れてみた。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

書影

著 者:岩崎夏海
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2009年12月3日 第1刷 2010年12月7日 第23刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 タイトルが長いので略して「もしドラ」。「今さら?」あるいは「今ごろ?」感は否めない。公式サイトによると、電子版もあわせて253万部、NHKでアニメ化され、その全10話が明日25日から月~金で一挙放送される。コミックスは5月2日に発売、映画は6月4日に公開。何ともすごい勢いだ。「お化け商品」だ。

 内容は長いタイトルが表す通り。高校の野球部の女子マネージャーが、「マネジメント」という本を読んで、野球部の組織改革を進める。目指すは「甲子園」。「マネジメント」は、オーストリアの経営学者であるドラッカーが、1974年に刊行した経営学の大著だ。
 この本について、本書の中で書店の店員が、「「マネジメント」について書かれた本の中で、最も有名なもの」と言っているが、それはウソでも誇張でもないと思う。25年余り前に、マーケティング専攻の学生だった私も読んだ。マーケティングや企業経営を志す人で、この本を知らない人ないない、とは言わないまでも少数派なはずだ。

 だから興味はあった。一方で、「夢をかなえるゾウ」のレビューにも書いたが、私は過去の経験から「バカ売れしている本はハズレが多い」と思ってしまっている。本書もあまり期待できないと思っていた。「マネジメント」を読んだことがあるという、(全く無意味な)自意識も期待に水を差したことも否定しない。
 結果として、良くも悪くも読む前に私が思っていた通りの本だった。決して「ハズレ」とは言わない。読みやすくて、ちょっとタメになって、さらにちょっとイイ話。読んで損はない。ちょっと悲しい出来事があることを除けば、暗い気持ちになることもない。しかし、そんな本は他にもたくさんある。

 ただ、私は「マネジメント」を読んだけれど、主人公のようにそれを現実に当てはめようと、真剣に考えたことはなかった。その反省は、私が本書から得たものだと言える。...と、ここまで考えたところで、ある考えが閃いた。「この本自体が「マネジメント」の成果だ」

 本書の中で「真のマーケティングとは何か?」と問う場面で、「マネジメント」はこう答える。「顧客からスタートする。...「顧客は何を買いたいか」を問う」。
 一見難しそうな「組織経営」を分かりやすく伝える「読みやすくて、ちょっとタメになって、さらにちょっとイイ話」。そして「女子高校生」と「経営学の大著」のギャップ。多くの人の注意を引き、多くの人の欲求に応える。まさにマーケティングの成果がここにある。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)