日本の反知性主義

編  者:内田樹
出版社:晶文社
出版日:2015年3月30日 初版 4月25日 4刷
評 価:☆☆☆(説明)

 編者であるフランス現代思想の研究者である内田樹さんが、「反知性主義」を主題として各界の論者に寄稿を依頼してまとめた本。依頼に応じたのは、赤坂真理、小田嶋隆、白井聡、想田和弘、高橋源一郎、仲野徹、名越康文、平川克美、鷲田清一の9人。

 「反知性主義」とは、1950年代の米国で言われ始めた言葉で、1963年には「アメリカの反知性主義」という本が出版され、その本はピューリッツア賞を受賞している。そこでは「反知性主義」は、「知識人や知識人の意見の偏重に対する反感・アンチテーゼ」というような意味で使われている(らしい。まだ読んでいないので)。

 半世紀後の現在の日本では「反知性主義」という言葉が、「知性を働かせない」という意味をはじめとして幅広く使われる。場合によっては正反対の意味にさえなっている。そのあいまいさを払拭するため、本書でも、寄稿者のそれぞれが定義を試みている。そのため、本書全体としてのまとまりを欠いた感じがした。

 編者の内田さんは、「まえがき」で、安倍政権と「反知性主義」を結び付けている。寄稿者の顔ぶれを見ると、安倍政権への批判的な立場の人が多いようなので、そのような論考が続くのかと思ったが、そうはなっていない。「反知性主義」の料理の仕方に戸惑っている感じだ。

 このような混乱があることは認めるとしても、個々の論考は興味深かった。一つ例を挙げると、白井聡さんが紹介した「B層」の話。2005年の小泉郵政解散の総選挙の際に、自民党が選挙戦略として国民を、「構造改革に肯定的か否か」「IQが高いか低いか」の2軸で、AからDの4層に分けたとされるうちのBだ。

 つまりBは「構造改革に肯定的でIQが低い」層のこと。言い換えれば「マスコミ報道でそれ(規制改革など)がよいことだと喧伝すれば、それを鵜呑みにして「賛成」と叫ぶような人」となる。小泉自民党はこのB層を支持基盤とする綿密な戦略を立てて大勝利したらしい。

 「それを鵜呑みにして...」のB層が有権者の最大のボリュームゾーン、そう見られているのだ。大変な不快感を感じるけれども、よく考えれば、これが的を射た見方だと言わざるを得ない。念のため言うと「マスコミ報道で..」の部分は、他の言葉にも置き換えられる。「ネットで..」「あの人が..」とか。

 先に書いたように「反知性主義」という主題に関してはまとまりを欠いた感があるが、共通して感じたこともある。それは「自分の頭で考えること」と「対話」の重要性だ。

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