「イスラム国」の内部へ 悪夢の10日間

著 者:ユルゲン・トーデンヘーファー 訳:津村正樹
出版社:白水社
出版日:2016年6月25日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、ドイツ人のジャーナリストがイスラム国に入り、その内情を伝えた貴重なレポートだ。タイトルが示すとおり、命の危険と隣り合わせの悪夢のような10日間が、迫真のリアリズムによって記されている。

 その10日間に著者は、繰り返し繰り返しイスラム国の戦士と対話する。戦士の口からイスラム国側の言い分が話される。それはもうまったく肯定できない内容だ。著者は正面から反論する。たちまち雰囲気が険しいものになる。たくさんのジャーナリストが殺害されているイスラム国の中で...

 実は、著者がこんな危険なことをするのは、これが初めてではない。アフガニスタンでタリバンの指導者に、シリアでアルカイダのテロリストに、もっと以前から多くの過激派やテロリストと面会している。こうした行動には著者の信念が関係している。

 それは「真実を求めるには、常に双方との話し合いが必要になる」ということ。両方から言い分を聞かないと、本当のことは分からない、ということだ。これは著者の裁判官としての経験から引き出したものだ。

 紛れもない正論なのだけれど、この正論が今の世界では通じない。「テロリストとは交渉しない」が、日本を含むいわゆる西側諸国の首脳の態度。ドイツというその中の主要国にいて、テロリストの言い分を伝える著者は、激しいバッシングに会う。

 たぶん日本でも同じだろう。イラクやシリアで人質になったり、拘束されて殺害された日本人が、現にヒドイ言われ方をしている。何を恐れているのか、本書の刊行だって、いくつもの出版社から断られたそうだ(このことはとても憂慮すべきことだと思う)

 でも、私は思うのだ。著者のような人がいなければ、そこで本当には何があったのか、私たちは知りようがない。自分たちが正しいのかどうか分からない、と。

 最後に。著者の名誉のために。著者は決して無謀な冒険者ではない。今回の取材に関しても、事前にドイツ人のイスラム国戦士を通じて交渉を進めて、カリフ(イスラムの指導者の称号)による「安全で自由な通行を認める証書」を入手している。実際、その証書が彼を何度も助けることになる。

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