同じ時代を生きて

著 者:武田志房、窪島誠一郎
出版社:三月書房
出版日:2017年12月20日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

  70代の男性お二人の対談。武田志房さんは、観世流の能楽師。重要無形文化財総合指定や旭日雙光章を受けていらっしゃる。窪島誠一郎さんは、「無言館」という戦没画学生慰霊美術館の館主。スナックの経営や小劇場の立ち上げなどを経て、美術館の設立に至る。

 能楽師の家に生まれて能の世界一筋の武田さんと、靴修理職人の家で育ち、傍目には自由に生きてきた窪島さん。接点は窪島さんが武田さんに、無言館近くの前山寺での薪能を依頼したことらしい。その時の武田さんの窪島さんに対する第一印象は「絶対しゃべりたくないって感じ」だったそうだ。

 ところが話し始めると「いろんなことが一致して、楽しくて面白くて」と。人と人の相性というのは分からないものだ。ただ、少年時代からの思い出を語り合う本書を読んでいると、その相性の一端を感じる。少年時代から青年期まで、二人は同じ時代に同じ場所で暮らしている。一致するのはそのことが大きい。

 ただ、それだけではなくて「一致しないこと」も、よい方向に作用しているように思う。武田さんの話に出てくる生活は「セレブ」と言っていい。窪島さんは武田さんのことを「高級マグロ」と言い、自分のことは「川魚」に例える。その距離感を敢えて埋めようとしないことが、二人を引き寄せあっているようだ。

 まぁ悪く言えば、年寄り二人が語り合っているだけ。読んでも何も得るものはないかもしれない。繰り言っぽいものもあるし。でも、私にとっては「無言館」についての窪島さんの、気が合う武田さんが相手でポロリと出た感じの、(たぶん)本音が垣間見られたのが収穫。

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