22.有川ひろ

Story Seller(ストーリーセラー)

編  者:新潮社ストーリーセラー編集部
出版社:新潮社
出版日:2009年2月1日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、月刊の文芸誌「小説新潮」の2008年5月号別冊として発売された雑誌を文庫化したもの。伊坂幸太郎、有川浩、近藤史恵、佐藤友哉、本多孝好、道尾秀介、米澤穂信の7人の書き下ろし短編が収録されている。
 伊坂幸太郎さん、有川浩さんは私が好きだと公言している作家さんだし、近藤史恵さんは「サクリファイス」を読んで関心度が急上昇中。しかも収録されているのは「サクリファイス」の外伝だという。文庫で860円とは安くはないが、私にとっては何ともお買い得な1冊だ。私が注目した3人以外の4人も、それぞれに文学賞を受賞された方々だそうで、出版社が「物語のドリームチーム」なんて言うのも分かる。

 伊坂さんの作品は、短いながらもちょっと捻りの効いた伊坂作品らしいモノ。近藤さんの作品は「サクリファイス」のテイストそのままの外伝。すごく良かったとは言えないが、まぁ期待通りだった。ちょっと不満があるのは有川さんの作品。この作品は私は好きになれない。著者が「悪意」や「悲劇」も描けることは分かっているが、読後感は大事にしてほしい。
 「ドリームチーム」でもいつも最高のパフォーマンスが出せるとは限らない。一流選手も調整不足で良い結果を出せないことがある。詳しくは分からないが、雑誌に向けての書き下ろしと1冊の単行本の出版とは、かける時間や推敲の量が違うのかもしれない。奇しくも有川さんの作品は、雑誌にたくさんの物語を身を削るように書く小説家の話。著者もあんな風に雑誌に作品を書いているのかもと思うのはいけないことだろうか?

 そんな想像から、小説を読むなら文芸誌よりも本として出版されたものを読む方が良いのではないかと思った(例え文芸誌に連載されたものをまとめて単行本として出版するにしても)。ただ、文芸誌にも良いところはある。それは、新しい作家さんとの出会いだ。
 本を買うならなおさらだが、図書館で借りるにしても未知の作家さんの本を手にすることは限られている。その点、本書は私が知らない4人の作家さんの作品を読む機会になった。どの作品にもちょっと毒があるのだけれど、もう1冊ぐらい読んでみようかな、と思う。

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三匹のおっさん

著 者:有川浩
出版社:文藝春秋
出版日:2009年3月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 有川浩さんの最新作。図書館戦争シリーズで甘々のラブストーリーを展開して、「別冊1」ではついに私の「耐甘さ」の限界に達した後、様々な糖度のラブストリーを放ち続けた著者の最新作。その主人公は、何と還暦を迎えたじいさんの3人組(本人たちは「じいさん」と呼ばれたくはないようなので、タイトルは「おっさん」なのだ)。これでラブストーリーはツライ?著者の新境地か?

 物語は、おっさんの1人である、清田清一(通称キヨ)が勤め上げたゼネコンを定年退職する辺りから始まる。本書はキヨの「地域デビュー」の物語でもある。団塊の世代が定年後に地域に自分の居場所や暮らしを見つけることが「地域デビュー」。定番と言えばボランティア活動なんかだろう。キヨの考えもボランティアなのだが、その内容は定番とはとても言えない。キヨが思いついたボランティアは「自警団」だ。
 自警団のメンバーは3人。キヨは長らく剣道場の師範をしていた。長い物を持たせればちょっとした侍だ。仲間のシゲは柔道家で、こちらは組ませれば敵なし。もう1人のノリは町工場の経営者、腕っぷしは強くないが頭脳派。一撃必殺(殺さないように調節してある)のスタンガンを自作できる、ある意味では一番キケンなおっさんだ。

 楽しめた。痛快だった。街のチンピラにレイプ犯に詐欺師、悪徳商法..と、悪いヤツらが次々登場しては3人の成敗を受ける。還暦を迎えるとはいえ、武道の達人2人と自作メカで武装したおっさんだから、生半可なワルなんかひとたまりもない。抵抗しても武力で制圧されてオワリだ。(法律的にはちょっとヤリ過ぎかもしれない)
 冒頭の「著者の新境地か?」の答えはYESでありNOでもある。これまでの一連の作品で「ラブコメ」なんてなんか気恥かしい、という人でも本書はOKだろう。だからYES。しかし、ちょっと甘いラブストーリーが、ワル者成敗の痛快物語にしっかり絡んでいるし、家族の絆もあれば、犯罪のダークな描写まで含めて、著者のこれまでの作品の魅力や傾向は健在。新境地というよりは、ちょっと趣向を変えてみた、というところかも。それでNO。

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別冊 図書館戦争2

著 者:有川浩
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2008年8月9日初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「図書館戦争」シリーズの登場人物の誰かを主人公に据えた「別冊」シリーズの第2弾。それで、今回は誰が主人公かと言うと、大方の予想通り「柴崎&手塚」のカップルです。「別冊1」でも特に進展がなかったので、次に誰を書くかとなればこの2人しかないでしょう。

 今回は、ベタ甘ではない。「堂上&郁」の戦闘形バカップルは、ベッドへの「投げっぱなしジャーマン」という変わった愛情表現を見せて、相変わらず甘々なのだが、主人公2人(特に柴崎)は「甘えたら負け」だとばかりに、どこまでもクールだからだ。
 甘いどころか、今回のストーリーはビターです、ダークです。激甘の前作の続きで甘いと思って食べてみたら苦い。カカオ90%のチョコレートのようだ。苦くてもチョコだし「好き」って言う人もいる。この話も苦いけれどイイ話になっている。苦さの向こう側でやっとあの2人は、お互いを想う気持ちを確かめ合うことができた。
 そしてダークさで言えば、図書館内乱での郁の査問会の時以上の暗~い展開。第一稿を読んだ著者の旦那さんが「後味があまりににも気持ち悪くて..」とおっしゃったという。確かに、こんな「悪意」はこのシリーズではあまりお目にかからなかった。(その後、旦那さんの感想が生かされたので、これから読む方は「後味」のことは心配しないで読んでも大丈夫。)

 本書にはもう1つ別の物語が収められている。図書特殊部隊の緒方副隊長の恋物語だ。扉前の登場人物紹介にも出ていない、マイナーキャラが主人公として登場。でも、私はこの話がすごく好きだ。☆4つの4つ目は、この話のための星だ。それは、求めあったり、ぶつかりあったりしない恋愛の形に心が落ち着くからかもしれない。または、私が緒方と歳が近いせいかもしれない。大人の恋心もイイものだ。
 大人の恋心と言えば、玄田隊長と折口さんの話も読みたい。「別冊」もこれにて幕引きらしいが、有川さん、そんなこと言わずにもう1冊書いてもらえないだろうか?

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ラブコメ今昔

著 者:有川浩
出版社:角川書店
出版日:2008年6月30日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 軍事オタク、自衛隊オタクの著者の甘~い短編集。収録されている6編全部、自衛官の恋愛を描いている。こんな本は日本中、いや世界中で著者にしか書けない。本書の前に出た「阪急電車」や「別冊図書館戦争1」で、私の耐えうる限界に達していた甘さ加減は、今回は少し控え目だったかも(もちろん「著者としては」だが)。甘いは甘いんだけれど「イイ話」が多くて楽しめた、少しウルウルした。

 ウルウルには訳があるように思う。自衛官は、私たちとは違った価値観や規律の下で生活している。例えば、階級による上下関係が強く上官の命令は絶対だ。一番の違いは、一朝有事があれば任務遂行のために命を賭すことを義務付けられていることだ。このことが、ストーリーに作用しドラマ性を盛り上げている。
 本書で紹介されるところによると、自衛官の結婚式での上官の祝辞の定番に「喧嘩を翌日に持ち越さず、朝は必ず笑顔で..」というのがあるそうだ。この言葉が意味することは、本来は祝宴では口にできないことだ。それを敢えて言うところが更に深刻なのだ。
 それで、自衛官の平均年齢は30台前半だというから、普通に考えれば「恋愛したい」「そろそろ結婚も」という年代だ。彼ら彼女らが危険を背負いながら、一方では普通の若者としての生活や感情も持っている。これはもしかしたら、自衛隊にはギュッと凝縮された恋愛のドラマの下地があるのでは..。

 と、著者が考えたかどうかは定かではない(おそらく違う)が、著者は本書の執筆前に、自衛官たちに取材をしている。収録の短編の多くには、取材に基づくモデルがいる。だから、著者がかなり甘い味付けを施したとしても、本書は自衛官の姿の一端を見せてくれていると言える。
 自衛官の姿の別の一端と言う意味で付け加える。彼ら彼女らは、このように普通の若者たちなのだが、国民の安全と国防のために訓練された精神を持っている。中東へ赴く青年や、領空侵犯を警戒する任務につく青年のエピソードがあるが、そこには強い使命感が伺える。
 これも本書によると、軍事オタクの多くは戦闘機や戦車などの「装備」にこそ興味があり、それに詳しいそうだ。しかし著者は、「装備」以上にそこにいる「人」に興味を持ち、取材をすることで詳しくなったのだろう。やはり、こんな本は世界中で著者にしか書けない。

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別冊 図書館戦争1

著 者:有川浩
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2008年4月10日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 図書館戦争シリーズのスピンアウト。著者の良心で、一度幕を引いた以上は良化法関係で本編以上の騒ぎを起こすのは反則、ということで登場人物を中心に別冊シリーズを書くそうです。
 確かに、「図書館革命」の当麻亡命事件の最後の大立ち回り以上のことをやるなら、本編でもう1冊出せるんじゃないかと思う。

 それでもって、今回はどの登場人物に焦点を当てているかというと、堂上と郁の甘々カップル。なんだ、本編と変わりないじゃないか?とは思わないでもないが、まぁ別冊の1冊目としては順当な所か。個性的な登場人物と人間関係がたくさん仕込まれているから、これからも色々な物語を楽しめることでしょうし。

 そして、堂上と郁の物語である。「図書館革命」では、当麻亡命事件の後、時間を早送りにして2人は結婚してしまっているけれど、本書はその早送りの時間の間の出来事。つまり、愛の告白の後、結婚に至るまでの話。
 もう、ベッタベッタの砂糖菓子のような甘さだ。そりゃそうだ、世のたくさんのカップルについて言っても甘~い時期だ。まして、堂上と郁だ、有川浩が描く「図書館戦争」シリーズだ。著者も「ベタ甘が苦手な人は逃げて」と、あとがきで言っている。(あとがきで言われてもねぇ。もう読んじゃったし。)

 正直に言うと、読んでいてこっちが恥ずかしかった。もちろん、面白かったし、楽しめたし、細かいエピソードも良く練られていました。だからオススメです。勧められなくても「図書館戦争」シリーズを読んだ人なら読まずにいられないでしょうけど。
 でも、本編にはない恥ずかしさが漂います。恋人ができてから結婚に至るまでの女の子の様子を見ているなんて、恥ずかしいことだらけで。カワイイ下着を買いに行ったり、初めてのお泊りとか....。まぁ、郁の場合はそれだって普通じゃないんだけど。でも、これも小学生の娘にはキツいかな。

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阪急電車

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2008年1月25日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 私が、図書館戦争シリーズですっかりはまってしまった有川浩のラブストーリー。何組かのカップルの甘~~い物語が、阪急今津線を舞台に展開する。
 実は私は、この舞台のすぐ近くの出身、表紙のあずき色(著者は「えんじ色」と言っているが、私は昔から「あずき色」だと思っていた)の電車には数えきれないほど乗りました。
 ただ、今津線というのホントに短い支線で、特に用がなければ近くに住んでいても乗らない。私は10回ぐらいしか乗ったことがないので、さすがに駅や沿線の風景は思い出せない。有名私立大学や高校が多い、その場所の雰囲気は分かるだけに、それがちょっとくやしい。

 まず、話の運びがウマい。宝塚駅から西宮北口駅までの約15分、8駅の電車の進行に合わせて、往復で16個の小さな物語が展開する。同じ電車に乗り合わせた人々の話だから、それぞれの物語の主人公たちが、車内ですれ違ったり、ほんの少し言葉を交わしたりする。そして、そのほんの少し交わす言葉、いや、ただ横にいて聞いた会話が、人を勇気付けたり、救ったりもするのだ。

 そして、やっぱり甘い。冒頭から若い恋の予感たっぷりの滑り出しだし、その出会いのきっかけは市立図書館!なんとも初々しい舞台設定ではないですか。でも、いかに初々しくても、この2人はどちらも勤め人で、おそらく20代半ばぐらい。中高生の淡い恋ではないので、着実に愛に育っていく。

 でも、甘いだけでなくカッコいい大人の女性も何人か登場する。1人は孫を連れたおばあさん、1人は結婚式に白いドレスで乗り込んだ女性。その一言一言がカッコいい。あの場面で「素敵なブランドが台無しね」って言えるあの人は素晴らしい。

 最後に一言。図書館戦争はうちの小学生の娘にも読ませましたし、娘も面白く読んだようですが、本書はちょっとキツい。大人限定の話もあるので...

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塩の街

著 者:有川浩
出版社:メディアワークス
出版日:2007年6月30日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「図書館戦争」シリーズの著者のデビュー作。第10回電撃小説大賞受賞作で、2004年に文庫本として出版されたものを、大幅に改変、加筆をして単行本として出版された。文庫として出たものを改めて単行本にしたことや、改変の経緯が著者によるあとがきに記されている。文庫の方は読んでいないから比較はできないが、著者が変更したと言っている設定などは、本書の設定の方がいいと思う。

 宇宙から飛来した高さ500mにもなる巨大な塩の結晶が、東京湾に落ちた時から、人間が塩になってしまうという奇病が世界を襲う。日本の被害者は半年で推定8千万人!道行く人はその場で塩となって動きを止めて、その姿のまま塩の柱となり、やがて崩れ去ってしまう。街は、塩で覆われ白い風景が続く。
 こんな設定の物語。こんな世界で人々はどう生きていくのか?いつか解決するのか、それとも人類は滅亡してしまうのか?

 夢も希望も持てない状況なのだけれど、実際に人々は自暴自棄になり世の中は混乱しているのだけれど、これは有川浩のデビュー作。図書館戦争シリーズで戦闘組織の中のアマアマな愛をエンタテイメントとして描いた著者だ。本書でも描かれているのは、超アマアマな恋人たちのストーリーだ。

 主人公は、高校生の真奈と20代後半の秋葉の2人。本編と単行本化で追加された4編の短編全体を通して、2人の関係が描かれている。しかし、早くも本編の第1章で登場する遼一という男性の物語が、本書のテーマを雄弁に語っていた。そのテーマは「世界が終わる瞬間まで、人々は恋をしていた。」だ。

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図書館革命

著 者:有川浩
出版社:メディアワークス
出版日:2007年11月30日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「図書館戦争」シリーズの完結編。この巻で完結ということは前巻で予告されていた。だから、どう完結するのかが知りたくて、待ちに待ったという感じ。いろいろなシリーズを読んだけれど、こんな感じは久しぶりだった。

 あとがきによると、最終巻のネタだけは決めてあったらしい。さすがに、読み手を引き付けたまま離さない見事なネタでした。1巻、2巻、3巻と、それぞれに大規模な攻防戦や拉致事件、謀略などがあり、こうした盛り上がりを後半に置いて、それに向けて前半は徐々にスピードを上げつつ助走していく、という構成だったかと思う。今回はちょっと違う。
 堂上と郁がある作家を護衛して疾走する。途中で堂上が倒れ、郁に言う。「ここからお前一人で….大丈夫だ。お前はやれる」 郁は感極まって、愛の告白(の予告)をして、一人で任務の遂行に向かう。こんな劇的なシーンが登場するのだが、これがまだ物語の中盤なのだ。このシーン以前にも結構ハデな逃走劇やらあり、この後には、郁の大立ち回りまであって、今回は前半から終盤まで走りっぱなしなのだ。

 国際テロという事件の発端も、現在の世界情勢からすると生々しいが、その後の世間の反応などは、今まで以上に「ありえる」展開だから、なお生々しい。
 我々は、テロの危険にを身近に感じたときに、なお冷静に物事を見極められるだろうか?表現の自由や基本的人権の尊重など、憲法に明記されている権利が、テロの防止と相反すると考えられた時に、どのような行動を取るだろうか?答は、9.11直後の米国を見れば想像は付く。
 本書は、もちろんフィクションだし、著者はそんなことを世に訴えるために、このシリーズをしたためたのではないことも承知している。しかし、シリーズ全体の小気味よさの背景に、薄気味悪い未来も見え隠れしてしまう。

 結末は、私としては実に落ち着きの良い結末でした。シリーズが完結したことを祝福したいと思います。そして、登場人物たちの今後の人生について、近い将来に知る機会が来ることを願います。

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図書館危機

著 者:有川浩
出版社:メディアワークス
出版日:2007年3月5日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「図書館戦争」の続々編。確実に前々作、前作より面白い。前作よりダークな部分がなくて、私としては単純に楽しめた。元々、登場人物たちのそれぞれのストーリーが並行して進むことで、物語に厚みを持たせていたけれど、今回は、主人公の郁を中心にそれぞれのストーリーが縦横に織り込まれた織物のように展開する。
 中でも階級章の話は秀逸だ。階級章にあしらわれた花は、菊に見えるが実はカミツレ(カモミール)、花言葉は「苦難の中の力」。図書隊の成り立ちを表す重要な意味が込められていて、しかも郁と上官の関係を深めるエピソードだ。 あとがきにもそれらしいことが書いてあるが、著者の隠し玉だろう。この階級章は第一作から巻末についていたのだから、いつでも書けたエピソードをここで披露したわけだ。

 今回のテーマも、前作同様に図書館内の内部抗争だ。しかし原則派と行政派といったイデオロギーの対立ではなく、戦闘職と業務職という部門の間のあつれきだ。県から来た館長が防衛部の活動と権限を制限したことに始まり、女子寮では風呂に入る順番まで業務職が先だというのだから笑止だ。

 第三章も良い。あるタレントが、祖父の職業の呼び名が差別用語とされていることに対して感じた抵抗感、その気持ちが分かっていても、インタビュー記事を出版できない出版社、そしてこの煮詰まった状況を解決する技ありの解決策。話の中では、隊長が考え付いているのだが、本当は誰が考えたのだろう。著者自身だろうか?

 あとがきによれば、あと1巻出るそうだ。楽しみだ。

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図書館内乱

著 者:有川浩
出版社:メディアワークス
出版日:2006年9月30日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「図書館戦争」の続編、シリーズ化が決定したわけだ。とは言え、前作で振ってあった主人公と両親の関係や、上官とのいきさつなどが、本作で結論を得ることを考えると、少なくともこの2作目までの構想は、前作からあったと思われる。

 スピードとエンタテイメント性は前作のレベルを保っている。今回はそれに加えて、主人公周辺の登場人物の描き込みが進み、ストーリーが立体的になった。上官の1人には、もう子ども扱いできない、年下の幼なじみがいる。抜群の成績を誇る同僚には、意見が合わないが越えることもできない兄がいる。美人のルームメイトには心の葛藤がある、といった具合。
 前作が、なんとなくありがちなストーリーの軽さが否めなかったの対して、今回はドラマ性もあって深みも加わってGOOD。

 さて、今回のタイトルは「図書館内乱」、図書館内での争い。国家権力に抗する図書館も一枚岩ではない。「図書館の自由に関する宣言」を言葉通りに実践する「原則派」、行政がコントロールすべきだとする「行政派」があり、さらには図書館を国家機関に格上げしようと画策するエリートたちもいる。
 主人公のように、図書館が市民の権利を守ることは正しいのだ、いかなる場合も正しいことを行うのは正しい、という単純なものではない。
 宗教でも他の宗教との争いより、同じ宗教の中の異端排斥の方が苛烈だと言う。こちらの争いも、表面的には穏やかでも、ドンパチやっていた前作よりもダークで激しい戦いになっている。今後の展開にさらに注目。

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