5.ノンフィクション

黒島を忘れない

書影

著 者:小林広司
出版社:世論社
出版日:2014年11月25日 第1刷 2015年6月14日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の世論社さまから献本いただきました。感謝。

 本書は、太平洋戦争終戦間際の昭和20年に、特攻機で出撃するも機体不良等で航路途中の島に不時着した特攻隊員らと、彼らが不時着した島の島民たちの記録。その島の名が「黒島」。薩摩半島の先端の坊岬から南西60キロの海上に浮かぶ。当時は通信手段もなく、唯一の本土とのつながりであった連絡船も途絶え、孤立した島だった。

 その黒島の断崖の下で、瀕死の重傷を負った日本兵が発見される。柴田信也少尉。24歳。知覧基地を「隼」で出撃したが、機体不良のため帰投する途上でエンジンが止まり墜落、崖に激突した。島民らに救出され手厚い看護を受けるが、孤立した島には医者はおろか、満足な医薬品さえなかった。

 柴田少尉の救出から2週間後、知覧基地から双発の戦闘機「屠龍」で出撃した、安部正也少尉(21歳)が島の沖に不時着する。飛行機は逆さまに海面に激突したが、奇跡的にほとんど無傷だった。安部少尉は基地への帰還を強く希望。柴田少尉のことを隊に知らせるため、再出撃して特攻の任務を全うするためだ。

 この続きは是非本書を読んで欲しい。要約をすると大事なことが抜け落ちてしまう。その代り本書にまつわる別の話を紹介する。

 本書の発行日は2014年11月25日だけれど、著者である小林広司さんは、6年前の同日に亡くなっている。死の間際まで書き続けた遺稿を、奥さまが整理し、再取材・確認作業を経て、著者の七回忌に出版となった。

 特攻を扱った書籍は多く、中でも百田尚樹さんの「永遠の0」は話題になった。私は百田さん自身の昨今の言動には全く賛同できないけれど、作品そのものの価値は認めている。「戦争賛美」「デタラメ」という評価は当たらないと思っている。

 その上で言うけれど、「永遠の0」と本書には決定的な違いがある。あちらは「ドラマ」で、本書は「ドキュメンタリー」だ。著者による長い「はじめに」には「物語としてお読みいただきたい」とあるが、それは取材で足りない部分を、自分で補ったからだろう。ドキュメンタリーを撮る映画監督としての矜持の表れなのだと思う。

 「ドラマ」と「ドキュメンタリー」の違いは、これに触れた人の「誰かに伝えたい」という強い思いとして表れる。ドラマを見て「感動したよ」と他人に言うことはあっても、そのストーリーを伝えたいと強く思うことは稀だろう。

 しかし本書には、命を削るようにして書き続けた著者はもちろん、出版までの間にはたくさんの人の「伝えたい」という思いが重なっている。時にそれは「伝えなければ」という焦燥に近いものになる。詳しくは言わないけれど、本書が私の元に届くまでにも「伝えたい」という思いがリレーのように受け渡されてきた。今バトンは私のところにあるので、誰かに渡したい。誰か本書を読んで次の誰かに伝えて欲しい。

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福井モデル 未来は地方から始まる

書影

著 者:藤吉雅春
出版社:文藝春秋
出版日:2015年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 知り合いがFacebookで紹介していて、興味があったので手に取ってみた。

 本書は「都市再生」のモデルを、富山県と福井県での取り組みに求めたルポ。前提として「地方消滅」の「消滅可能性都市」が象徴する「地方の衰退・破壊」と、そんな中で北陸三県の「幸福度」が高いという評価がある。2011年の法政大学等の調査によると、都道府県幸福度ランキングでは、1位福井県、2位富山県、3位石川県となっている。

 まずは富山市の事例。国内ではあまり知られていない事実だけれど、富山市は世界中から注目を浴びているらしい。講演の要請で、市長は世界中から引っ張りだこなのだという。理由は、OECDの「コンパクトシティ政策報告書」で、「世界の先進五都市」として評価されたからだ。

 本書には富山市の「コンパクトシティ構想」が、詳細に紹介されている。この施策が成功しているのは、市長の決断力と実行力の賜物だ。私は行政関連の仕事をしている。だから、こういうことは「行政が一番苦手としている」ことが分かる。ただ「行政にしかできない」ことでもある。

 次は福井県鯖江市の事例。鯖江市はメガネの産地として知られる。眼鏡フレームの国内シェア96%を占める。ただし90年代以降に中国の台頭により大打撃を受け、出荷額はピーク時の半分以下まで激減した。「日本でもっとも早く中国にやられた町」が、今、注目を集めている。

 鯖江市の場合は、富山市のように市長がけん引する形ではなく、「仕組み」や「市民性」がうまく回しているようだ。例えば福井県は人口当たりの社長の数が全国一位。鯖江ではクラスで「お父さんの職業は?」と聞いたら、ほぼ全員が「社長」と答えた、という話があるぐらいだ。

 最後に。「地方消滅」の関連で言えば、鯖江市は人口が増加し続けている。これ一つとってもとても興味深いことだと思う。「地方都市の再生」に関心がある人には一読をおススメする。

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沈みゆく大国アメリカ<逃げ切れ!日本の医療>

書影

著 者:堤未果
出版社:集英社
出版日:2015年5月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  前著「沈みゆく大国アメリカ」の続編。出版社の特設サイトには「姉妹編」と書いてある。敢えてタイトルを変えていない、ということから、前著と本書はひと続きの著作なのだと思う。内容的には前著の最終章「次のターゲットは日本」を、掘り下げたものになっている。

 前著では、米国民全員が医療保険に加入する「オバマケア」が(オバマ大統領が意図したものかどうかは別として)、大きな問題を抱えていることを明らかにした。日本の「国民皆保険」はそれとは違い、非常に優れた制度であることも分かった。

 「オバマケア」の問題を一言でいうと、「保険会社と医薬品メーカーが儲けるための仕組みになっている」こと。そして本書では、恐ろしいことにその仕組みが、部分的にではあるが既に抜きがたく日本の制度に組み込まれていることを明らかにしている。

 その端緒は1980年代の「ロン&ヤス(レーガン大統領と中曽根首相)」の頃だというのだから驚く。国民が気付かないように時間をかけて静かに潜行していたのだ。私たちは、30年間も知らずにいたわけだから。前著から繰り返し登場するのは「無知は弱さになる」という言葉だ。私たちは「国民皆保険」の仕組みにもその素晴らしさにも、あまりにも無知で来てしまった。

 これに対抗するために「よく知る」ことが必要なのだけれど、本書にはドキッとすることが書かれていた。なんと米国では、ワシントンタイムズ紙が、オバマ政権と「オバマケア宣伝契約」を480万ドルで結んでいたというのだ。同じような形態でニューヨークタイムズ紙も。

 翻って日本では?安倍政権は2015年予算で「政府広報予算」を、前年度の約65億円から83億円と大きく積み増している。もちろんこれだけでは、これが意味することまでは分からないけれど、米政府がやったことを、日本の政府が絶対にやらないとは言えないだろう。

 最後に。しかしタイトルにあるように、まだ逃げ切れる。まだ間に合う。そのための方策のヒントは意外なほど近くにあった。ひとつは私が住む長野県の佐久総合病院に。最終章に詳細に書かれているので、繰り返し読みたい。

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学生まちづくらーの奇跡

書影

著 者:KF書籍化プロジェクト
出版社:学文社
出版日:2012年1月20日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、東京都国立市で活動する「NPO法人くにたち富士見台人間環境キーステーション(通称KF)」の設立の経緯から10年間ほどのレポート。KFは国立市の富士見台地域を拠点とした「産(商店会)」「官(国立市)」「学(大学)」「民(市民スタッフ)」からなるNPOで、「まちづくり活動」を行っている。

 十数年前ならいざ知らず、まちづくりを目的とした産官学共同のNPOなんて、今は全国にたくさんあって珍しくない。ただこのKFが特徴的なのは、「学」として参画しているのが、大学の先生だけではなく、60名ほどの大学生からなるサークルだということだ。

 さらには、そのサークル「Pro-K(ぷろっく)」が、カフェや物産店などを経営していること。それを10年以上継続していること。そこで利益を出していること。この利益が出ていることと継続していることには密接な関係があると、私は思う。

 上の紹介で興味を少しでも持った方は、とにかく読んでほしい。本書には全国共通のテーマである「まちづくり」「コミュニティの形成」についての、答えかヒントが書いてある。本文のレポートもいいけれど、巻末の「解説」がよくまとまっていて理解にすごく役立った。

 KFの活動も順風満帆ではなく、数多くの挫折を経験している。それでも10年あまりも継続しているのには、熱心さや粘り強さによるだけではなく、ラッキーとしか言えないめぐり合わせのおかげもある。しかしそれも、熱意を持って粘り強く取り組んでいればこそで、そう考えれば「ラッキー」さえも参考になるかもしれない。

 最後に、少し醒めた意見を。こうした「成功事例」は、当然だけれど「成功しているように」書かれる。以前、「活性化に成功して活気が戻った」と大々的に喧伝された商店街に、見学に行ってみたら一人もお客さんが歩いていなかった、なんてこともある。ここにも行ってみなければ、と思っている。

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沈みゆく大国アメリカ

書影

著 者:堤未果
出版社:集英社
出版日:2014年11月19日 第1刷 12月31日 第4刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は「ルポ貧困大国アメリカ」で2008年の日本エッセイストクラブ賞、2009年の新書大賞を受賞。その後も米国の社会の歪みをレポートする著書を発表し、本書はその中の1冊。

 本書のテーマは「オバマケア」。米国のオバマ大統領が公約として掲げて、強力に推し進めた医療保険制度改革のこと。米国民全員が医療保険に加入する「国民皆保険制度」を目指したものだ。

 これを実現する法律が2014年に施行された。つまりオバマ大統領は公約を果たした。これによって無保険のために医者にかかれず、重篤になってからERに駆け込んだがすでに手遅れ、という悲劇はなくなる。オバマ大統領の大きな功績となった...はずだった。

 制度設計の失敗なのか意図的なものなのか分からないが、「オバマケア」には大きな問題がいくつもあった。私が感じる第一の問題、違和感と言い換えた方がいいかもしれないが、それは、米国民が得たのは、医療保険に加入する「権利」ではなくて「義務」だということ。日本の「国民皆保険」とは考え方が逆転している。

 米国民は、法律で定められた条件を満たした保険に加入する義務を負った。自分には必要ない項目が入っていて、それまで加入していた保険より保険料が高くて、家計を圧迫するとしてもだ。

 さらに「オバマケア」はもっと深刻な問題を抱えている。詳細は本書を読んでいただきたいが、その大元にあるのは、医療が「ビジネス」になっていることだ。だから経済性や効率が最優先される。人の健康や命さえも、採算に合わなければ切り捨てられる。

 私たちにとってさらに恐ろしいことに、この米国流の「医療ビジネス」は、すでに日本に上陸しているという。そのことを記した最終章は背筋が凍る想いがした。「無知は弱さになる」ニューヨークのハーレム地区の医師の言葉だ。私たちは自分たちの医療保険制度について、もっと知らなくてはならない。

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本についての授業をはじめます

書影

著 者:永江朗
出版社:少年写真新聞社
出版日:2014年9月22日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は「少年写真新聞社」という学校向け刊行物の出版社の書籍。「少年写真ニュース」というB2版の壁新聞が、学校の廊下や図書室などに貼ってあるのを、ご覧になった方もいらっしゃるだろう。その壁新聞を発行している会社だ。

 本書は、その「少年写真新聞社」の小学校中学年以上の子どもたちを対象にした、「ちしきのもり」というノンフィクションシリーズの第8弾。「本」をテーマとして1から10まで、いや「そこからですか!」と思うほど幅広く説明している。

 「そこからですか!」とは具体的には、「オーストラリアに生えるユーカリの木」から。「今きみはどこでこの本を読んでいる?図書館?」という問いから始まって、本屋さん→問屋さん(取次)→出版社→製本会社→印刷工場→製紙工場、とドンドン遡ってたどり着いたのがユーカリ。そこから話が始まる。

 なるほどなぁと思った。シリーズの説明に「知的好奇心や
探究心を育てる」とあるけれど、「それはどこから?」を何度も繰り返すのは、子どもの好奇心や探求心に応えるためなのだろう。

 「そこからですか!」だけでなく「そこまでですか!」もある。印刷技術のこと、製本の方法、本屋さんの仕事。「モノとしての本」だけでなく、本の中身を作る人のことも書いてある。著者、編集者、イラストレーター、校正者、営業、宣伝...。

 子ども向けの本だけれども、大人も読んだらいいと思う。もちろん大人なら知っていることも多い。しかし、知らないことも少しはあるはずだし、ハッと気が付くようなことも書いてある。

 「本を読むときは、まず、手をきれいに洗いましょう(中略)手のよごれはせっけんで落とすことができますが、よごれた本はもとにもどせません」私はこんな気持ちで本に向かっていただろうか?反省。

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ネットが生んだ文化

書影

監  修:川上量生
出版社:KADOKAWA
出版日:2014年10月26日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 新聞の書評欄で知って興味を持ったので読んでみた。本を読んでいると時々深く印象に残る一文に出会うことがある。本書にもそんな一文がある。

「どんなにネットに現実世界が流れ込んでも、リア充勢力が多数派になっても、ネット原住民の影響力が低下することはない。なぜなら、彼らは暇だからだ。

 本書は、ニコニコ動画の生みの親である川上量生さんが監修者となって、ネットの文化を浮き彫りにしようとする本だ。ネットに造詣の深い8人の著者が、「ネットの言論空間」「リア充対非リア」「炎上」「祭り」「コピペ」といった様々な切り口で、ネット社会の来し方行く末を斬る。

 本書で初めて知ることができたことはとても多い。特に「炎上」について。様々なきっかけが「炎上」を引き起こすことは知っていた。社会のルールやマナーに違反する発言が、集中砲火的に非難(罵詈雑言)を浴びることがある。しかし、そこには少数の「炎上させる人」と多数の「炎上させられる人」が存在するとは知らなかった。2ちゃんねる上のほとんどの炎上事件の「実行犯」は5人以内で、たった一人という場合も珍しくないらしい。

 様々な出来事に対する「まとめサイト」が数多くあることも知っていた。炎上事件を積極的に取り上げるサイトもあって、これによって情報の伝播力が高まり、さらに大規模な炎上へと発展する。しかし、これらのサイトの多くでは、アフィリエイトによってアクセスを稼いで収入につなげていることは知らなかった。「炎上」は様々な思惑を持った人が加わって、意図的に「引き起こされている」のだ。

 全く関係のない出来事なのに、煽られて怒りをかきたてられる人。「釣り見出し」だけを見て反応して怒りのコメントを残す人。そういう人は「炎上させられる人」で、誰かに利用されている。....私たちは、インターネットを上手に使えるほどには成熟していないんじゃないか?前々から思っていたことだけれど、さらに強くそう思った。

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地方消滅 東京一極集中が招く人口急減

書影

編著者:増田寛也
出版社:中央公論新社
出版日:2014年8月25日 初版 9月25日 5版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 衝撃的なタイトルが、内容に合っていない本はたくさんある。本書の「地方消滅」というタイトルも衝撃的だ。実は、私は地方都市に住んで、地域振興に関わりのある仕事をしている。つまり「消滅」させられる立場なので、幾分かの「憤り」を持って本書を手に取った。ところが、本書の場合は内容の方がさらに衝撃的かつ深刻なものだった。

 本書は、著者らが平成25年から26年にかけて「中央公論」に発表した論文を再構成・加筆したもの。その論文は、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「日本の将来推計人口(平成24年1月)」を基にしている。この推計によると、2010年に1億2806万人あった日本の人口は、2040年には1億728万人に、2060年には8674万人になる、というのだ。

 しかし、都議会のヤジ問題でハッキリしたように「少子化対策」への取り組みには切迫感が全くない。何十年先の人口がどうなっていようとあまり関心ない、という人もいるだろう。みんな仕事がなくって困ってるんだし少し減った方がいいんじゃない?、という人もいるだろう。この問題の深刻さを認識している人が少ないのだろう(私もこれまでが認識していなかった)。

 著者らは本書の冒頭で、この推計をベースにして、次の世代の人口に大きく影響する20歳~39歳の女性(若年女性)に注目した、市町村別のシミュレーションを行っている。その結果、2010年から2040年にかけての30年間で、若年女性が5割以上減少する市町村の数が896、全体の49.8%にも上った。

 たった30年で半数の市町村で、若い女性が(男性もなのだけれど)半分以下になる。本書の入り口に過ぎないのだけれど、このシミュレーションだけでも十分に深刻だ。「少し減った方が」どころではないのだ。また「少し減った方が」と考える人は、人口が減れば市場も縮小して仕事も減る、ということを失念している。私たちの社会は急激な市場縮小(例えば30年で半分というな)に耐えられるようには制度設計されていない。

 本書では、この問題に題する対策も記されている。地に足の着いた対策だと思う。それは「子育ての環境を改善する」という一言に尽きる。幸いなことは、子育ての環境の問題点はずいぶん前から認識されていることだ。残念なことは、それにも関わらず一向に改善されないことと、今のままでは今後も改善の見込みがないことだ。暗澹。

 ※巻末に市町村別の「将来推計人口」が掲載されている。ご自分の市町村の推計を確認してみてはいかがだろう?

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マーケティングと共に フィリップ・コトラー自伝

書影

著 者:フィリップ・コトラー 訳:田中陽、土方奈美
出版社:日本経済新聞社
出版日:2014年8月25日 1版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「マーケティングの神様」とも称される著者の初めての自伝。2013年に連載された日本経済新聞の「私の履歴書」が基になっている経緯もあって、日本でのみ出版された。

 1931年生まれの著者は、御年83歳。先月、東京で開かれた「ワールド・マーケティング・サミット」のために来日された。本当にお元気だ。処女作「マーケティング・マネジメント」の出版が1967年というから、実に半世紀もマーケティングの世界で第一人者であり続けているわけだ。

 本書は「自伝」であるので、その生い立ちから書き起こされている。両親はウクライナからの移民で英語も話すこともできすにアメリカの地を踏んだという。生まれ育ったシカゴは、貧富の差が大きく、アル・カポネらが暗躍していた。

 さらに、結婚直後に研究のために渡ったインドでは貧困の問題が深刻だった。著者の考えるマーケティングが、企業の成長・繁栄の先に「より良き社会」の実現を目的としているのは、こうした生い立ちや経験によるものなのだろう。

 親交のあった人のことも多く書かれている。著者の博士課程修了の審査委員会には、後にノーベル賞を受賞したポーール・サミュエルソンとロバート・ソロー。日本で「もしドラ」で有名になった、ピーター・ドラッカーからの「お話をしませんか」という誘いには、翌日の朝一番の飛行機に飛び乗った。「神様」にも先生や尊敬する人がいたわけだ。

 また、著者の「履歴書」は、マーケティングの歩みそのものなので、本書はマーケティングの変遷や概観をつかむのにとてもいい。折々の著書も紹介されているので、気になった話題があれば、そこで紹介されている本を読んでみればいいだろう。

 実は私は、大学ではマーケティングを専攻していた。もう30年も前のことになる。多くのマーケティングゼミがそうであったように、「マーケティング・マネジメント」が教科書だった。今も我が家の本棚にある。本書によれば、第14版となって今も発売されているらしい。「古典」ではなく「教科書」として、半世紀近く使われるとは..言葉もない。

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絶望のテレビ報道

書影

著 者:安倍宏行
出版社:PHP研究所
出版日:2014年7月29日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は昨年までフジテレビの報道の要職を歴任してきた。2002年10月から1年間滝川クリステルさんと共に「ニュースJAPAN」のキャスターを務め、その後もコメンテーターとして出演していたので「あごヒゲのキャスター」として覚えている方もいるかもしれない。

 本書は、著者の21年間のテレビマン生活を振り返り、テレビニュースの現場を数々のエピソードを交えて紹介する。その結果として「マスゴミ」と蔑まれて視聴者から見放されたかのような、テレビ報道の絶望的な状況をあぶりだしている。

 テレビ報道は即時性と映像が強みだ。しかしそれがそのまま弱みになっている。新聞の記者は、基本的に文字原稿を日に2回の締切までに仕上げればいい。しかしテレビの報道記者は、原稿を起こして、映像の撮影を指示して、編集しなければならない。場合によっては「顔出し」して話すこともある。つまり、それだけ手間も暇もかかる。そして締め切りは、ニュースの重要性によるが、基本的に「できるだけ早く」だ。

 テレビ番組は、コストと視聴率の両面から圧迫を受けている。コスト削減は上に書いた「手間暇」のかかる報道の現場を疲弊させる。そのため十分な取材が行えなくなり、それが信頼性を落とす原因になっている。視聴率を得るために、視聴者におもねってウケのいい話題を取り入れる。結果としてワイドショーと区別がなくなって、却って視聴者が離れていくという皮肉。ネットでの炎上事件は、多くはいわれのない中傷なのだけれど、ボデーブローのように効いて体力を奪う。八方塞がりで出口が見えない。

 まさに「タイトルに偽りなし」の絶望的状況。ただ私は少し違うものを期待していた。テレビ報道に深く関わった著者ならではの展望なり提言が欲しかった。なんだかんだ言っても、テレビ報道がこのまま衰退して、一番困るのは私たち視聴者(国民と言い換えてもいい)だからだ。著者もその認識はあって、かすかな希望を見出そうとするのだけれど、その試みがうまく行ったとは言えない。それは著者の責任ではなく、それだけテレビ報道を取り巻く絶望が深い、ということだけれど..残念。

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