9.その他

トコトンやさしい人工知能の本

編  者:産業技術総合研究所 人工知能研究センター
出版社:日刊工業新聞社
出版日:2016年12月26日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆(説明)

 人工知能について現状を「ひと通り浅く」知るのにはいい本だった。

 第1章「人口知能はこうして生まれた」から始まっ て「基礎技術」「応用例」「ディープラーニング」「未解決な問題」「社会の将来像」など、全部で66項目を見開きで紹介。例えば「基礎技術」は「機械学習」「教師なし学習」「ベイジアンネット」「サポートベクターマシン」など15項目あって、ページ数としては一番多い。

 さらに例えば「基礎技術」の項目のひとつは「画像認識」を紹介。白黒画像の中で「物体の個数」を数えるプログラムの説明をしている。2×2の4画素の組み合わせを調べることで「物体の個数-穴の個数」が分かることを解説。ちなみに、この方法では「物体の個数」は分からない。(思わず「分からんのかい!」とツッコミを入れてしまった)

 本書は「今日からモノ知り」というシリーズの一冊。意地悪な言い方をすれば「今日からモノ知り」になれるわけはないから、「モノ知りのフリ」ができるシリーズ。「ひと通り浅く」というのはそういう意味で、ある意味看板どおりでもある。チョイチョイと用語と意味を仕入れて、何かの時に披露すれば「モノ知りのフリ」はできる。

 言うなれば「それだけの本」。もちろんそういうニーズはあると思う。そんなニーズを持った人にはおススメ。ただしタイトルにある「トコトンやさしい」ということはないので注意。

 ちょっと辛めの評価を書いていて、追い打ちをかけるようだけれど、とても気になったことがあったので、最後にそれを。「小中学生からよくある質問」というコラムで「人工知能が人類よりも賢くなって、私たちを支配してしまうのですか?」という質問について。

 答えは「もう支配されています。コンビニの棚に並ぶ商品は、人口知能が「この商品は人間に買わせることができる」と判断したものです」と始まって、欲しい商品が近所のコンビニにちゃんとあって快適ですね、と続いて「人口知能に支配されるのも案外いいものですね」と結んでいる。小中学生をバカにしているとしか思えない。

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採用学

著 者:服部泰宏
出版社:新潮社
出版日:2016年5月25日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 お世話になっている会社の採用担当の方に教えてもらった本。

 「採用学」という言葉は聞きなれないけれど、それはそのはずで、著者がまさに今、確立に力をそそいでいる(つまりまだ確立されていない)学問領域。企業における人の採用を研究する。欧米には採用に関する膨大な研究蓄積があるけれど、日本ではいくつかの有益な知見が出始めたところらしい。

 著者はまず「良い採用」について考える。ポイントは3つ。1つ目は、高い仕事成果を上げる優秀な人材を得ること。少なくともランダムに採用した時より優秀でなければ、採用活動をする意味がない。2つ目は、会社に中長期的に留まるような人材を得ること。いくら優秀でもすぐに転職されては困る。3つ目は、組織を構成するメンバーに多様性が生じ、結果として活性化を導くこと。

 現在の企業の一般的な採用活動には、このポイントに照らして問題が多い。例えば、優秀な人材を取りこぼさないように、まずは大量にエントリーしてもらう「大規模候補者群仮説」。このために、雇用条件をあいまいにして間口を広げ、ネガティブな情報を伏せる。しかしこれは「魅力的でない求職者」が大量にエントリーするし、入社後の社員と会社の「期待のミスマッチ」を招いて、ポイントの2番目の「中長期的な定着」や、3番目の「活性化」を損なうことにつながる。

 私はごく小規模な職場で働いているので、このような形の採用活動には縁がないけれど、採用面接はする。その「面接」についても、興味深い指摘があった。面接では「コミュニケーション力」が重視されるが、「コミュニケーション力」は後からでも身につけられる、という。まぁ「即戦力」を求める場合は「後から~」なんて言ってられないのだけれど、もっと他に見るべきことがあるんじゃないの?ということだ。

 著者は、元々は経営や行動科学の研究者。考えてみれば「採用」は、「ヒト・モノ・カネ」の経営資源の一つである「ヒト」を得る活動。企業経営の根幹に関わることだ。それにしては、担当者の経験やカンによって進められていて、とても「科学的」とは言えない(と私は思う)。著者らによる「採用学」の知見をいち早く取り入れた企業が、業績を大きく伸ばすようになるかもしれない。

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赤松小三郎ともう一つの明治維新

著 者:関良基
出版社:作品社
出版日:2016年12月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 まずタイトルにある「赤松小三郎」の説明から。赤松小三郎は幕末の上田藩士。慶応3年(1867年)5月に、「全国民に参政権を与える議会の開設」「法の下の平等」など、現行憲法につながる憲法構想を日本で初めて提案し、その実現に奔走した。しかし、一般の知名度がほぼゼロなだけではなく、幕末・明治維新研究者からも黙殺されてきた。

 著者は環境分野を専門とする研究者で、歴史学者でも憲法学者でもない。だから本書も「素人が何を言うか」という扱いを受ける可能性は高い。しかし、非専門家であるからこそ書けることもある。学会の「重鎮」とか「定説」とか「暗黙のタブー」とかに縛られることがないからだ。

 そして「赤松小三郎の黙殺」も、その「暗黙のタブー」の類だとする。本書では、赤松小三郎の生涯とその憲法構想を詳述した上で、その「暗黙のタブー」に切り込む。さらには返す刀で、現在の日本の改憲論議にまで一太刀を浴びせる。考えれば当然のことだけれど、歴史は現在まで連続しているのだ。

 これは様々な視点で重要な書籍だと思う。実は私は赤松小三郎についての知識がある。仕事で相当詳しく知った。だから本書も「赤松についての書籍が出版されて喜ばしいことだ。どんな内容か確認のために読んでおこう」という気持ちで読んだ。私の期待をはるかに凌ぐ充実ぶりと、示唆に富んだ内容だった。

 重要と思う視点の一つめは、もちろん赤松小三郎の再評価の視点だ。歴史や憲法の非専門家とはいえ、著者は研究者だから、資料の紹介や引用などの取り扱いがとても丁寧だ。また決して単純ではない問題なのに、論旨が明快なために難なく理解できる。歴史研究の議論のベースとしても、赤松の功績の普及のためのテキストとしても使える。

 ふたつめの視点は「憲法観」についての視点。現在の改憲論は、現行憲法を「GHQの押し付け」と規定することに論拠がある。しかし本当に現行憲法の精神は押し付けられたものなのか?という提議をする。赤松の憲法構想が「実現の一歩手前まで来ていた」とすれば、それは150年前に日本人が構想し手にしていたはずのものなのだ。

 最初は「赤松小三郎のことを知ってもらいたい」という想いで、本書を読んでもらいたいと思っていた。しかし改憲が現実のものになろうとしている今、憲法について考えるために、できるだけたくさんの人に読んでもらいたい。本書のサブタイトルは「テロに葬られた立憲主義の夢」

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わけあって絶滅しました。

著 者:丸山貴史
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2018年7月18日 第1刷 8月8日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 先日読んだ「理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ」は、「絶滅」という観点から生物の進化を捉えたものだったけれど、本書は「絶滅」そのものをテーマにした本。

 サブタイトルが「世界一おもしろい 絶滅したいきもの図鑑」。カンブリア紀から現代までに絶滅した60種の生物の「絶滅した理由」に加えて、絶滅しそうでしてない10種の「絶滅しない理由」を紹介。絶滅した(しない)理由を、その生物自身に聞く、というユニークな体裁になっている。

 ユニークなのは体裁だけではない。絶妙なキャラクター設定がされた、それぞれの生物の語り口が楽しい。例えば、隕石が落ちて絶滅したティラノサウルスは、こんな感じ。

 ありえねぇ。隕石が落ちてくるとかマジでありえねぇ。直径10kmて(笑)。地球にぶつかったとき、高さ300mの津波がきたからね。さすがにビビったわ、あれは。「地球とけた?」って思ったもん。

 砂が舞い上がって寒くなり、植物が育たなくなって、草食動物が死ぬと...

 生きようよそこは!いや生きてたらおれが食べるんだけれども!まぁしばらくはそいつらの死体を食ってたんだけど、さすがに続かないよね。結局死体もすぐになくなって、腹は減るわ、超寒いわで、絶滅よ。

 楽しめた。人間が理由の絶滅もいくつかあり、楽しんでばかりはいられないけれど。

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理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ

著 者:吉川浩満
出版社:朝日出版社
出版日:2014年10月31日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 新聞の記事で見かけて、これは面白そうだと思って手に取ってみた。

 本書はダーウィンの「進化論」について論じたもの。「進化論」と言えば「適者生存」つまり「適した者が生き残る」。生物の進化の歴史は、生き残った者のサクセスストーリーだ。ところが本書は、まず最初に「絶滅」という観点から生物の進化を捉えてみる。その観点を面白いと思った。

 40億年ともいわれる生命の歴史において、これまで地球上に出現した生物種の99.9%が絶滅したと考えられる。「適者生存」を裏返して考えると、絶滅した種は「適していなかった」ことになる。しかし、絶滅現象に関する考察をすると、突然の環境変化など「運が悪い」としか言いようのない事情が浮かび上がる。タイトルにある「理不尽」の含意はそういうことだ。

 この導入部の後、著者は「日常の世界で出会う進化論」、例えば「ダメなものは淘汰されるのさ」といった言説を「誤解」だと説明する中で、「適者生存」についての考察に入る。誰が生き延びるのか?それはもっとも適応した者だ。もっとも適応した者とは?それは生き延びた者だ。これではトートロジー(ある事柄を述べるのに同義語を繰り返す技法)ではないか?という論点をまず論じる。

 中盤からは、進化生物学会での「適応主義」を巡る、ドーキンスとグールドの論争に進む。「適応主義」というのは、すべての生物の特質は自然淘汰の結果として進化的な最適値に調整されている(適応している)とするもの。これを現在的な有用性を重視して適用すると「人間の足が2本あるのは半ズボンに適応したからだ」という珍説につながる。

 正直に言って、この論争のあたりから、論理の森に迷い込んだようになって、読み進めるのに難渋した。でも、数多くの気付きがあった。「進化論」は面白い。

 最後に、心に残った言葉。「99.9%絶滅」に絡んで、「みんな何処へ行った?」((c)中島みゆき)

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ネコの選択

著 者:田中渉
出版社:アチーブメント出版
出版日:2018年4月1日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は「選択理論」という「より良い人間関係を築くための心理学」を、ネコの夫婦の危機を老ネズミが救う、という寓話に仕立てて紹介したもの。帯には「2人で実践すれば100%幸せになる!世界50カ国で夫婦の危機を救った話題の心理学」とある。

 私は本書で初めて「選択理論」を知った。本書を読んで私が理解した「選択理論」は次のようなもの。悪化した他人(夫婦も含めて)との関係を改善するためには、相手を変えようとするのではなく、自分の行動を変える。言い換えれば、理想とする姿に近づくための行動を「選択」する。

 その「選択」のために「相手が自分にして欲しいと思っていることは何か?」と問うてみる。ネコの夫婦は「相手にして欲しいこと」はたくさん言えるけれど、「相手がして欲しいこと」はさっぱり分からなかった。「自分はいつも精一杯やっている、これ以上何をしろと言うのか」と思っている。

 「相手がして欲しいこと」を知るためには、「生存の欲求」とか「愛・所属の欲求」などの「五つの基本的欲求」について考えるのだけれど、まぁこれ以上は本書を読むか「選択理論」と検索して調べてほしい。

 正直に言って現実味に乏しい。ネコの夫婦の寓話にしたのは、人間の夫婦の実際の会話とすると、空々しくなってしまうからではないかと思う。でも、とてもいいことが書いてある。人間関係、特に夫婦の関係改善に必要なことは、たぶんこの通りだ。お悩みの方は読んでみるといい。その場合は是非相手の方にも読んでもらおう。

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アルゴリズムが「私」を決める

著 者:ジョン・チェニー=リッポルド 訳:高取芳彦
出版社:日経BP社
出版日:2018年5月1日 第1版第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 インターネットに接続された機器やサービスの利用によって、様々な情報が蓄積される。その情報をアルゴリズム(問題を解くための手順を定式化したもの)によって分析することで、ネット上の「私」の「属性」が決定される。例えば「女性」「40代」「日本人」「リベラルな思想」...。

 本当は「55歳」の「男性」かもしれないけれど、ネットワーク上には「40代」の「女性」として、実際の私とは別に「私」(カギかっこ付の私)が存在している。そういう状態をタイトルの「アルゴリズムが「私」を決める」は表している。ちなみに原書のタイトルは「WE ARE DATA(私たちはデータである)」。

 これはちょうどゲームの「Wii Sports」で体力測定をした結果の「体力年齢」のようなものだ。どれだけ素早く的確に反応できたかの「情報」を「アルゴリズム」で分析して「年齢」を算出する。本当の年齢と違っていても特に問題ない。問題ないどころか、実際より若く出れば喜ばれるぐらいだ。

 ところが本書は「問題あり」として例をあげる。例えば「犯罪リスク 高」と判定されて、警察の監視がついたらどうか?。これは実際にシカゴ警察で実施された。さらに、テロリストと判定されたら?米国によって中東で結婚式が爆撃されたことがあるけれど、それはデータによって「テロリストの会合」と判定されたから、と推測されている。

 この他にも本書は例をいくつも上げる。そして大きな問題は「自分がどのように判定されているかを、自分で知ることができない」ことだと言う。もちろん「どうしてそう判定されたか?」も分からない。だから身に覚えのないどんな不利益を被ることになっても、事前に準備することはもちろん、事後にも反論しようがない。

 怖い怖い。事例は多くは米国でのものだけれど、日本で同じことが行われいないとは言い切れない。いやその前に米国で行われているデータ収集の対象には、日本に住む私たちも入っている。

 「オンラインショッピングもSNSもしない。するのはメールとネット検索ぐらい」という人も安心できない。ネット検索の検索履歴やメール、通話の履歴、GPSの移動記録が蓄積されている。「無断では利用されないはずでしょ」というのは(脅かして申し訳ないけれど)人が良すぎる。

 最後に。著者は一つだけ「対応策」として、「TrackMeNot」というウェブアプリの利用を勧めている。どれほど役に立つのか疑問だけれど、やらないよりマシか。

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アメリカ人が語る アメリカが隠しておきたい日本の歴史

著 者:マックス・フォン・シュラー
出版社:ハート出版
出版日:2016年11月19日 第1刷 2017年1月15日 第4刷 発行
評 価:☆(説明)

 太平洋戦争(著者は「大東亜戦争」という呼称を使っている)の前後のアメリカ軍が、日本軍より攻撃的で残虐だった、ということを、アメリカ人である著者が「中立な立場で」述べる、という主旨の本。「アメリカが隠しておきたい」のは「日本の歴史」というよりは、「日本でのアメリカ軍の歴史」。

 最初に言っておくと、本書から得るものはほとんどない。一見するとアメリカ人自身によるアメリカの告発で、信頼性に富む新事実の暴露のようだけれど、実態は虚実がないまぜになった、戦前戦中の日本(軍)の礼賛本だ。「歴史修正主義」の本と言ってもいい。「嫌韓本」と言ってもいい。ページ数で6割ぐらいは韓国を貶める記述に割かれている。

 「虚実ないまぜ」と言ったけれど、正直に言うと、どの部分が「虚」でどの部分が「実」なのかよく分からない。数多くの「あまり知られていない事実」を指摘しているけれど、注釈や出典の記述が全くないので、確かめようがない。「元韓国人慰安婦は、イベント会場で痛ましいパフォーマンスを行った後に、裏口でお金が入った封筒をもらっている」なんて書かれても、そのまま信じることはできない。

 特徴的なパターンとして、ありえない命題を立てておいて、正しいかどうか検証する振りをして否定する、ということが多い。例えば命題として「日本人と会話すると「アメリカ人は優しい人たちで、絶対に悪いことをしない」とよく言われます」とか、9条に関して「日本が侵略された場合、抵抗しないで皆殺しにされても良い、と話していました」なんてのもある。読んでいて滅入ってしまった。

 ☆1つ。☆0個があればそうしたい。

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読んだら、きちんと自分の知識にする方法

著 者:宮口公寿
出版社:明日香出版社
出版日:2011年1月26日 初版 2月7日 第10刷 発行
評 価:☆☆(説明)

 図書館で借りた本。そもそもこのブログを始めたきっかけの一つが、本を読んでも読んだ端から忘れてしまうので、もったいないと思ったこと。ブログの記事が思い出す糸口ぐらいにはなって、完全に(読んだことさえ)忘れてしまうことはなくなった。でも「自分の知識に」なっているとは言い難く、書名に魅かれて本書を手に取ったらしい。

 本書は「メモリー・リーディング」という、著者が考案した読書法を紹介した本。その根幹には「記憶術」を「1日5分のトレーニングを3週間すれば、ひと晩で100ページの本をかなり詳細に憶えることができる」というもの。

 その記憶術を乱暴にまとめると「イメージに変換して憶える」に尽きる。「携帯電話」「赤ちゃん」「チーズ」と憶えるのであれば、「携帯電話を食べている赤ちゃんからチーズの匂いがしている」イメージを思い浮かべる、といった具合。なるべく「大変だ」とか「やばい」とかの感情を持ち込むといいらしい。

 この記憶術の有効性は著者の折り紙付きで、著者のセミナーの参加者も実際に効果を上げているそうだから確かなものなのだろう。ちらりと疑いの気持ちが頭をもたげるけれど、それは私が自分で実践していないからだ。「記憶術」を身につけたい人は読むといい。

 その上でネガティブなことを言うけれど、私が思う「読んだ本を自分の知識にしたい」は、「記憶する」とはちょっと違うのだ。言葉にすると何か違ってしまうのだけれど、頑張って表現すると「自分で解釈・消化して身につけ」てこそ、「自分の知識」だと思う。本書は、私が期待していたものと違っていた。

 いいこともあった。憶えるのに「アウトプットは必ず必要」で、そのためにツイッター<フェイスブック<ブログ(<はおススメの度合い)に書けばいい、と書いてあった。図らずも既に私は、著者のおススメを実践していたわけだ。

 最後に。冒頭に「本書を手に取ったらしい」と書いた。「らしい」としたのは、図書館で本書を手に取った記憶がないからだ。にも関わらず、図書館の蔵書である本書が我が家にあった。私の「忘れてしまう」度合いは、「記憶術」どうこうの話ではないのかも知れない。

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絶滅の人類史

著 者:更科功
出版社:NHK出版
出版日:2018年1月10日 第1刷 5月15日 第6刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 サヘラントロプス・チャデンシス、アルディピテクス・ラミダス、アウストラロピテクス・アファレンシス、ホモ・エレクトゥス。これらはすべて「人類」の「種名」だ。私たちホモ・サピエンス以外に、「人類」は少なくとも25種は存在していたけれど、すべて絶滅してしまった。人類の歴史は絶滅の歴史。本書のタイトルはそのことを表している。

 ここで言う「人類」は、私たちの祖先が、現在のチンパンジーに至る系統と分岐してから私たちに至るまでの系統に属するすべての種のこと。本書はその分岐があった約700万年前から、私たち以外の最後の「人類」である、ネアンデルタール人が絶滅する約4万年前までの、「人類」の歴史を概観する。大きなテーマはサブタイトルの「なぜ「私たち」が生き延びたのか?」

 「人類」の特徴は直立二足歩行なのだけれど、これは生存に有利な特徴とは言えず、現に進化の過程でこの特徴を獲得した種はない。視点が高くなって遠くまで見えるという利点はあるが、敵に見つかりやすいという欠点もある。四足歩行より走るのが遅いという欠点を合わせれば、肉食獣の餌食になる可能性が高い。

 それなのに「なぜ「私たち」が生き延びたのか?」。著者は、最新の研究成果を活用しながら、その理由を推論する。それはとても緻密で分かりやすい。アウストラロピテクスやホモ・エレクトゥスなど、断片的に「何となく知っていた」化石人類を、時間的に順序立てて、地理的な観点からもコンパクトに説明してもらえたのがとても良かった。

 最後に。ホモ・サピエンスは、約7000年の間、ネアンデルタール人と共存し交雑してもいた(現在のアフリカ人以外の人のDNAの約2%は、ネアンデルタール人由来だそうだ!)。ネアンデルタール人の方が、脳の容積が大きく体も頑丈だった。それなのに絶滅した原因の一つが、ホモ・サピエンスの存在であるのはまず確実。「ネアンデルタール人の悲哀」を感じた。

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