陽気なギャングは三つ数えろ

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2015年10月20日 初版第1刷 10月30日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。「陽気なギャングが地球を回す」「~の日常と襲撃」に続くシリーズの第3弾。

 主人公は、お馴染みの響野、成瀬、久遠、雪子の4人組の銀行強盗たち。銀行強盗は2年ぶりだと言っているし、係長だった成瀬は課長になっているし、(第1弾で)中学生だった雪子の息子の慎一くんは大学生になっている。確実に時間が流れている、ということだ。

 時間は流れても彼らは変わらない。冒頭の響野の演説で「あぁあいつらが帰って来た」と感じた。「理由や意味のあることをほとんど言わない」という響野は、強盗に入った銀行で、カウンターに登って演説をする。

 その演説の間に仕事を終えて現場からは、正確無比な体内時計と超絶運転テクニックを持った雪子の車で逃走する。それが彼らのスタイル。ところが今回は現場から立ち去る時にアクシデントがあり、それが事件の発端。

 失踪したアイドルを追う怪しい雑誌記者に関わる→雑誌記者が通う会員制ギャンブルを開くギャンググループに関わる→追われる身になる..といった「巻き込まれ型」の展開で、テンポよく物語が進む。ちょっとした伏線が後で効いてくる。これまでのシリーズの良さが、そのまま生きている。

 「あとがき」に伊坂さん自身が書いているように、伊坂作品にはシリーズものは少ない。「この先どうなるのか分からない」話を書きたい、というのがその理由のひとつだそうだ。この「陽気なギャング」シリーズだって、簡単には先は読めないのだけれど、「お馴染みの雰囲気」が楽しめるという安心感はあって、それが心地いい。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

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公共図書館の論点整理

書影

著 者:田村俊作、小川俊彦
出版社:勁草書房
出版日:2008年2月20日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 少し前に「本が売れぬのは図書館のせい?新刊貸し出し「待った」」というニュースを見て、このことについて調べてみようと思った。探せば思いのほか多くの資料が見つかり、本書もその一つ。

 本書は2008年の発行。公共図書館に関する報告としては、1963年に「中小都市における公共図書館の運営」(略称:中小レポート)、というものが出ていて、本書は折に触れてこの報告書に言及しながら、それ以降の公共図書館に関する言論を、いくつかの論点ごとにまとめたもの。

 冒頭に書いた「本が売れぬのは~」に直接関係する論点として、第一章「無料貸本屋」論がある。ここには「中小レポート」と「市民の図書館」という1970年出版の書籍を引きながら、「貸出」を図書館サービスの中核とした運営に対する、様々な意見がまとめられている。

 その他の論点として「ビジネス支援サービス」「図書館サービスへの課金」「司書職制度の限界」「公共図書館の委託」「開架資料の紛失とBDS」「自動貸出機論争」が、それぞれ一章を割いて論じられている。

 本書は2008年の時点でそれ以前を振り返ったもので、私はそれを7年後の2015年から眺めていることになる。その視点で言うと「2008年時点の論点(敢えて言うと課題)を、そのまま引きずって現在に至っている、という感じを強く受けた。

 今回の「本が売れぬのは~」は「無料貸本屋論」からの流れが続いたものだし、「公共図書館の委託」での懸念は「TSUTAYA図書館」という形で現実のものになった。「課題を認識しながら変えられなかった」と、公共図書館の力不足を言うのは簡単だけれどそれは酷だと思う。

 公共図書館の課題は、大きな流れの中にあるように思う。これに逆らうのはなかなか骨折りだろう。ただ、そこを何とかしないといけないんじゃないかとも思う。20年後30年後の出版・読書が、少なくとも今と同じぐらいには健全であるためには。

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NO.6 #1~#9

書影

著 者:あさのあつこ
出版社:講談社
出版日:(1)2004.2 (2)2004.10 (3)2004.10 (4)2005.8 (5)2006.9 (6)2007.9 (7)2008.10 (8)2009.7 (9)2011.6 第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルの「No.6」は、本書の舞台となる都市の名前。地球は、核戦争や環境汚染によって荒廃し、人類が住める場所は僅か6カ所になってしまった。そこに至って人々はようやく危機を悟り、武力を放棄し残された6カ所に都市を建設した。その6番目が「No.6」。叡智と科学技術を結集した、史上稀有なる理想都市だ。

 壁の中に建設された都市では、気温湿度天候などがコントロールされ、人々は快適な暮らしを送り、最高の教育と医療を約束され、なんの恐れも不満も抱くことなく暮らしていた。まさに「理想都市」。しかしながら本書は、その言葉とは正反対の意味を持つ「ディストピア小説」だ。

 どうして理想都市が「ディストピア」なのか?その理由の象徴が「壁」。快適な都市を取り囲む壁、その外には、ひどく荒んだ人々の暮らしがあった。また都市の中でも、市の幹部、一握りのエリート、その周辺、底辺の庶民と、見えない「壁」で分断され、人々は管理されていた。恐れも不満も抱くことがないのではなく、抱くことを許されなかったのだ。

 物語は主人公の青年、紫苑の12歳の誕生日から始まる。紫苑はエリート層として、快適な暮らしを送っていた。そこに、凶悪犯罪を犯して脱走中の少年ネズミが、重傷を負って転がり込んでくる。紫苑はネズミを匿ったことから、エリート層から転がり落ち、彼自身もお尋ね者に。そんな時にネズミと再会する。

 この後、物語は9巻を費やして、「No.6」と対決する紫苑とネズミの二人と、二人に関わる何組かの人々を描く。最悪の環境の中で心を通じ合った人々、哀しみの中でも強い心を失わなかった人々、そしてわずかな可能性に賭けて、強大な「No.6」に挑んだ紫苑とネズミ。ヤングアダルト向けならではのワクワク感が充満している。

 最後に。この物語の最初、紫苑の12歳の誕生日は2013年に設定されている。「No.6」との闘いはその4年後。地球が壊滅的に荒廃したのは数十年前。この物語は「近未来小説」とも、パラレルワールド(並行世界)の地球を描いたものとも言える。並行世界は私たちのこの世界の影、この世界もいつこのようになってもおかしくない。

 著者は第2巻の「あとがき」に、この物語を書くきっかけを書いている。「戦争は、飢餓は、世界は、どうなっていますか?」から始まるこの文章には、異国で起きている戦争や飢饉にコミットしてこなかった悔恨が綴られている。「だから、どうしてもこの物語を書きたかった」そうだ。

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ヤフーとその仲間たちのすごい研修

書影

著 者:篠原匡
出版社:日経BP社
出版日:2015年7月21日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本していただきました。感謝。

 本書はヤフー株式会社の人事本部長である本間浩輔氏が仕掛けた、人材育成研修の様子を記録したもの。この研修は「次世代のリーダーの育成」を目的としたもので、ヤフーだけでなく、アサヒビール、日本郵便、インテリジェンス、電通北海道といった多様な企業の幹部・リーダー候補生が参加する異業種コラボレーション研修だ。

 研修テーマは「北海道美瑛町の地域課題の解決」。数人からなるAからFまで6つのチームに分かれ、それぞれには美瑛町役場の職員も参加する。6か月で5回のセッション、全12日。その間に「効果的かつ美瑛町で実現が可能な」解決策を練り上げて提案しなくてはいけない。参加者にとってはハードルの高い研修と言える。

 期間中には様々な問題が起きる。それでも、受講者と運営サイドが持てる能力を注いで研修を前に進める。その様子と最終的な提案の内容が、要領よく描かれている。読み物としても面白い。研修を進めるためのノウハウも興味深い。

 思ったこと。求めらるのはやはり「課題解決力」なのだな、ということ。「やはり」というのは、これは私が20数年来意識してきたことだからだ。「何か起きた時にそれをどうにか解決する力」。物事を前に進めるにはそういった力が必要だ。

 しかし、それだけでは足りない。企業も地域社会も、もちろんもっと大きなくくりでも、分かりやすい「課題」を解決するだけでは立ち行かなくなっているからだ。「課題の設定」自体も難しくなっている。解決にはブレイクスルーが必要なこともある。

 そこで重要なキーワードが「ダイバーシティ」。「多様性」と訳される。この研修が異業種コラボレーションで行われたのには、多様性を確保するためらしい。「女性や外国人が入りました」というような単純なことではなく、価値観の違う「合わない人」との議論、言って見れば「摩擦」からしか得られないことがある、という。..これは大変な時代になった。 

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海うそ

書影

著 者:梨木香歩
出版社:岩波書店
出版日:2014年4月9日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 梨木香歩さんの書き下ろしの近著。一昨年に創業百年を迎えた岩波書店の「創業百年記念文芸」として出版。大自然の中で魂に触れそうな物語。

 舞台は南九州の「遅島」。時代は昭和の初め。主人公は20代半ばの人文地理学の研究者の秋野。秋野は亡くなった主任教授が残した未完了の報告書を見て、遅島に心惹かれてやってきた。遅島は古代に修験道のために開かれた島で、明治初年までは大寺院が存在していた。

 「存在していた」と過去形なのは、明治初期の廃仏毀釈の嵐によって、寺院が徹底的に破壊されたからだ。後に明らかになるけれど、今は礎石などの痕跡が残されているだけだ。この島は「喪失」を抱えている。

 物語は、フィールドワークとして、秋野がかつてあった寺院群を訪ねる山行を描く。実は、秋野も心の内に「喪失」を抱えている。一昨年に許嫁を亡くし、昨年には相次いで両親を亡くしていた。秋野が抱える「喪失」に島の自然が共鳴する。そんな物語だ。

 本書は、この物語に50年後の後日談が続いている。50年の歳月は、物語の雰囲気をガラッと変えてしまう。しかし、そこにさらなる「喪失」を描き、「再生」と「発見」を描くことで、物語世界が大きく広がっている。

 「遅島」は架空の島。冒頭に地図が載っているけれど、その姿は、鹿児島県薩摩川内市の中甑島に似ている。

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本当の戦争の話をしよう

書影

著 者:伊勢﨑賢治
出版社:朝日出版社
出版日:2015年1月15日 初版第1刷 2月15日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 著者は、国連PKOの幹部として、まず東ティモールに、次はシエラレオネに、さらに日本政府特別代表としてアフガニスタンに派遣されて、それぞれの場所で武装解除の任務にあたった人物。

 「武装解除」というのは、紛争の当事者に武器、特に重火器を手放させること。つまり著者の任務は、最近までドンパチやっていた(場合によってはその最中の)連中の幹部に会って「もうその辺でやめたらどうだ」と説得する役目。並の胆力でできることではない。

 本書はそんな著者が2012年に、福島高校の2年生、この企画に応じた18人の生徒に話した5日間の講義をまとめたもの。「平和」について、世界の紛争の現場、ニュースでは報じられない事情などを、時にユーモアを交えて話す。

 私は、テレビのニュースを見て、新聞を読んで、それに疑問があれば調べてと、「事実」を知る努力をそれなりにしてきたつもりだ。しかし、著者が語る話は驚きの連続だった。

 例えば、紛争の現場では「正義の英雄」と「テロリスト」が容易に入れ替わること。それは国際社会が(多くの場合はアメリカが)、どちらに付くかによること。民主主義国が戦争をする前には、国家がウソをつくこと。

 思ったこと。私たちはよく「日本政府は」とか「アメリカが」とか「アルカイダは」と、国家や組織が人格と意思を持って活動しているように話すし考える。でも突き詰めれば、判断し行動するのは一人の人間なのだ。著者はPKOや政府を代表しているけれど、紛争当事者の幹部とは、お互いに一人の人間として相対することになる。

 注目した言葉。「日本人のYOUが言うんだからしょうがない」著者が武装解除の交渉をしたアフガニスタンの軍閥のリーダーの言葉です。上に書いたこととは矛盾するようだけれど、国家は個人の属性のひとつだ。「戦争をしない日本」の役割、と漫然としたイメージで語られることが、紛争の交渉の場で現実に言葉として結実している。

 最後に。著者が行った武装解除は例外なく完了したが、その地域は例外なく「平和」になっていない。また著者自身が言うように「戦争の現場の経験者だと特別視されがち。でも、実はあまりあてにならない」。だから、著者自身を100%肯定して崇めるのは間違っている(「すげぇ人だな」とは思うけれど、どこか私と相容れないものを感じる)。

 それでも、安倍政権が進める安保法制に賛成する人はもちろん、賛成しない人も、本書を読んで内容を咀嚼してから、もう一度自分の考えを整理して欲しい。だから☆5つ。

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(さらに…)

ナイルパーチの女子会

書影

著 者:柚木麻子
出版社:文藝春秋
出版日:2015年3月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 今年の山本周五郎賞受賞、直木賞候補作品。「ランチのアッコちゃん」「本屋さんのダイアナ」を読んで、著者の作品の女性の性格や関係性の描き方がけっこう好きだった。直木賞候補になった時に本書を知って、いつか読んでみようと思っていた。

 「これまで私が読んだ作品とはだいぶ違う」と、4分の1ぐらい読んだところで思った。これまでの作品は、足元がしっかりした見通しのいい物語だったが、本書は違った。うっかりするとぬかるみに足が取られそうだし、どこに連れていかれるのかも分からない。

 主人公は栄利子と翔子の二人。ともに30歳。栄利子は大手商社に勤める会社員。仕事はできる方でしかも美人、独身。翔子は専業主婦で「おひょうのダメ奥さん日記」というブログを書いている。ブログはランキングに入るほどには人気がある。

 翔子がカフェで、編集者とブログの書籍化のことを話しているところに、栄利子が居合わせた。前々からブログの熱心な読者であった栄利子が、翔子に声をかけて二人は出会う。そしてすぐに「友達」になった。

 栄利子が真面目な商社マンで、翔子がぐうたら主婦、という取り合わせで、共通点は女友達がいないこと。二人とも「欲しい」と思っていたので、これは幸せな出会いだった。ところが、翔子がブログの更新を怠ったことから、二人の気持ちにズレが生じて、やがて修復不可能な事態に発展する...。

 直木賞の選評で、林真理子さんが本書について「主人公の女性に女友だちがいないというのも不自然」と、言われたそうだ。「女友だちがいないのは不自然」。その言葉がまさに、栄利子や翔子の「孤独」の裏付けになっていて皮肉だ。

 本書を読んで「女はコワイ」と思うのは簡単。でも「友達」「親友」って何?とか、「正気」と「狂気」とか、考えると違う景色が見えそうだ。ぬかるみに足を取られそうだから、敢えておススメはしないけど。

 最後に。この本を女性が読むとどう感じるのだろう?

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安倍政権の裏の顔 「攻防 集団的自衛権」ドキュメント

書影

著 者:朝日新聞 政治部 取材班
出版社:講談社
出版日:2015年9月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、序章を除くと2012年暮れの第2次安倍政権発足から、2014年7月の集団的自衛権の行使を認める閣議決定までの、約1年半の与党の動きを追った記録。タイトルからは、何やら陰謀めいたものや秘密の暴露を期待してしまうが、そういったものはない。

 「秘密の暴露はない」というのは、秘密にすべきことは書かれていないからだ。本書は「オンレコ」を原則とした取材を基に執筆されている、つまり取材対象者が「公開していい」と判断した内容だということ。著者が朝日新聞の取材班というだけで、否定的な見方をする人もいそうだけれど、これは与党の議員や関係者が話したことなのだ。

 読んで多くのことが分かったし、多くのことを思った。今回は本の感想・書評というより、この本を読んで思ったことを2つ述べる。1つめは「集団的自衛権の行使容認なんて必要なかったんじゃないか」ということだ。

 そう思った理由は次の一言に集約されている「「集団的自衛権行使に必要な事例を探せ」と言われたので、ひねり出した」。これは公明党の勉強会での、内閣官房の役人の発言。ここで「ひねり出した」という事例が、あの「赤ちゃんを抱いた母親」のイラストのパネルを使って安倍総理が説明したものだ。

 順序が逆なのだ。解決すべき問題への対処の必要という「理由」があって、集団的自衛権の行使容認という「結果」がある、というのが正しい順序だ。「結果」が先「理由」が後では本末転倒。これでは国会の答弁が混乱するはずだ。後付けの「理由」は本当に必要なのか?、それが必要でなければ「結果」も必要ない。

 思ったことのもう1つ。「「結果を出す」ことへの強迫観念」。これには少し説明が必要だと思う。

 「平和の党」の公明党は、集団的自衛権の行使を認めない立場だったが、ブレーキ役を自任し、連立離脱を封印して与党に残る。ある時から「落としどころ」を探るようになり、結果として「歩み寄って」合意する。ただし「歩み寄る」うちに一線を越えて、行使容認NOからYESへ180度変わってしまっていたわけだ。

 これについて「与党にしがみついて魂を売ってしまった」的なことを言われるけれど、それは違うらしい。主張をぶつけ合うだけでは、一歩も前進しないで「結果」がでない。実社会では「過程」より「結果」が重視され、政治の世界では特にそうだ。公明党は、だから「結果」を求めてしまった、そういうことだと思った。

 しかし、今回は「結果」を求めて「落としどころ」なんか探っちゃいけなかった。「過程」はどうあれ「結果」として、「魂を売ってしまった」感は否めないし、多くの民意に背いているからだ。

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真田丸と真田一族99の謎

書影

著 者:戦国武将研究会
出版社:二見書房
出版日:2015年10月31日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 来年のNHK大河ドラマのタイトルは「真田丸」。信州上田を本拠とする真田氏の物語。真田氏は地方の小勢力ながら、群雄割拠の戦国時代を生き抜いた一族。中でも真田信繁(幸村)は、大坂夏の陣で家康を追いつめ、その後永らく戦国のヒーローとして勇名を馳せている。

 この大河ドラマ「真田丸」の放映を前に、「真田氏本」というジャンルができるのではないか?と思うほど、真田氏関係の出版が相次いでいる。本書もその一つで、真田一族についての様々なエピソードを紹介・検証した本。

 著者は「戦国武将研究会」という、日本史好きのライター、編集者、作家、武将マニアなどが集う団体。つまり「好き」でやっている人たちらしく、文章の端々から戦国武将への思い入れの「熱」を感じる。

 逆に言えば、歴史研究の専門家ではないので、「検証」の部分については、少し疑問を感じるものもある。ただし、荒唐無稽なものはない。あくまでも真面目に誠実に調べたものだ。真田氏については残された史料が少ないこともあって、断定できないことがあるので、そのあたりが気になっただけだ。

 実は私は、仕事で真田氏について研究者からお話を伺うことも多く、自分自身でも調べている。そんなわけで「検証」の部分に少し引っかかりを感じた。その「引っかかりがある」ことを認めた上で、本書は真田氏に関する話題が網羅的に、且つとてもコンパクトにまとまっていて良い本だと思う。大河ドラマの予習に打ってつけの一冊だ。

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職業としての小説家

書影

著 者:村上春樹
出版社:スイッチ・パブリッシング
出版日:2015年9月17日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 村上春樹さんは、日本では講演やスピーチをする機会がほとんどない、もちろんテレビ番組にも出られない。つまり「あまり人前に出ない作家」という位置付けかと思う。しかし、雑誌「考える人」のロングインタビューや「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」など、インタビューに応える形では、ご自分の仕事や考えについてかなり深くお話になっている。

 そして本書は、そうしたこと(つまりご自分の仕事や考え)について、「まとめて何かを語っておきたい」という気持ちから、仕事の合間に書き溜めた文章に推敲を重ねたものだそうだ。全部で12章あるうちの前半の6章は、翻訳者であり著者と親交もある柴田元幸さんが立ち上げた雑誌「Monkey」に掲載されたもの。

 小説を書く方法論を書いた「第五回 さて、何を書けばいいのか?」や、学校や教育システムについて書いた「第八回 学校について」は、著者の仕事や考えについて多くのことが語られている。「第四回 オリジナリティーについて」は、五輪のエンブレム問題を受けて、タイムリーに一つの視座を提供してくれる。

 タイムリーと言えば「今年もノーベル賞を逃した」今、「第三回 文学賞について」がまさにそうだ。ご自身のことについては「芥川賞」を例にしてお話しになっているけれど、レイモンド・チャンドラーの言葉を引いて、ノーベル賞にも触れている。マスコミは、勝手に候補にして勝手に落選させるのは、いい加減やめた方がいい。

 私が一番「そうだったのか!」と思ったのは、「第二回 小説家になった頃」。著者がご自分が経営するジャズ喫茶のキッチン・テーブルで、デビュー作の「風の歌を聴け」を書いたことは、これまでにも何度も語られていて公知のことだ。

 しかし、あの文体がどうやって生まれたのかは、本書のこの章をを読むまで、寡聞にして知らなかった(これが「初公開」というわけではないようだけれど)。そうだったのか!。(「やめた方がいい」と言ったばかりだけれど)ノーベル賞候補への道は、35年前のこの時から始まっていたんじゃないかと思う。

 この章を読んで、もう一つだけ。「奥さまあっての村上春樹さん」なのだなぁと思った。

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