残月 みをつくし料理帖

書影

著 者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2012年3月18日 第1刷発行 2014年5月18日 第12刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第8作。「かのひとの面影膳」「慰め海苔巻」「麗し鼈甲珠」「寒中の麦」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 今回は、この2つの望みに関連して大きな出来事が起きる。「天満一兆庵」の再興には、お店の若旦那である佐兵衛を探し出す必要がある。幼馴染の野江のことについては、当然ながら野江との面会が先に立つ。バラしてしまうとこの2つの「再会」は叶う。しかしどちらも澪が望んだような形にはならなかった。

 その他にも今回は動きが多かった。支えてくれる人にが恵まれていたが、前回、前々回あたりから、澪の周りから人が離れていく。関係が断たれた人、亡くなった人、引っ越して行く人。そして新たな試練の予感。

 ところでこのシリーズのタイトルには、気候や空に関する言葉が使われている。それが物語のどこか肝心のところで登場する。今回の「残月」は十五夜の翌朝の空に残った満月。その月を見た幼い子どもの呟きが切ない。

あんな風に、どこも欠けていない幸せがあればいいのに」 それは手を伸ばしても届かない。

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イニシエーション・ラブ

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著 者:乾くるみ
出版社:文藝春秋
出版日:2007年4月10日 第1刷 2015年3月15日 第58刷 
評 価:☆☆☆(説明)

 ずいぶん前に知り合いから薦められていた本。その時にはそれほど売れてはいなかったと思うけれど、今や150万部超(2015年4月)というミリオンセラーになっている。今年5月23日には、松田翔太さん主演の映画が公開予定。

 主人公は鈴木、大学4年生。舞台は1987年の静岡。人数合わせで参加した合コンで知り合った繭子と恋に落ちる。本書は、鈴木と繭子が織りなすラブストーリーだ。

 ラブストーリーは嫌いではないけれど、本書には抵抗があった。官能小説(エロ小説と言っしまっては品がないので)と見まがうシーンもあって、50代のオジサンの私が、自宅のリビングで読むのはどうだろう?と。

 とは言え楽しめたこともあった。著者は私と同い年で、主人公の鈴木は私の2つ下。物語は私が過ごした学生時代と重なることが多く、懐かしいものに再会したような気分だった。「クイズダービー」とか「フィーリングカップル5vs5」とか。

 それだけの小説であったなら、150万部のミリオンセラーにはならない。さらに付け加えることがある。これは「ネタバレ」に相当する情報かもしれないけれど、Amazonの紹介文にも本の裏表紙にも書いてあるので、許容範囲と判断して言う。本書には大きな仕掛けがあって、読者が読んでいる物語は、実は全然違う物語だったことが最後に分かる。

 著者はミステリー作家。だから本書も一見するとラブストーリーだけれど、実はミステリーなのだ。

 映画「イニシエーション・ラブ」公式サイト

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資本主義の終焉と歴史の危機

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著 者:水野和夫
出版社:集英社
出版日:2014年3月19日 第1刷 2014年7月14日第9刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 今年の新書大賞の第2位。ちなみに第1位は「地方消滅」。「終焉」とか「消滅」とか、マイナスイメージの言葉を含むタイトルが上位を占める。ご時世かもしれないけれど、これでいいのか?とも思う。

 著者は証券会社のチーフエコノミストや、内閣官房の審議官などを歴任した、いわば経済分析のエキスパート。その著者が「資本主義の死期が近づいている、それに伴って民主主義・国民国家という近代社会も危機に瀕している」と言うのだからショッキングな内容だ。

 詳細な数値を上げて、米国、BRICSなどの新興国、日本、ヨーロッパのそれぞれの状況が解説されている。解説そのものは少し難解で、よく読まないとしっかりと胸に落ちない。でも、もう少し大づかみな理解なら捉えやすい。

 つまりこうだ。1.資本主義は「資本の増殖」という「成長」を前提とした仕組み。2.また「周辺」から「中心」に富を集中させることで成り立っている。例えば地方から都市に、途上国から先進国に..。

 3.そして「周辺」を拡大することで「成長」を実現している。4.ところが、グローバリゼーションによって、もうこれ以上「周辺」を広げる余地がない。5.資本主義は「成長」できないと成り立たない。→「終焉」を迎える。

 理路整然としているけれど、こんな主張はエコノミストの間では少数派だろう。著者自身も「私は「変人」にしか見えないことでしょう」と書いている。

 それでも私は、すごく説得力を感じた。安倍政権をはじめ世界中の政府が「成長」を声高に叫ぶのが、著者の主張の正しさの証左ではないかと思う。しかし無理な「成長」は歪みを生む。

 その歪みが臨界点を越える前に、「成長」を必要としない次のシステムを、というのが著者の希望だけれど、...状況は絶望的だ。

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ころころろ

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著 者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2011年12月1日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」 シリーズの第8作。第1作「しゃばけ」、第5作「うそうそ」に続く3作目の長編(5編の連作短編)作品。

 前作「いっちばん」で18歳になっていたはずの、廻船問屋「長崎屋の」跡取り息子で主人公の一太郎が、最初の短編「はじめての」では12歳になっていた。これはどういうことか?と思ったが、どうやら12歳のころの出来事が、今回の事件の発端となっているらしい。

 「今回の事件」とは一太郎が失明してしまうことだ。2つめの短編「ほねぬすびと」の冒頭、布団で目覚めた一太郎の目には暗闇しか映らなかった。病弱で始終寝込んでいる一太郎だけれど、今回の原因は病ではないらしい。

 そんなわけで一太郎の目に光を取り戻すことが、本書の長編としてのテーマになる。それぞれの短編は、それぞれちょっとした謎を追いかけるミステリーになっている。長短の両方の展開が楽しめる作りになっている。

 面白かった。一太郎や「長崎屋」の面々ら人間と、一太郎の周辺にたくさん集ってくる妖らといった、いつものメンバーに、今回はなんと「神さま」が加わっての騒動は、賑やかだった。

 文庫には漫画家の萩尾望都さんと著者の畠中恵さんの対談が収録されている。

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勝手に予想!本屋大賞

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 明日4月7日は本屋大賞の発表日です。今年は10作品がノミネートされていますが、そのうちの9作品を読みました。

 読んだのは「アイネクライネナハトムジーク」「怒り」「億男」「キャプテンサンダーボルト」「サラバ!」「鹿の王」「ハケンアニメ!」「本屋さんのダイアナ」「満願」、読んでいないのは「土漠の花」です。

 はなはだ厚顔ではありますが、私の予想を発表します。

 大賞:「サラバ!」 2位:「キャプテンサンダーボルト」 3~4位:「鹿の王」「ハケンアニメ!」

 「サラバ!」は、すでに直木賞を受賞しているので、販売促進の効果を考えればどうかと思いますが、作品の「熱量」のようなものが、他の作品よりアタマ一つ抜け出ているように思い「大賞」にしました。

 「キャプテンサンダーボルト」は、「サラバ!」とどちらにするか迷いました。こちらには「作家2人の合作」という話題性もあるので。ただ、どちらかを選ばないといけないので、こちらを2位にしました。

 「鹿の王」「ハケンアニメ!」は、どちらも十分に面白い(特に「ハケンアニメ!」には、私はレビュー記事で☆5つを付けています)ですが、「ファンタジー」や「ライトノベル(風)」という、ジャンル分けによって読者が限られてしまうかと思い、3~4位にしました。

—-2015.4.8 追記—-

大賞は「鹿の王」に決定しました。2位「サラバ!」、3位「ハケンアニメ!」です。大賞の予想は外してしまいましたが、上位3作品の名前はキッチリあがっているので、まずますかな?と思います。

まったく気にしていなかったのですが、翻訳小説部門は「その女、アレックス」が第1位になりました。レビュー記事にも書きましたが、この作品は「読むのにキツイ」本です。読まれる方はご用心を...

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沈みゆく大国アメリカ

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著 者:堤未果
出版社:集英社
出版日:2014年11月19日 第1刷 12月31日 第4刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は「ルポ貧困大国アメリカ」で2008年の日本エッセイストクラブ賞、2009年の新書大賞を受賞。その後も米国の社会の歪みをレポートする著書を発表し、本書はその中の1冊。

 本書のテーマは「オバマケア」。米国のオバマ大統領が公約として掲げて、強力に推し進めた医療保険制度改革のこと。米国民全員が医療保険に加入する「国民皆保険制度」を目指したものだ。

 これを実現する法律が2014年に施行された。つまりオバマ大統領は公約を果たした。これによって無保険のために医者にかかれず、重篤になってからERに駆け込んだがすでに手遅れ、という悲劇はなくなる。オバマ大統領の大きな功績となった...はずだった。

 制度設計の失敗なのか意図的なものなのか分からないが、「オバマケア」には大きな問題がいくつもあった。私が感じる第一の問題、違和感と言い換えた方がいいかもしれないが、それは、米国民が得たのは、医療保険に加入する「権利」ではなくて「義務」だということ。日本の「国民皆保険」とは考え方が逆転している。

 米国民は、法律で定められた条件を満たした保険に加入する義務を負った。自分には必要ない項目が入っていて、それまで加入していた保険より保険料が高くて、家計を圧迫するとしてもだ。

 さらに「オバマケア」はもっと深刻な問題を抱えている。詳細は本書を読んでいただきたいが、その大元にあるのは、医療が「ビジネス」になっていることだ。だから経済性や効率が最優先される。人の健康や命さえも、採算に合わなければ切り捨てられる。

 私たちにとってさらに恐ろしいことに、この米国流の「医療ビジネス」は、すでに日本に上陸しているという。そのことを記した最終章は背筋が凍る想いがした。「無知は弱さになる」ニューヨークのハーレム地区の医師の言葉だ。私たちは自分たちの医療保険制度について、もっと知らなくてはならない。

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五郎治殿御始末

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著 者:浅田次郎
出版社:新潮社
出版日:2009年5月1日 発行 2014年10月5日 4刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の本を読むのは「地下鉄(メトロ)に乗って」「世の中それほど不公平じゃない」に続いて3作品目。まだそれだけ。友達から借りて読んだ。

 江戸から明治になって数年という時代を舞台にした、短編が6編収められた短編集。読んでいて「そう言えばこの時代はあまり物語になってないな」と思った。

 6編を簡単に。「椿寺まで」日本橋のお店の主の伴として八王子へ向かう奉公人の少年。途中で浪人の追いはぎに遭う。「函館証文」かつて戦場で書いた「命を助けてもらう代わりに千両払う」という証文の巡る物語。「西を向く侍」かつての幕府天文方の俊才だった男が、太陰暦から太陽暦への強引な切り替えに物申す。

 「遠い砲音」西洋定時法(1日が24アウワーズ、その60分の1がミニウト..)に慣れない陸軍中尉の物語。「柘榴坂の仇討」井伊直弼の近習だった男が、桜田門外の変で討たれた主君の仇討を悲願とする。「五郎治殿御始末」明治維新後に藩の整理に携わった桑名藩士。藩の整理を終え、孫を連れて家族と自身の整理のために旅に出る。

 とても新鮮な気持ちで読んだ。それは前述のように「この時代はあまり物語になってないな」と思ったからだ。しかし、考えてみれば「明治維新」を描く物語は少なくない。ではどうしてそう思ったか?明治の元勲を描いたものは少なくないけれど、一般の人々の暮らしを描く目線の低い物語はあまりない(と思った)からだ。

 武士がその身分と共に職業もなくなり、太陽暦の採用を初めとする西洋の文化が流入し、その激変ぶりは太平洋戦争の終戦に勝るとも劣らない。例えば、旗本(殿様)が商いを始める、武家の娘が酌婦として務めなければならない、「今年は12月2日で終わり」なんてこともあった。

 その激変にうまく順応できた人も、置いて行かれた人もいる。どちらの場合にもそこにはドラマがあったはず。それを丁寧にすくい取り、時にユーモラスに時に物悲しく描く。この短編集は秀作だと思う。

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サラバ!(上)(下)

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著 者:西加奈子
出版社:小学館
出版日:2014年11月3日 初版第1刷 2015年1月28日 第3刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。さらに2014年下半期の直木賞受賞作。

 主人公は、圷歩(あくつ あゆむ)。歩の母親は、その人生の多くの決定を直感で成した人で、妊娠が分かった瞬間に、名前は歩だと決めていた。本書は、歩がこの世に生を受けた瞬間から37歳までの、半生を綴ったものだ。

 歩の人生はその始まりから非凡だった。父親の赴任先であるテヘランの病院で左足から(つまり逆子の状態で)この世界に登場した。新しい世界の空気との距離を測りながらおずおずと。その後の人生を暗示するように。

 実は非凡なのは歩ではなくて、歩の家族であり周囲の人々だ。親の憲太郎は、風貌も性格も僧侶のように穏やかな人だった。母の奈緒子は、良く言えば自分に正直、悪く言えばわがままな人だった、度外れて。姉の貴子は、この世のすべての事に怒りを感じているかのような、激しさを持った子どもだった、常軌を逸して。

 物語は、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、社会人のそれぞれの時代の歩と、その時の家族らを描く。事実を積み重ねる描写は淡々としている。そこに描かれる出来事、特に貴子が巻き起こす事件の騒々しさとは好対照だ。歩は、自然と貴子から距離をとるようになる。家族にもその他の事にも、積極的には関わらない生き方を選ぶ。

 長い物語だった。貴子の言動を除いては取り立てて「事件」もなく、途中で何度か不安になった。この物語はどこに向かっているのか?と。

 その不安は、下巻の半分ぐらいまで来たところで解消された。たくさんあったエピソードのいくつかが、はっきりした輪郭と共に急に浮かび上がってくる。「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない」というメッセージも伝わってくる。(読むのに苦労したということは全くないけれど)読み通して良かったと思う。

 先に「長い」とは書いたけれど、一人の人間の半生を、上下巻の計700ページあまりに凝縮させるのは大変な作業だと思う。本書は著者の作家生活十周年記念作品だそうだけれど、それにふさわしい力作だと思う。

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ツナグ

書影

著 者:辻村深月
出版社:新潮社
出版日:2010年10月30日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2011年の吉川英治文学新人賞受賞作。2012年10月に松坂桃李さん主演で映画化。2014年2月現在で69万部のベストセラー。この前に読んだ「ハケンアニメ」が面白かったので読んでみようと思った。

 「この世」の私たちを死者と引きあわせることができる者、それが「使者(ツナグ)」。本書はこの「使者」を巡る様々な人間を描いた連作短編。

 使者に「誰々に会いたい」と依頼すると、使者はそれに応じるかどうかを死者に聞いて、諾となれば面会が叶う。死者に会えるのは人生で一度きり。死者の方もそれは同様で、一度誰かに会うともう他の誰かには会うことができない。さらには死者の方から会う人を指名することもできない。

 物語では、自分を介抱してくれたアイドルに会いたい女性、亡くなった母親に会いたい男性、親友だった同級生に会いたい女子高校生、自分の元から急に姿を消した恋人に会いたい男性、などが登場する。

 「人生で一度きり」というルールが要になって、物語を締めている。「愛するあの人にもう一度会いたい」という理由だけでは「一度きり」のチャンスは使えない。秘密とか心残りとか、もっと別の理由があって、彼らは使者にコンタクトしてくる。時にその理由は業の深いものだったりする。また「使者」自身にも抱えた事情がある。

 面白かった。死者の方も「一度きり」。それを受けたのだからか、死者の方は一様に余裕がある。楽しそうでさえある。常に「死」を意識しなくてはならない物語なのに、暗い感じがしないのは、面会に来た死者が持つ明るさのせいだと思う。

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億男

書影

著 者:川村元気
出版社:マガジンハウス
出版日:2014年10月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は「電車男」「告白」「悪人」などのヒット作を手掛けた映画プロデューサー。「映画プロデューサー」がどんな仕事なのかよく知らないのだけれど、才能のある人なのだろう。

 主人公は一男。30代後半。昼間は図書館司書として働き、夜はパン工場で生地を丸めている。働きづめなのは、失踪した弟が残した3000万円の借金の返済のためだ。妻と娘とは別居中。そんな一男が宝くじで3億円を当てる。タイトルの「億男」は、億円のお金を持っている男のこと。一男は「億男」になったのだ。

 「その3億円を元手に事業を起こして、失敗をしながらもお金の使い方を覚えて成長していく」という物語ではない。帯に「お金のエンタテイメント」なんて書いてあるので、そういった話かと思ったけれど、そうではない。

 一男は、今はベンチャー企業で成功しているかつての親友を、15年ぶりに訪ねる。3億円との付き合い方を相談するためだ。行った先には昔と変わらぬ親友がいた。が、その親友が3億円と共に消えてしまう。

 「お金と幸せの答え」が本書のテーマ。これを求めて一男は何人かの人物を訪ねることになる。かつて大金を手にした人たちだ。彼らの話から「お金と幸せ」について一男は考える。もちろん読者も一緒に考える。

 フワフワして地に足が付かなくて浅い感じがする物語だった。「宝くじで3億円当たったらどうする?」という話題が、大抵は現実感を持って語られないのと同じで、フィクションの大金持ちの話なんてフワフワしたものなのかもしれないけれど。

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