火山のふもとで

著 者:松家仁之
出版社:新潮社
出版日:2012年9月30日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 Village Vanguardで「吉田篤弘とか好きな方はきっと好きなんじゃないかと思います」というPOPが付いていた。順番としては吉田篤弘さんからかと思い「つむじ風食堂の夜」を読んで、好きな感じだったから本書を...というわけ。

 主人公は坂西徹。大学で建築を学び、卒業と共に著名な建築家である村井俊輔の「村井設計事務所」に入った。時代は1982年。舞台は浅間山を仰ぐ青栗村にある「夏の家」。

 「村井設計事務所」の事務所は北青山にあるが、7月の終わりから9月半ばまでは、別荘地にある山荘で仕事をする。その山荘が通称「夏の家」。青栗村というのは架空の地名だけれど、記述を追うと、北軽井沢の「大学村」がモデルだと思われる。

 物語は、「国立現代図書館の設計コンペ」に向けた準備、という「タテ軸」を辿りながら、坂西の目を通した、「村井先生」のこと、事務所の他のメンバーのこと、先生の姪の麻里子とのこと、などが「ヨコ軸」として語られる。

 さらには、先生の若い頃のこと、外国の建築家が設計した建物のこと、と時間と空間を押し広げる。かと思うと、朝食のメニューや、山荘の周りの木々や鳥の名前、さらには鉛筆や消しゴムの銘柄まで、細やかな記述がされる。

 これだけ縦横に話題を広げたら、収拾がつかなくなってもおかしくない。それらを紐でギュッと括ったように、ストーリーに結びつけてあって、集中が切れない(正直に言うと建築のウンチクを少し読み飛ばしたけれど)。脱帽。

 言い忘れたけれど、本書は著者のデビュー作。これはすごい才能かもしれない。

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