2016年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。小説部門は例年どおり10位まで、ビジネス・ノンフィクション部門は例年は5位までですが、今年は10位まで紹介します。
  (参考:過去のランキング 2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は103作品でした。☆の数は、「☆5つ」が3個、「☆4つ」が49個、「☆3つ」は48個、「☆2つ」が3個。です。
 「☆5つ」が3個あってよかったです。ない年も多くて、そういう年は少しさびしいので。「☆4つ」と「☆3つ」が半数ずつになりました。なんとなくいいバランスかな、と思います。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
東京會舘とわたし(上)旧館(下)新館 / 辻村深月 Amazon
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皇居の向かいに実在する「東京會舘」が舞台、というか主人公。大正11年の創業後、地震と戦禍をくぐりぬた100年近い歴史を描く。著者自身に重なる部分もある10個の物語。珠玉の名品。
君の名は。Another Side:Earthbound  / 加納新太 Amazon
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大ヒット映画「君の名は。」のスピンオフ作品。脇役の4人を主人公として、映画にはないエピソードをつづる。それによって、映画では背景に隠れていた、作品の世界観が明らかになる。
羊と鋼の森 / 宮下奈都 Amazon
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2016年本屋大賞受賞作。北海道の青年がピアノ調律師のとして成長していく物語。「音楽」が聞こえてくるような、読んでいて心地いい文章。そんな「文章の力の可能性」を感じる作品。
 / 東山彰良 Amazon
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2015年上半期の直木賞受賞作。1970~80年代のエネルギーに溢れる台北の街が舞台。主人公の若者の喧嘩、友情、恋、別離などを描きながら、その祖父の死の謎も追うミステリー。
夜行  / 森見登美彦 Amazon
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仲間の一人が失踪した「鞍馬の火祭」の見物、10年後に集まったかつての英会話サークル仲間たちの物語。それぞれが「夜行」という名の銅板画の連作との、不思議な因縁を語る怪異譚。
烏に単は似合わない / 阿部智里 Amazon
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八咫烏の一族が支配する、平安京に似た煌びやかな宮廷が舞台のファンタジーシリーズの第1作。シリーズは現在5作まで出ていて、巻を重ねるごとに物語の奥行きが深まるミステリー。
武士道シックスティーン / 誉田哲也 Amazon
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高校生の「剣道女子」を描く4巻のシリーズの第1作。宮本武蔵を「心の師」と仰ぎ、「五輪書」が愛読書という主人公がぶっ飛んでいる。剣の道を邁進する女子のちょっと不器用な友情物語。
はかぼんさん 空蝉風土記 / さだまさし Amazon
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ノンフィクション系作家が訪れた京都、能登、信州、津軽、四国、長崎、6か所で遭遇した不可思議な出来事をつづる奇譚集。「まっさん」と呼ばれる主人公を、まっさん(さだまさしさん)が描く。
ぼくは明日、昨日のきみとデートする / 七月隆文 Amazon
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「恋愛小説のおすすめランキング」で長く1位をキープ、映画化もされた作品。京都の美大男子の一目ぼれ恋愛物語。この恋愛には実は大きな仕掛けがあって、それがもうほんとうに切ない。
10 ローカル線で行こう! / 真保裕一 Amazon
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宮城県にある赤字ローカル線が舞台。そこに社長として大抜擢された若い女性と、県庁から送り込まれた副社長の男性の奮闘物語。ローカル線の再生は、地域の再生、人の再生でもある。

 今年の第1位「東京會舘とわたし」は、小説ではただ一つの☆5つの作品で文句なく決まりました。レビュー記事で書きましたが、10個の物語それぞれが、珠のように滑らかに優しく光って見えました。いい作品に出会えました。

 2位「君の名は。Another Side:Earthbound」は、映画のヒットがあってこその作品ではあります。しかし、その世界観や人物の背景は、単なるスピンオフの域を越えています。映画を観た人におススメしたくて上位にしました。

 選外の作品について言うと、加納朋子さんの「トオリヌケキンシ」、朝井リョウさんの「星やどりの声」、近藤史恵さんの「スーツケースの半分は」が、心に残りました。深緑野分さんの「戦場のコックたち」、市川憂人さんの「ジェリーフィッシュは凍らない」は、ミステリーとしてとても楽しめました。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
紙つなげ!彼らが本の紙を造っている / 佐々涼子 Amazon
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東日本大震災で壊滅的な被害を受けて完全に機能停止した「日本製紙石巻工場」の復活の記録。紙は私達になくてはならないものだけれど「ある」ことが当たり前すぎて、それに気がつかない。
政府は必ず嘘をつく 増補版 / 堤未果 Amazon
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著者が米国で取材中に何度も言われた言葉、それは「アメリカを見ろ、同じ過ちを犯すな」。9.11後のがれき除去の現場で米政府は「ただちに健康に被害はありません」と言い続けたという。
ドキュメント 戦争広告代理店 / 高木徹 Amazon
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ユーゴスラビアの紛争の際に、ボスニアと契約を結んだ米国のPR企業の「活躍」を記したノンフィクション。力のあるPR会社がついた方が「正義」になる。そんな怖いことが現実になっている。
幻影の時代 マスコミが製造する事実 / D・J・ブーアスティン Amazon
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「ドキュメント 戦争広告代理店」と同種の警鐘を鳴らす本。こちらは50年以上も前に出版された本。にすでに「ニュースの製造」という言葉で、マスコミの恣意的な報道姿勢を指摘していた。
「イスラム国」の内部へ / ユルゲン・トーデンヘーファー Amazon
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ドイツ人ジャーナリストがイスラム国に入り、その内情を伝えた貴重なレポート。危険極まりない行為は「真実を求めるには、常に双方との話し合いが必要になる」という信念に基づいている。
「学力」の経済学 / 中室牧子 Amazon
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「教育経済学」という「教育に関する施策の効果をデータを使って測る」学問の書。教育に関する様々な疑問を、「個人の体験」や「思い込み」を排除して、教育経済学の手法によって検証する
コンセプトのつくり方 / 山田壮夫 Amazon
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データを基にした「客観的・論理的思考」では辿りつかない「正解のない」課題の解決のための、主観的な経験や直感までも駆使する「身体的思考」。その方法論、トレーニング法を解説。
ネット炎上の研究 / 田中辰雄 山口真一 Amazon
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「ネットの炎上」を計量経済学の手法を用いて解き明かしたレポート。「炎上事件に書き込んでいるのはインターネットユーザの0.5%」「直接当事者を攻撃するのは10万人に数人と算出。
ぼくらの民主主義なんだぜ / 高橋源一郎 Amazon
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あまり意識する必要のなかった「民主主義」を、意識しなくてはいけないような時勢の中で出た本。朝日新聞の月一回掲載の「論壇時評」をまとめたもの。絶望的な状況に抗う言葉の数々。
10 あの日 / 小保方晴子 Amazon
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「STAP細胞」騒動の渦中の人物である小保方晴子さんの手記。あくまでも小保方さんが主張する「事実」で、真偽のほどは不明。でも、メディアが伝えていないことがたくさん書かれている。

 例年は5位までなのですが、今年は5つに絞り込むのがたいへん難しく、10位までとしました。それだけ今年は小説以外の本で、良い作品にたくさん巡り合ったということだと思います。☆5つの作品が2つあるのも初めてのことです。

 1位の「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」は、震災の被害から立ち直ったことに、私たち勇気付けられる作品です。しかしこの本の本当の価値は、日常に当たり前に存在しているものにも「それを作る人がいて流通を担う人がいる」、ということに気付かせてくれることだと思います。

 2位から5位と9位は、今の社会情勢への不安感、少しでもそれを解明したいと思って読んだものです。そういう意味では今年は、そういった社会情勢へと私の関心が向かった年でもあったようです。来年は明るいニュースが増えればいいと切に願います。

 10位「あの日」は、発売当初から批判の多い本です。真偽さえ分からない本を選定することに抵抗はありました。しかし5位の「「イスラム国」の内部へ」にもあるように、真実は両方の話を聞かないと分かりません。また、そのような機会は非常に少なく、今回はその貴重な機会だと思いました。その意味では選外ですが「捏造の科学者 STAP細胞事件」も併せて読むといいと思います。

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