3.ミステリー

PK

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2012年3月7日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  「伊坂さん、ありがとう」 この本は、私が「読みたい」と常々思っていたタイプの「伊坂作品」だった。著者が「ゴールデンスランバー」以降、それまでの「伊坂幸太郎らしさ」を、敢えて崩していることは周知のことだ。ただ、例えば「マリアビートル」のように、時々「らしい作品」を発表してくれる。本書もそんな作品。

 「PK」「超人」「密使」のそれぞれ70ページほどの3つの中編が収録されている。それぞれ独立した物語なのだけれど、登場人物やエピソードに共通のものがあり、緩やかにつながっている。「目に見えない巨大な力にひとりの人間が試される」というテーマも共通している。

 表題作のタイトルの「PK」は、サッカーの「ペナルティーキック」のこと。ワールドカップ予選で、日本のエースが蹴ったPKにまつわる謎。その謎に関係する幾つかの物語が、入れ替わり立ち替わりしながら進む。そして明らかになる驚きの事実、技ありの結末。

 巧みな伏線が著者の作品の人気の理由の1つだと私は思う。それに対して、著者は「文藝別冊[総特集]伊坂幸太郎」で、「物語の風呂敷を敢えて畳まないことにチャレンジしている」とおっしゃっている。その結果が、この記事の冒頭に書いた「伊坂幸太郎らしさを敢えて崩す」ことになっているのだけれど、本書は結構きっちりと風呂敷が畳まれている。

 また「サンデー毎日(2012.4.15)」に著者のインタビュー記事が載っていた。表紙に描かれたドミノの絵について、本書は「うまく倒れないドミノを描いてみたつもりです」と答えている。なるほど。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
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決起! コロヨシ!!2

書影

著 者:三崎亜記
出版社:角川書店
出版日:2012年1月31日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 昨年6月に「これはハマってしまった」とレビューに書いた「コロヨシ!!」の続編。月刊小説誌「野生時代」に連載された「コロヨシ!!シーズン2」を書籍化したもの。

 主人公は高校3年生で「掃除部」の主将の藤代樹。「掃除」はこのシリーズでは、芸術性や技術の高さを競うスポーツになっている。前作で樹は「掃除」の全国大会に出場し、個人競技第3位になった。これまでは、政府直轄校が上位を独占していて、一般校の樹が3位に入ったことで注目の受けている。

 樹が注目を受けるのには他の理由もある。この国では先の敗戦によって、国技を持つ権利を失った。「掃除」も理由は定かではないが、政府の厳しい規制の元にあった。それが、敗戦から40年がたち、新国技の候補となって、脚光を浴びているのだ。ただ「居留地」「西域」という名の、この国を取り巻く国々は、その動きに警戒感を募らせている。

 このような説明から、独特の世界観を少し感じてもらえただろうか。この世界観を理由として、前作のレビューで「普通の青春小説とは一味違う」と書いた。逆に言えば一味違うとは言え、前作は「青春小説」だった。友情、家族との葛藤、挫折と克服、淡い恋。

 しかし、本作では「青春要素」は背景に引いて、陰謀渦巻くアクションサスペンスになっている。著者が作り上げた世界観も、前作では「一風変わった設定」にしか感じなかったが、ストーリーに深く関わって生きてくる。前作の延長線上にはない、思わぬ大がかりな展開。タイトルの「決起!」と樹が叫ぶ時には、読者は遥か遠くまで連れて来られている。

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ユリゴコロ

書影

著 者:沼田まほかる
出版社:角川書店
出版日:2011年3月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。私にとっては著者の初めての作品。

 主人公は亮介。20代半ば。犬のためのドッグランを備える会員制の喫茶店を経営している。父母と弟の4人家族で、将来を共に考える女性にも恵まれていた。ところがわずか半年足らずの間に、彼女の失踪、父親の末期癌の診断、母親の死に相次いで見舞われる。物語はそのショックから、幾分立ち直った夏の日から始まる。

 父親の癌はともかく、彼女の失踪も母親の死も謎が残るものだった。彼女はなんの前触れもなく居なくなってしまったし、母親は赤信号でふらりと道路に踏み出し、トラックにはねられている。ミステリーに謎は不可欠なのだけれど、この謎は本書では背景に過ぎない。読者にはもっと鮮烈な謎が突きつけられる。

 それは、亮介が実家の押入れの中で見つけた段ボール箱の中にあった。ひと束の黒髪と、「ユリゴコロ」とタイトルが付けられた4冊のノート。「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とちがうのでしょうか」で始まるそのノートには、信じがたい告白が書いてあった。このノートに書かれていることは真実なのか、これを書いたのは誰なのか?

 乙一さんの「GOTH」を読んだ時の感覚が蘇った。「GOTH」のようなグロテスクな描写は少ない代わりに、心理的な圧迫感は大きい。描かれているのは、人の死や「人を殺すこと」に惹きつけられてしまう、冥く乾いた欲求。それに対して感じるのは(道徳的な)嫌悪感。ただ、その奥でチラチラと(不道徳な)興奮が揺らめく。その揺らめきを肯定するか否かで、本書の評価は分かれると思う。

 私としてはどうしても肯定できない。にも関わらず、読み終わった後味が妙にさっぱりしていたのは「GOTH」と同じで、不思議だ。

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偽りの書(上)(下)

書影
書影

著 者:ブラッド・メルツァー 訳:青木創
出版社:角川書店
出版日:2009年3月31日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の前作「運命の書」と同じく、いわゆるノンストップ、ジェットコースターストーリー。何しろ展開が早い。目まぐるしく場所を変えながら、三つ巴か四つ巴の追いかけっこが展開する。何人かの視点が入れ代わる、全部で82もある短めの章が、テンポよく連なる。

 主人公はカル。米国の入国税関管理局(ICE)の元捜査官で、今はホームレス保護支援団体で働いている。ちなみに入国税関管理局は、9.11を受けて設立された機関で、密輸の摘発やテロの防止などを任務としていて、FBIやシークレットサービスと同様の、連邦法執行機関の1つだ。

 ある日カルが保護に向かった先にいたのは、腹を銃で撃たれた男。それは何と19年前に別れたきりになっていた、カルの父親のロイドだった。ロイドはどうも怪しげな品物の密輸に関わっているらしい。ICEの元捜査官にカルの前にロイドが現れたのは、偶然なのか誰かの陰謀なのか?

 始まりはこんな感じで、密輸に絡む陰謀劇のようなのだが、物語はまもなく大きな展開を見せ始める。「人類最初の殺人」とされる、聖書に記されたカインとアベルの物語。世界的なヒーローであるスーパーマンの誕生にまつわる秘話。この無関係に思える2つに関わる秘密結社。そして、カルの古巣のICEからも追われることに。さらに謎の「預言者」も..よくもまぁ、こんなに重ねたものだ。

 私は「運命の書」のレビューに、「それなりに面白かった」と、微妙な評価を書いている。それは宣伝に、「ダ・ヴィンチ・コード」を引き合いに出したことの弊害だった。それから「上下巻700ページは長すぎる」とも。本書も「ダ・ヴィンチ・コード」をチラッ思ったが、「同様のもの」を期待したわけではなかった。そして上下巻550ページは、ちょうどいいぐらいだった。

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GOTH リストカット事件

書影
書影

著 者:乙一
出版社:角川書店
出版日:2002年7月1日 初版発行
評 価:☆☆(説明)

 以前に私が「くちびるに歌を」についてのコメントを残したブログで、「ダークなものでもよいのであれば」とおススメいただいた乙一作品。(ご本人がTwitterで明かし、秘密ではないそうなので付け加えると、「くちびるに歌を」の著者の中田永一さんは、乙一さんの別名義。)

 主人公は「僕」、高校二年生の男子。もう一人の主要な登場人物は森野、同じクラスの女子。森野はクラスの中で浮いてしまっているが、「僕」とだけは会話をする。この設定からは、甘酸っぱい青春物語を想像する向きもあろうが、そんな考えは冒頭できれいさっぱり拭われてしまう。開始3ページ目に、女子高生のバラバラ死体が登場する。

 「僕」も森野も、猟奇殺人や拷問などの残酷なものに特別な興味を持っている。その現場に行ってみたい、立ち会ってみたい、と思っている。それで実際に現場に行く。犯人探しは本意ではないのだけれど、推理を重ねることで犯人も明らかになる。そうしたグロテスクな事件のミステリーが6話収められている。

 不思議な本だ。読み始めたころはあまりのエグさに「もう勘弁してくれ」と思った。「これは最後まで読めないかもしれないな」とも思った。それなのに読み終わった後味が、妙にさっぱりしていたのが不思議。グロテスクな事件は背景に引いてしまって、互いを支え合うような「僕」と森野の関係が印象に残る。

 本書は2003年の「本格ミステリ大賞」受賞作。高い評価にも納得するのだけれど、☆は2つにした。私はこの本をおススメできないからだ。ただし、私自身がそう薦められたように「ダークなものでもよいのであれば」という言葉に「覚悟して」を加えた上で、読んでみたい人はどうぞ。

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謎解きはディナーのあとで2

書影

著 者:東川篤哉
出版社:小学館
出版日:2011年11月15日 初版第1刷発行 11月27日 第3刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 昨年の本屋大賞受賞作「謎解きはディナーのあとで」の第2巻。今年1月の時点で第1巻が183万部、昨年11月に発売された本書も93万部、というから「お化け」だ。10月から放送されたテレビドラマも、本の売上に対して相乗効果があったと思う(「相乗効果」については後述)。

 国立署の刑事の麗子は、巨大企業グループの総帥の一人娘でもあり、彼女には執事の影山がついている。彼女が抱える難事件を、影山が話を聞いただけで推理して解決する。ただしその前に毒舌を吐く。前作の中の一つが有名になった「お嬢様の目は節穴でございますか」だ。

 第2巻の本書もこの構成は全く同じ。いささかマンネリ気味なのだけれど、本書の最大の特長である影山の毒舌を繰り出すのには、この構成が最も効果的なのだろう。水戸黄門の印籠と同じだ。マンネリ気味だから悪いということにはならない。また、本書では影山の毒舌に工夫の跡が見られる。著者もココが肝だと考えているからだろう。

 第2巻が出たことで、連作短編も12話になり、麗子と影山、麗子の上司である風祭警部の関係が、少し変化しているのが、今後の見どころにもなっている。その意味では今後にも期待ができる。ただ、前作のレビューに「145万部に見合うほど面白いか、というと少し疑問」と書いたが、それは本書でさらに強く思った。

 水戸黄門は印籠を取り出すシーンだけでなく、その前振りの物語も「いつかと同じような話」でも良かったが、ミステリーのネタはそうはいかない。常に読者に「アッ!」と言わせるものが必要だ。しかし、私は本書を読みながら何回か「エ~ッ?」と言ってしまった。

 このあとは書評ではなくて、本とテレビなどの「相乗効果」について書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

ガリレオの苦悩

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2011年10月10日 第1刷 10月25日 第4刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ガリレオ」シリーズの第4弾。長編2作目である「聖女の救済」と同時に2008年に出版された。「落下る(おちる)」「操縦る(あやつる)」「密室る(とじる)」「指標す(しめす)」「攪乱す(みだす)」の5編を収録。

 テレビドラマ「ガリレオ」や映画「容疑者Xの献身」に登場する内海薫刑事は、原作の小説では本書の「落下る」で初登場する。薫の登場で湯川博士の態度が柔らかくなったように思う。薫は湯川のお眼鏡に適ったようで、その理由がまた湯川らしくていい。

 薫について著者は、週刊誌のインタビューに応えて、ドラマ化にあたって「女性刑事を出したい」と言われて、「自分が名前も知らないようなキャラクターに動き回られるのは落ち着かない」と、テレビより先に「落下る」を書いて登場させた、と語っている。柴咲コウさんがその女性刑事役だと聞いていたので、彼女のイメージで書いたそうだ。

 タイトルの「ガリレオの苦悩」は、短編集によくあるように収録作品中の1篇のタイトルをつけたものではなく、収録の5編に通じるものになっている。特に「操縦る」では恩師、「密室る」では友人、「攪乱す」では湯川本人が事件と深く関わっていて、表面の冷静さの裏に苦悩が透けて見える。私としては3冊ある短編集の中では一番楽しめた。

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さよならドビュッシー

書影

著 者:中山七里
出版社:宝島社
出版日:2010年1月22日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」のメンバーさんが、2011年に読んだ本で1番に選んでいたので読んでみました。2009年「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。

 主人公は香月遥、ピアニストを目指す少女。資産家の祖父を持ち、音楽科のある高校への進学が決まり、幸せな暮らしを送っていたが、火事に巻き込まれ全身に重い火傷を負う。一命を取り留めた主人公は、再びピアニストを目指して困難な道を歩む。その途上には、さらなる不幸と、資産家の財産を巡って黒い影が見え隠れする。

 本を読んでいると、文章から視覚や言語以外の感覚を、とてもリアルに呼び覚ます、「文章の力の可能性」を感じさせる作品にたまに出会う。三浦しをんさんの「風が強く吹いている」では走る息遣いを感じたし、森博嗣さんの「スカイ・クロラ」シリーズでは空を飛んでいる気がしたし、恩田陸さんの「チョコレートコスモス」では女優の演技が目の前に立ち現れた。

 本書もそんな作品の一つで、本書からは「音楽」が聞こえて来る。主人公や彼女を指導する先生、ライバルたちの演奏シーンは、リズミカルなピアノの音がしていた。私には音楽の才能も知識もないので、主人公が弾くドビュッシーの曲がどんな曲なのかも知らない。それでも、強弱を繰り返す音のうねりや、コロコロと転がるような音の連なりを感じた(ドビュッシーの曲がそういう曲なのかどうかはさておき)。

 本書はこのようにとても文章の力がある「音楽小説」であると同時にミステリー小説でもある。ミステリーとして、「犯人探し」に焦点を当ててしまうと、ちょっと不満が残るかもしれない。しかし、なかなか大掛かりな仕掛けで楽しませてくれた。(私は途中で仕掛けに気が付いてしまったのだけれど、それはそれでOK。充分に楽しめた。)

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予知夢

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2003年8月10日 第1刷 2011年6月1日 第43刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「ガリレオ」シリーズの第2弾、2000年刊行。第1弾の「探偵ガリレオ」と同じく、天才物理学者の湯川博士の推理が冴える連作短編ミステリー。「夢想る(ゆめみる)」「霊視る(みえる)」「騒霊ぐ(さわぐ)」「絞殺る(しめる)」「予知る(しる)」の5編を収録。

 多少強引な読み方をする三文字のタイトルは前作と同じ。「殺人の被害者が同時刻に別の場所で目撃される」「地震でもないのに、突然部屋全体が振動する」「自殺の現場を3日前に予知夢で見た少女」など、超常現象的な事件が起きることも同様だ。

 しかし前作と多少違って、事件の真相と物理学の知識の関わりが小さくなったように思う。真相部分に、レーザーや超音波などを駆使した前作と比べると、今回は犯人の手間ひまを感じる、いわゆる「トリック」を使ったものが多い。

 言い換えると、天才物理学者でなくても事件の謎を解ける。つまり私でも(この記事を読んでいるあなたでも)真相に近づける、というわけだ。「湯川博士の名推理」を楽しむだけでも十分なのだけれど、敢えて自分で謎解きに挑戦してみるのもいいかもしれない。

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ブリキの王女(上)(下)

書影
書影

著 者:フィリップ・プルマン 訳:山田順子
出版社:東京創元社
出版日:2011年11月30日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「マハラジャのルビー」から始まる「サリー・ロックハートの冒険」シリーズの外伝。シリーズは、「仮面の大富豪」「井戸の中の虎」と合わせて全4部作で完結している(今のところは?)。外伝なので、シリーズの主人公のサリーは、登場はするがストーリーの主要な部分には絡んでこない。

 時代は前作「井戸の中の虎」から約10か月経った1882年の夏。主人公はサリーの良き協力者であった作家兼探偵のジム。そして舞台は、これまでのロンドンではなく、ラツカヴィアという、オーストリア-ハンガリー帝国とドイツに挟まれた小さな王国。ジムはここの王位継承に絡んだ陰謀に巻き込まれる。

 面白かった。物語は、何度かの小さなヤマを繰り返して、終盤の大きなヤマへ収れんしていく。このシリーズでは、主人公は毎回絶体絶命のピンチに陥るのだけれど、今回もそれは踏襲された。王位継承や大国間の外交問題など、これまでにない複雑かつスケールの大きな話題が、ワクワク感を創出している。

 さらに、ストーリーに絡むので詳しくは言わないが、第1作「マハラジャのルビー」から再登場する人物がいる。「あの人はどうしたんだろう?」と、私も気になっていた人物で、ここで再会できてホッとしたというか、スッキリした。

 前作「井戸の中の虎」のレビューで、3作目のその本を起承転結の「転」と捉えて、「結」の「最終巻の次回作が楽しみだ。」と書いたのだけれど、最終巻が外伝だとは思ってなかった。サリーが主人公の最終巻を改めて読みたい、著者に是非書いて欲しい。

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