著 者:森絵都
出版社:集英社
出版日:2016年9月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)
2017年の本屋大賞第2位の作品。
「いつか再び狂気の時代が訪れたとき、知の力をもってして、子どもたちが自分を守れるように。真実の道へ進めるように」
昭和の高度経済成長期に、こんな理想を掲げて学習塾を立ち上げた創始者夫婦と、その一族を三代にわたって描いた大河小説。時間軸では昭和36年から平成20年までの約50年にもなる。472ページ。家族のあり方、教育の理想を描きこんだ圧倒的ドラマ。
物語の最初の主人公は、大島吾郎。22歳。学校の用務員。用務員室で子どもたちの勉強を見てあげていた。吾郎は教え方がうまく、その評判は子どもたちから保護者、とくに母親に広まっていく。そんな母親の一人、赤坂千明に誘われ(半ばはめられ)て学習塾を立ち上げる。
吾郎は夫と別れて独りだった千明と結婚、娘の蕗子と義母の頼子と四人で暮らし、千明と学習塾を共同経営する。当時は塾は「受験競争を煽る受験屋だ」などと言われ、風当たりが強かったが「勉強を教える、学校とは別の場所」のニーズは確実にあり、塾生は増えて経営は軌道に乗る。
物語はこんな風に始まるのだけれど、これから数々のドラマが展開する。ほどよく鈍感でおおらかな吾郎と、頑ななまでに意思の強い千明。支えあうこともあれば衝突することもある。二人は蕗子の他に、蘭と菜々美の2人の娘をもうける。千明の血を受け継いだ彼女たちの意思も、衝突とドラマを生む。さらに一見すると吾郎の血を受け継いだ孫の一郎も..。
三代にわたる家族ドラマの背景には、50年間の日本の教育のあり方の移り変わりがある。民主主義と平等、加熱した競争、ゆとり教育、脱ゆとり。そのそれぞれの波に翻弄されながら、吾郎と千明が始めた学習塾は、曲折を繰り返しながらも、息の長い活動を続ける。二人の意思は次の世代、さらに次の世代に受け継がれる。
☆5つ。素晴らしい物語だった。特に後半は心が震える場面が何度も。本書には要所で「月」が話題になる。タイトルの「みかづき」にも意味が込められている。夜空を見上げることが増えそうだ。
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