6.経済・実用書

全員で稼ぐ組織

書影

著 者:森田直行
出版社:日経BP社
出版日:2014年6月2日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。

 本書は京セラの創業者である稲森和夫さんが、企業経営の実体験から編み出した経営手法である「アメーバ経営」を解説したもの。2010年に経営破綻した日本航空(JAL)の再生に稲森さんが乗り込んで、2年余りで東証への再上場を果たした。その時に適用した手法がこの「アメーバ経営」だ。

 「アメーバ経営」最大の特徴は、会社組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団組織に分けること。それぞれの「アメーバ」のリーダーが経営者のように小集団組織の経営を行う。リーダーが的確な判断を行えるように、「アメーバ」ごとの採算を表す経営数値をリアルタイムで提供するシステムも整備する。

 「アメーバ」のリーダーが、メンバーとともに様々な努力や工夫といった「改善」を行う。その「改善」の結果はすぐに経営数値になって表れる。そうなると人間の習性として、その数値を少しでも良くする方法を考え始める。この「人間の習性」が「アメーバ経営」の駆動力だと言える。

 「アメーバ」の分け方、経営数値の作り方、といったことの詳細が、JALをはじめとする具体的な事例とともに解説されている。すぐにでも自社で適用できそうだ。

 しかし、この本では分からないこともある。それは、社員の意識改革を如何にして行うか、ということ。最初の「改善」という一回しの「駆動力」は、意識改革によって得るだと思う。もっともこれは文字にして人に伝えられることではないだろう。

 経営手法の解説本はいろいろあるけれど、本書は優れた本だと思う。組織を経営する立場の人は読んでみたらどうだろう?書店で目にしたら、巻末の付録「早わかりアメーバ経営」だけでも目を通して欲しい。 

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デザイン思考が世界を変える

書影

著 者:ティム・ブラウン 訳:千葉敏生
出版社:早川書房
出版日:2014年5月15日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 訳者あとがきによると、IDEOのトップによる著書としては、「発想する会社!」「イノベーションの達人!」に続く3冊目の邦訳書。IDEOは世界的に有名なデザイン会社。著者はティム・ブラウンは、その現CEO。

 本書のテーマは「デザイン思考」で2部構成になっている。パート1は「デザイン思考とは何か?」。デザイン思考によって成されたプロジェクトの具体例をあげながら、そのWhat?とHow?を解説する。パート2は「これからどこへ向かうのか?」。デザイン思考のさらに広いフィールドでの応用を展望する。

 デザイン思考とは?への答えは、訳者もあげているように、第1章の冒頭の日本の自転車メーカーのシマノの例で考えると分かりやすい。「一般的なデザイン」は、自転車の外観や機能をどうするか?を考えることだろう。

 しかしシマノと共にIDEOが行ったのは「どうすれば楽しく自転車に乗れるだろうか?」という問いからスタートして、自転車の購入から乗り心地、メンテナンスに至る「自転車の体験」をデザインすることだった。このように「モノ」のデザインから飛び出して、製品開発の上流や問題解決にデザイナーの思考を取り入れることを「デザイン思考」と呼んでいる。

 それで本書にはその理念と共に、「ブレーンストーミング」「観察」「プロトタイプ製作」といった、デザイン思考の「方法論」が惜しげもなく記されている。読んで明日から使える、というようなお手軽なものではないけれど、だからこそ身に着けたいと思うスキルだと思う。また、冒頭に本書の内容をまとめたマインドマップがある。本書を読み終わってもう一度見直すと、理解の助けになると思う。

 心に残る言葉も数多くあった。ただそれらではなく、笑ってしまった言葉を一つ紹介する。

「次なるiPodを作ってくれ」と言い放つクライアントは数知れないが、デザイナーたちが「それなら次なるスティーブ・ジョブズを用意してくれ」と(小声で)つぶやくのも同じくらい耳にしている。

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スモールマート革命 持続可能な地域経済活性化への挑戦

書影

著 者:マイケル・シューマン 監訳:毛受敏浩
出版社:明石書店
出版日:2013年9月30日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 以前に新聞の書評欄で紹介されていて興味を持った本。

 本書の主張をうまく言い表す言葉がある。「ローカル・ファースト」。これは米国の「地域経済活性化ビジネス協議会」という団体が掲げるスローガン。訳すとすると「地元優先」。「地元のモノを買おう(バイ・ローカル)」の考えを中心として、投資や人材育成から政策決定、エネルギー資源に至るまで、地元を優先的に考える(地元にないものは、できるだけ近くの外部から移入する)。こうした地元のリソースを最大限利用する経済活動を示唆するものを、本書では「スモールマート」と呼んでいる。

 例えば、同じものを買うのであれば全国チェーンではなく、地元資本のお店で買おうということ。これは、これまでにも様々な場所で唱えられてきた考えではある。そして、理念としては分かるけれども、全国チェーンの方が安いし便利だし...というのが大方の反応だと思う。

 本書の特長はその反応を覆すべく、地元資本のお店で買うことのメリットを追求したこと。地元のお店で買ったお金は、その一部が給与として従業員に支払われ、その従業員は近所の映画館でチケットを買い...と循環する。お金が地元に留まっていれば、それだけ地元が活性化する。問題はどのくらい留まるか?ということだ。

 この「どのくらい」を経済用語で「乗数」というのだけれど、全国チェーンで買うと当然この「乗数」が減少する。ある調査によると地元の書店で支払われた100ドルのうち44ドルが地元で流通したのに対し、チェーンの書店では13ドルだった。こんな感じで、チェーン店で買うと、お金は外に漏出していってしまう。それによって地元は、経済、雇用、納税、安定性を傷つけられてしまう。

 本書は、このようなことを数値や実例を挙げながら、ほんとうに根気強く説明する。現在TPP交渉が重要な局面を迎えているようだけれど、この本の内容に沿えばTPPに利はない、国益もない。そうは言ってもグローバル経済に参加できなくてもいいのか?という意見もあるだろう。著者はその点にも答えている。「「他に方法はない(There Is No Alternative )」を受け入れる必要はない」。このスモールマートが代替案なのだ。

 最後に。とても胸に落ちた言葉を紹介する。「一回一回の買い物は基本的には一種の投票行動」というものだ。それはそのお店への投票であり、そうしたビジネスとコミュニティへの投票、つまり賛同の意思表示なのだ。政治の選挙はたまにしか行われないが、買い物は毎日でもできる。しかも誰でも(子供でさえ)参加できる。

 実は、私が入っているSNS「本カフェ」でも似た話になったことがある。「里山資本主義」を読んで、では私たちに何ができる?となった時に、「地元のものを買うぐらいかな」と..。そのぐらいしかできることはないねぇ、という幾分ネガティブな意味合いだったけれど、「そのぐらい」であっても、投票行動・意思表示であるならば、続けることで何か変わるかもしれない、と思った。

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ニッポンの大問題 池上流・情報分析のヒント44

書影

著 者:池上彰
出版社:文藝春秋
出版日:2014年3月20日 第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の池上さんは、何でも分かりやすく教えてくれる。経済・政治・時事・国際・宗教について「池上さんに教えてもらおう」式の本は、いったい何冊あるんだろう?と思う。かく言う私も教えてもらいたくなって、時々著者の本を手に取ることになる。

 振り返ってみると著者の本を読むのは、「大人になると、なぜ1年が短くなるのか?」という対談本から始まって「14歳からの世界金融危機。」「知らないと恥をかく世界の大問題」「日本の選択 あなたはどちらを選びますか?」ときて、これで5冊目だ。

 本書は、週刊文春に連載中のコラム「池上彰のそこからですか!?」の、2013年2月21日号から2014年1月30日号掲載分を、大幅に加筆、修正したもの。このコラムをまとめた新書は「池上彰の「ニュース、そこからですか!?」
」「池上彰のニュースから未来が見える
」に続いて3冊目になる。

 「ニッポンの大問題」「トウキョウの大問題」..以下「教育」「中国」「アメリカ」「世界のモメゴト」「新興国」とそれぞれ章を立てて、様々な角度からみた日本を取り巻く問題を解説する。アベノミクス、特定秘密保護法、東京都知事選、教育改革、尖閣問題、米国大統領選、北朝鮮、シリア...時事問題が次々と俎上に載せられる。

 書いてあることがスルスルと頭に入ってきて、心地よい気持ちさえする。それはとてもいいことなのだけれど、少し注意が必要かもと思った。著者の説明が分かりやすいことと、著者の意見が私の価値観に合っていることが、心地よさの理由。でも、分かりやすさは単純化の危険を免れないし、耳触りのよい話だけでは視野狭窄に....いやいや、これはひねくれ過ぎだ。素直に「いい本だった」と認めよう。

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富者の遺言 お金で幸せになるために大切な17の教え

書影

著 者:泉正人
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2014年4月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 出版社のサンクチュアリ出版さまから献本いただきました。感謝。

 著者は「ファイナンシャルアカデミー」という「経済とお金の教養が身につくマネースクール」の設立者で代表。誰もが関わり、時には人生を左右するものなのに、日本には「お金」について学ぶ機会があまりない。そんな現状に対して「お金」について学ぶ場としてスクールを設立し、同じく「お金」について語るきっかけとして本書を記したそうだ。

 主人公は後藤英資という30代の元銀行員。2年あまり前に銀行を辞め、テイクアウトのおにぎり屋を起業した。本書の大半は彼が街で知り合った老人に話す、おにぎり屋の顛末で構成されている。彼の店は、起業してすぐに成功へと登りつめ、またすぐに転落していったのだ。

 話相手の老人の正体は、物語の結末まで分からない。しかし、後藤の話に合いの手を入れ、時に教え諭すように話す「お金の話」が、本書のキーポイント。例えば「お金はその人を映す鏡なんだよ」と言って、お金の使い方について話したりする。

 老人の話はなかなか含蓄があっていい。ただ正直に言って掴みどころがなくて、なかなか響いてこない。やはりこういった話は読む側にも実感が必要で、そのための経験が私にはないのだろう。(幸いお金で大きな失敗はない(成功もないけど))。気楽に読める易しい小説仕立ての「お金の話」という感じだ。

 最後に。サブタイトルが「お金で幸せになるために大切な17の教え」なのだけれど、何をどう数えれば17個になるのか分からない。確かに17章あるけれど、章ごとに「教え」があるわけでもない。帯の「驚きの結末に涙が止まらない」も煽り過ぎだと思う。宣伝だから多少は大目に見るとしても、期待を裏切って信用をなくしては意味がない。本書の中で、老人が「信用の力」について教えてくれているように。

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未来は言葉でつくられる 突破する1行の戦略

書影

著 者:細田高広
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2013年7月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 以前にお世話になった方がFacebookで紹介されていたのを読んで、興味が湧いたので読んでみた。

 本書のキーワードは「ビジョナリーワード」。本書ではこう説明されている。「想像の中の未来を鮮やかに言い当てる。変革の行方を指し示す。そうやって、未来の骨格となる言葉」。「ビジョン」や「コンセプト」と同義語ではあるのだけれど、それらの中で鮮明さと求心力を備えたものだと、私は理解した。

 本書は「ビジョナリーワード」を30個も例示してくれている。1つだけ紹介する。ソニーの創業者の井深大さんの「ポケットに入るラジオをつくれ」。今はありふれたモノだけれど、当時1950年代の初めでは、ラジオは冷蔵庫や洗濯機のような「家具」で、ポケットに入るラジオなんて「ありえない」代物だった。

 技術者からは「無理だ」という声が上がり、井深さん自身も「何度も中止しようと思った」そうだけれど、数年後には実現する。それは小さいラジオという製品だけではなく、「ひとりで聴く」という新しいラジオの聴き方まで創造した。さらに言えば、これがウォークマンを経てiPodにつながることを、私たちは知っている。

 本書の前半3分の2は、こうした「ビジョナリーワード」と、それを生み出した人をそれぞれ3ページでコンパクトにまとめたもの。明日からの「話のネタ」になる良くできた読み物なのだけれど、実は本書の狙いはそこにはない。

 著者は「それであなたはどうですか?本当に自分の頭で考えた言葉を使っていますか?」と問いかける。私たち一人一人が「それぞれの未来を語る言葉」を生み出すことを促すことが本書の狙い。親切な著者は後半3分の1を使って、その方法を教えてくれている。

 ひとつ新しい気付きがあった。私たちはコミュニケーションの手段としてだけでなく、何かを考える時にも言葉を使っている、ということだ。どれだけ言葉を使いこなせるかは、どれだけ考えられるかに影響する。自分や家族の明日や未来だって「言葉」で考えるのだ。だから言葉を磨こう、そう思った。

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貯金に成功した1000人みんなやっていた 貯金習慣

書影

編  集:マルコ社
出版社:マルコ社
出版日:2013年7月31日 初版第1刷発行 9月5日 第2刷発行
評 価:☆☆(説明)

 出版社のマルコ社さまから献本いただきました。感謝。

 本書は「誰もができて、より効率的な貯金術」をテーマとした本。

 世に貯金をテーマにした本は多いけれど、「誰もができる」という内容のものではないことが多い。そこで本書は、年収300万円以下で貯金に成功している1000人にアンケートを実施して、その貯金術や節約術を調査し、1冊の本にまとめた。実際にやっている人が多ければ、それだけ「誰もができる」に近づくはずだからだ。

 ただし誠に残念なことに、本書には「これは!」というものがほとんどない。「プロが指摘するお金が貯まらない人の特徴」で、「現金が手元になくても欲しいものを買ってしまう」なんて項目があるけれど、プロでなくても分かるだろう。

 節約術も「つけっぱなし・流しっぱなしをやめる」「エアコンのフィルターはこまめに掃除する」などの光熱水費を節約する細々した定番ものと、「返却期限を守り、延滞料金を避ける」という、私には節約以前の問題に思えるものが並んでいる。

 ひとつ気が利いていると思ったのは、節約で「出ていくものを減らす」だけでなく、収入増で「入るものを増やす」という視点を提供したこと。ただしこれもあまり感心しない。「朝の時間を有効に活用」「失敗を恐れずチャレンジ」でスキルアップして出世、ではちょっと説得力がない。「リスクを考えながら投資する」のような、中途半端な投資のススメは危険でさえある。

 世に多い貯金をテーマにした本とは違うものを作ろうとした意図はいい。それなのに、世に多いHowTo本の内容をかいつまんだような本になってしまった。惜しいし残念だ。

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「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法

書影

監修者:鈴木博毅
出版社:マガジンハウス
出版日:2013年9月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さんから献本いただきました。感謝。

 言うまでもなく本書が言う「空気」とは、しばらく前に流行った「KY(空気が読めない)」の「空気」のこと。例えば、連敗中のスポーツのチームを覆う重々しい「雰囲気」や、結論が最初から分かっている会議の「暗黙の了解」など。

 重々しい雰囲気を払拭すれば勝てるチームになれる。暗黙の了解を作り出せれば結論を自由に導き出せる。このように「空気」を変える方法が分かれれば、本書のタイトル通りに「思い通りに人を動かす」ことができる。

 タイトルを見れば、本書にはその「空気を変える方法」が書いてあると思うだろう。当然だ。しかし、そう思って読むとガッカリするかもしれない。その「空気を変える方法」は、最終章になるまで待たなくては出てこないからだ。

 本書の他の大部分は「空気」についての事例研究と解説だ。そう思って読めば、なかなか読み応えのある本だった。また、プロローグの1行目で著者自身が、山本七平さんの著書で1970年代に出版された「「空気」の研究 」を紹介している。もしかしたら本書は、この本へのオマージュの意味もあるのかもしれない。

 だからと言って、手っ取り早く「空気を変える方法」を知りたい人は、最終章だけ読めばいい、とはならない。分量のアンバランスを感じないわけではないが、前段の「事例研究と解説」が必要なのだ。最終章だけではその意味するところがしっかりとは分からないだろう。

 最後に。他の本の著者の複数から聞いたのだけれど、本のタイトルは、出版社の広告宣伝の範疇だそうだ。内容に対してタイトルに違和感があるのは、そういった事情かもしれない。このタイトルには確かに吸引力がある。

 ここからは書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

ビシッと言っても部下がついてくるできる上司の叱り方

書影

監修者:嶋田有孝
出版社:PHP研究所
出版日:2013年9月20日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の嶋田有孝さんから献本いただきました。以前にも「20代で読んでおきたい成功の教科書」「30代リーダーの仕事のルール」をいただいています。感謝。

 嶋田さんは、ビルメンテナンス、警備保障、メディカルサービスなどの人材ビジネスを手がける会社の社長。大学卒業後に同社に入社して、室長、部長、支店長、本部長、副社長を経て、今年6月に社長に就任されたそうだ。当然スッテプアップの度に部下の数が増える。上司としての力量もより厳しく問われるようになる。本書は、そうした著者自身の経験(失敗も含めて)から導き出された指南書である。

 明確に区分されてはいないのだけれど、本書の内容は大別して2つに分けられる。1つは「叱る側の心構え」、もう1つは「具体的・効果的な叱リ方」。

 「叱る側の心構え」は、「叱る」と「怒る」の違いから考えると分かりやすい。「怒る」は、自分が中心。自分の腹立ちを相手にぶつけることだ。相手は自分の怒りの原因を作った憎むべき者だ。「叱る」は相手のために行う行為。その目的は「あるべき姿と現在の自分との差に気付かせ」さらに「あるべき姿に近づくよう導くこと」、つまり「相手(部下)の成長」にある。

 そうすると「心構え」としては、怒ってはいけない、相手を痛めつけるような言動もダメ、ということが自然と分かる。さらには「部下の成長」は上司の責務だと考えれば、必要なら「叱る」のが仕事だと心得ておかなくてはいけない。「あの人は優しいから(叱らない)」と言われるようでは(私も時折そう言われる)、上司としての責務を果たしてないということなのだ。あまり叱ることのない私には耳が痛い。

 「具体的・効果的な叱り方」は、実践的な様々な例が挙げられている。「叱る前に事実を正確に確認」「その場で即座に」「叱る時間は3分が限界」..。なるほどと思ったのは「ミスを憎んで部下を憎まず」。「君はどうしてこんなミスをしたんだ!」ではなく、「このミスの原因は何なんだ」と言う。これでは責任の所在があやふやにできてしまい、ちょっと甘い気もするけれど、この方が問題解決にはつながりやすいだろう。

 「心構え」は一朝一夕に身につかないとしても、「叱り方」はできるところからすぐに変えられる。いわばHowTo。「明日から使える」と言いたいところだけれど、「叱る」ことはそんなにお手軽ではない。本書の一項目に書かれているのだけれど、叱って効果が出るためには、部下からの「信頼」と「評価」と「(一定の)距離」という土壌が必要だそうだ。やはり一朝一夕にはできない。

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何のために働くのか 自分を創る生き方

書影

著 者:寺島実郎
出版社:文藝春秋
出版日:2013年6月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 記事をよく参考にさせていただいている「人生を豊かにするビジネス読書ブログ」で紹介されているのを読んで、面白そうだと思った。著者が、テレビの報道番組で経済政治国際問題を、鋭い切り口で語られるのを見て、その考えを著書で読んでみたいとも思っていた。

 「はじめに」によると、本書は「就職という人生の転機において迷い悩む学生」「就職しても三年で三割が転職する若者」の表情をみつめてきた著者が、こうした若者たちに考えるヒントを提供する試みとして書かれたそうだ。つまり私のような、社会人生活が30年になろうとする者を対象としているわけではないらしい。

 だからと言って本書を放り出すのは早計に過ぎる。なぜなら本書は「働く意味」を切り口としながら、著者の現代認識が語られているからだ。グローバル化、アジアダイナミズム、IT革命、食と農業、TPPといったテーマが、テレビの報道番組より掘り下げて解説されている。さらに著者自身の半生も併せて語られることで、解説の背景を感じることができて説得力も増している。

 私はもう「何のために働くのか」疑問に悩んだりしなくなったが、著者が提示した「カセギ」と「ツトメ」という言葉は胸に落ちた。「カセギ」は経済的自立のためのお金を稼ぐこと、「ツトメ」は社会への参画とか貢献、つまり何らかの役割を果たすこと。働く目的はこの2つを満たすためだ。逆に言えば、どちらかが不足すれば別の方法で補わなければ、その人生は不安定なものになる。

 ところで、本来の対象である若者に向けてはどうか?私は、就活にあたって若者に課する負荷が過大すぎるように思った。「短期の業績を調べるのでなく、どういうビジネスモデルで収益を上げているのかに着目」と言われても難しい。さらに「環境の変化に対応できる未来挑戦型の企業を探す」「経営者の人間力を自分の肌身で感じ取る」なんて言われても戸惑うばかりだと思う。

 最後に、本書に関連して。知り合いに「お祈りメールが届く」という話を聞いた。宗教がらみではない。企業からの不採用通知のメールのことで、最後にご健闘(ご活躍)をお祈りします、と書かれているから、そう呼ばれるようになった。知り合いのお子さんに毎日のように届くそうだ。30年前の私の就職活動とは様子が随分違うようだ。

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