自分を操る超集中力

書影

著 者:メンタリストDaiGo
出版社:かんき出版
出版日:2016年5月27日 第1刷 7月1日 第5刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の顔はテレビで見たことがあり、「メンタリスト」という職業か肩書かなのだということも知っていた。でも「メンタリスト」が何なのかは知らない。著者紹介によると「人の心を読み、操る技術」を「メンタリズム」と言い、その技術を駆使する人を「メンタリスト」と呼ぶそうだ。

 本書は、その著者が、自分の「集中力をコントロールする術」について書いている。著者は「メンタリスト」だから、人の心を操る技術に長けているわけで、その技術を自分に使えば、心の問題でもある「集中力」を「コントロール(操る)」することもできるわけだ。

 本書の主張はこんな感じ。「ウィルパワー」という、脳の前頭葉を源とする「思考や感情をコントロールする力」。この「ウィルパワー」には一定の量があり、集中力を使う度に少しずつ消耗する。枯渇してしまえばもう集中力を使えなくなる。だから、その「ウィルパワー」の量を増やすか、消耗を減らすかすることが、集中力を高めることになる。

 「量を増やす」と「消耗を減らす」。本書は多くのページを費やして、この二つの方法を紹介している。それも「具体的な行動」に落とし込んで紹介しているので、明日からでも取り入れることができる。例えば「机の周りを片付ける」「15分に一度は立ち上がる」「1~2時間にコップ1杯の水」等々。

 ひとつ「確かにそうだよな」と思ったこと。「脳は小さな意思決定の連続によって疲弊していく。しかも「今は面倒だから..」と後回しにすると、持続的に疲れが増していく」。仕事でも家庭でも、思った以上に多くの、細々とした意思決定を私たちは行っている。面倒な事、特に雑事ほど、すぐに片づけてしまった方がいい。

 もうひとつ。「集中力の高い人は、実は短時間の集中を繰り返している」。25分の集中と5分の休憩を繰り返す、というのが目安らしい。これは使えそう。

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スティグマータ

書影

著 者:近藤史恵
出版社:新潮社
出版日:2016年6月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「サクリファイス」シリーズの5作目。日本人選手の白石誓を軸に、自転車ロードレースの世界を、風が感じられるような筆致で描く。ミステリーと人間ドラマも特長。

 前作の「キアズマ」は大学の自転車部に舞台を移したもので、その前の「サヴァイブ」はスピンオフの短編集だから、本編とも言える白石の物語は「サクリファイス」「エデン」に続くいて3つ目。時間的には白石がヨーロッパに渡って6年目、「エデン」の3年後という設定。

 白石は、フランスバスク地方の「オランジュフランセ」というチームにいる。プロの中では弱小チーム。そこに、ニコラ・ラフォンという若手の有力選手が移籍してきた。ツール・ド・フランスで総合優勝も狙える。白石は「アシスト」で、「エース」のニコラのレースをサポートする役割だ。

 物語は、ツール・ド・フランスの約3週間を描く。そのツールにで、5年前にドーピングでレースの世界を去った、メネンコというかつてのスター選手が復活を果たす。レースを前にして、白石はメネンコからある依頼をされそれを受ける。

 今回も楽しめた。もっと言えばこれまでの中で最も安定感を感じる。じっくりと作品世界に浸ることができる。それはたぶん、「サヴァイブ」を含めてこれまでに3作の、「白石の物語の蓄積」があるからだろう。

 もう少し説明を試みる。ニコラが「エデン」でライバルチームのエースだったように、本作で脇を固める他の選手たちも、多くは前作までに登場して描きこまれている。本作では彼らが、血の通ったキャラクターとして、物語を支えてくれている。

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インターネットは自由を奪う

書影

著 者:アンドリュー・キーン 訳:中島由華
出版社:早川書房
出版日:2017年8月25日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 インターネットによって、私たちの生活が便利で快適になった。しかしその裏では様々な悪弊や破壊が起きている。本書はそういったインターネットの負の側面をあぶりだす警告の書。原題は「The Internet Is Not The Answer」(インターネットは解決策じゃない/日本語のタイトルは内容をうまく表せていないと思う)。

 タイトルでわざわざ「解決策じゃない」と謳っているのは、「解決策だ」と思っている人がいて、それがある程度は世間に認められているからだ。インターネットは、「一般の人々に発言権」を与え「多様性」と「透明性」をもたらす。あるいは「社会的・経済的機会」を「平等に広く行き渡らせる」。それは違う、と著者は声高に言う。

 著者によると、シリコンバレーの企業家に、こういうインターネットを礼賛する人が多いらしい。著者自身もシリコンバレーで起業経験があり、現在も起業家や投資家を相手としたサロンを運営している。そこで出会う人々は、疑うこともなく「インターネットが世界を良くする」と考えているそうだ。

 ところが実際に起きていることは、とてもそうとは言えない。経済格差・文化格差は広がり、多様性は損なわれている。皆が知っている分かりやすい例でいうと、アマゾンが書店をドンドンと廃業に追い込んでいる。米国の研究所の調査によると、売上高1000万ドル当たりの従業員数が、実店舗のある書店では47人、アマゾンは14人。米国で2万7000人の雇用を破壊した計算になるそうだ。

 問題視すべきなのは、経済的な破壊だけではない。グーグル、フェイスブック、ツイッターは、私たちの「ライフログ」をお金に換えている。「いつ誰とどこに行ったか」「何を買ったか」「どんなことに興味があるか」。彼らの事業は「個人情報」という商品を生成する工場のようなもの。私たちは、検索したり投稿したりすることで、せっせと商品を生成する。その工場でタダ働きしているようなものなのだ。

 というような、インターネットとシリコンバレーの企業家についての、とてもネガティブな情報が満載。冒頭に書いたように「私たちの生活が便利で快適になった」ことは事実で、そのことにほとんど触れられていない本書は、その意味ではバランスが悪い。しかし、これは知っておくべきこと、意識しておくべきことだと思った。

 最後に覚えておきたい一文を。「彼らのような伝道師がおかしている間違いは、インターネットのオープンな分散型のテクノロジーが、そのまま社会の階層構造および格差の解消につながると決めつけている点である

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マスカレード・ナイト

書影

著 者:東野圭吾
出版社:集英社
出版日:2017年9月20日 第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「マスカレード・ホテル」の続編、数年後の設定。本書の前に「~ホテル」の前日譚となる「マスカレード・イブ」が刊行されているから、本書でシリーズ3作目。帯によると累計267万部突破、だそうだ。

 舞台はこれまでと同じホテル「コルテシア東京」。主人公も同じで警視庁の刑事である新田浩介と、「コルテシア東京」の山岸尚美。山岸は、前作ではフロントクラークだったが、今回はホテルが新設したコンシェルジュ・デスクに就いている。

 今回はこんな事件。練馬区のマンションで女性の遺体が発見された。死因は心臓麻痺らしい。外傷も苦しんだ形跡もない。一見すると事件性は乏しい。しかし、事件の発端が「匿名通報ダイヤル」の通報だということから、捜査を進めるさなかに「密告状」が届く。そこにはこの事件の犯人が、コルテシア東京のカウントダウン・パーティに現れる、と書いてあった。

 匿名の通報者と密告状の送り主は同一人物なのか?犯人との関係は?そもそも犯人を告発したいのなら、その素性を伝えてくればいいわけで、このような回りくどいことをする目的は何なのか?捜査本部は翻弄される。そんな中で新田はフロントクラークとしてホテルに潜入して捜査を始める。

 超一流ホテルは、様々な素性の人間が利用する。夫婦や家族を装う者も、偽名を使う者も少なくない。いわば素顔を隠して仮面を付けた人間が集まる。そういったことを、このシリーズ全体の共通のタイトルの「マスカレード(仮面舞踏会)」は表している。

 それはこれまでは比喩だったけれど、今回の「カウントダウン・パーティ」は、なんと仮装パーティで、参加者は文字通り仮面を付けている。バットマンやアンパンマンや目玉おやじがウロウロする現場。捜査が面倒なことは言うまでもない。この難しい条件で、事件を(そもそも何が起きるかもわかっていないのだけれど)未然に防ぎ、犯人を追い詰める。それが本書の見どころ。

 見どころはまだある。山岸がコンシュルジュになった。「客室の窓から見える遠くのビルのポスターが気になるから何とかしてくれ」「レストランでプロポーズをするので、彼女に気付かれずに後ろにバラの花道を作ってくれ」こんなムリめな要望に彼女がどう応えるか?これがけっこう読者の関心を引き付ける。

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ギリシア人の物語2 民主政の成熟と崩壊

書影

著 者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2017年1月25日発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「ローマ人の物語」の著者による新シリーズの第2弾。読むのが2年ほど間が空いてしまったけれど、「ギリシア人の物語1 民主政のはじまり」の続き。

 前作では、スパルタとアテネの成り立ちと、2度にわたるペルシア戦役を描いた。そのペルシア戦役が、前480年のサラミスの海戦、前479年のプラタイアの戦いで、ギリシア諸国が圧勝して終結する。本書はそれから10数年後の前461年に、ペリクレスがアテネを率いるようになった年から始まる。

 その時ペリクレスは34歳。若くはあったけれど、家柄と才能に恵まれていた。いくつかのピンチを乗り越え、時にはそれをチャンスに変えて、アテネと、アテネを中心とするエーゲ海諸国の同盟である「デロス同盟」を治めた。対抗するスパルタとペルシアの王が、共に同年代の英明な人物であったことも幸いした。

 このペリクレスの死までが第一部「ペリクレス時代」。本のタイトル「民主政の成熟と崩壊」をなぞると「成熟」の部分。とすると、第二部「ペリクレス以後」は「崩壊」の部分になる。著者によると、アテネは50年かけて築きあげた民主政下の繁栄を、半分の25年で台無しにしてしまう。

 その第二部は、ペリクレスを代父に持つアルキビアデスを中心にして描かれる。彼も若くしてアテネの指導的立場に立つが、遠征先で本国から告発され、逃亡・亡命、さらに別の場所へと、波乱に富んだ人生を送る。その間にアテネの国力は、そぎ落とされるように弱まっていく。

 著者が描く歴史作品はやっぱり面白い。2500年前の出来事が生き生きと感じられる。エッセイなどでの政治的な発言には、私は同意しかねるのだけれど、それとこれは分けて考える。面白いものは面白いし、好きなものは好きだ。

 「分けて考える」と言った直後に恐縮だけれど、本書を読んでいて、著者の政治的な発言の背景が垣間見えた気がする。著者は「何かを成した人」を高く評価する。そして「成さずに批判した」人には特別に厳しい。

 デマゴーグ(扇動者)が現れて、アテネは「衆愚政」に陥ってしまう。そのデマゴーグの筆頭が、ペリクレスを公金悪用罪で弾劾して名を上げた人物なのだ。現代に置き換えれば「何かを成す人」は政権側の人で、その問題点を追及する野党はデマゴーグ、少なくとも著者にはそのように映っているのではないかと。

 最後に。気になった言葉を。「自信があれば、人間は平静な心で判断を下せるのである。反対に、不安になりその現状に怒りを持つようになると、下す判断も極端にゆれ動くように変わる。こうなってしまうと、民主政の危機にはあと一歩、という距離しかない。

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クリスマスを探偵と

書影

著 者:伊坂幸太郎 絵:マヌエーレ・フィオール
出版社:河出書房新社
出版日:2017年10月30日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

  完全に時機を逸してしまったけれど、クリスマスをテーマにした作品。

 本書は、以前に出版された「文藝別冊 [総特集]伊坂幸太郎」に収録された短編に、マヌエーレ・フィオールというイタリアの漫画家・イラストレーターの方の絵を付けて、絵本として出版したもの。ちなみに、この短編は伊坂さんが18歳の時に書いた「生まれて初めて完成させた物語」をリメイクしたもの。

 主人公はカール。15歳で家出をして、いくつかの職を経た後、4年前からは探偵まがいの仕事をしている。今日もクリスマスイブだというのに、浮気調査のために寒空のローテンブルクの街で、腹にたっぷりと肉の付いた50過ぎの男を尾行している。

 その男性が入って行った屋敷の近くにある公園で、ベンチに腰掛けて本を本を読んでいたサンドラと名乗る男性と言葉を交わす。時間もあることだし成り行きで、カールはサンドラに自分の身の上に起きたことを話始める。子どものころのクリスマスにまつわる苦い思い出を。

 著者自身が「技術的にはかなり拙いものだったのですが、アイディアやストーリー展開については気に入っていました」とおっしゃっている。先入観があることを承知で言うけれど、ストーリー展開には「著者らしさ」が感じられる。こうだと思っていたことが、実はそうではない(かも)。そいういう物語。

 昨年のクリスマスに合わせて読んだアンソロジー、「X’mas Stories」に収録されていた著者の作品「一人では無理がある」と、共通する着想もあって両方読むと面白さが増す。

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2030年の旅

書影

著 者:恩田陸、瀬名秀明、小路幸也ほか
出版社:新潮社
出版日:2017年10月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 新年の1冊目ということで、未来のことを考えてみようと思って、本書を選んだ。

 本書は2030年の日本の姿を、8人の作家さんがそれぞれ描いたアンソロジー。恩田陸さん、瀬名秀明さん、小路幸也さん、支倉凍砂さん、山内マリコさん、宗田理さん、喜多喜久さん、坂口恭平さん。恩田さんと小路さんは、私にとってお馴染みの作家さんだけれど、他の方は多分初めて。

 どれも短い中で展開の上手い物語になっていて面白かった。2作品だけ紹介する。

 1つ目は恩田陸さんの「逍遥」。ロンドン郊外に集まった3人の男性の話。そこでちょっとした事件がらみの、落し物の時計を探す。「集まった」と言っても、実はRR(リモート・リアル)という技術を使っていて、一人はマレーシア、一人は香港に実体がある。物に触ることもできるし、その場所では他の人からも見える。

 「他の人からも見える」となると、同時に2か所に居るようなものだから、アリバイなんて作り放題で、こんな技術が実現したら、犯罪捜査は大変だ。

 2つ目は山内マリコさんの「五十歳」。老齢の両親を助けるために帰郷した五十歳の女性の話。帰郷した時にはピンピンしていた両親があっけなく亡くなり、今は実家で一人暮らし。市の嘱託職員として、高齢者をショッピングモールや病院に送迎する仕事をしている。その日は新人を研修として、仕事に同行させる。

 予備校で英語を教えていたけど、少子化のあおりで閉校、その後に始めた英会話教室も、生徒が集まらずにクローズ。自動翻訳の機能が飛躍的に向上してわざわざ英語を勉強する人がいなくなってしまった。この経歴に「これはたぶん確実に起きる未来だ」と思った。

 2030年というと、今から12年。時代の変化が激しいとは言っても、まったく予想できないというほど先でもない。本書でも、AIやVRといった技術の進歩と、少子高齢化といった社会の変化という、現在既にみられる方向性が共通して題材になっている。

 帯に「日本のアカルイミライ」と書いてあるけれど、明るいとばかりは言えない。でも、このくらいの未来なら「まずまず良いシナリオ」だと思う。

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2017年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。小説部門、ビジネス・ノンフィクション部門ともに10位まで紹介します。
  (参考:過去のランキング 2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は102作品でした。☆の数は、「☆5つ」が4個、「☆4つ」が50個、「☆3つ」は44個、「☆2つ」が5個、です。
 「☆5つ」の4個のうち小説は1個だけで、少し評価が辛かったかな?と思いました。「☆4つ」(楽しめた(役に立った)。おススメ)が、半分の50個もありますから、今年も読書を楽しんだなぁと改めて実感しました。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
かがみの孤城 / 辻村深月 Amazon
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少年少女が鏡を通り抜けてお城に集い、秘密の部屋の鍵を探す、というファンタジックな設定。それぞれに抱えているものがあり、それを丁寧に描くことで、本当に奥深い物語になっている。
蜜蜂と遠雷 / 恩田陸 Amazon
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直木賞と本屋大賞のダブル受賞作品。国際的なピアノコンクールを舞台とした出場者たちの群像劇。文章が、音楽と映像の両方の感覚を呼び覚ます。物語の力を示した著者渾身の作品。
君たちはどう生きるか / 吉野源三郎 Amazon
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80年前の1937年、日本が戦争を始めたころに出版された作品。倫理や哲学的なテーマを、少年と叔父の対話として身近な問題に引き付けて綴る。今なお大事なことが書いてある。
真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥 / 大沼紀子 Amazon
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「まよパン」シリーズの最終巻。真夜中に営業するパン屋と、そこにやってくる入り組んだ事情を持ったヤヤこしい人々が紡ぐ物語。ちょっと欠けた部分のある人間たちの優しさが素敵に感じる。
暗幕のゲルニカ / 原田マハ Amazon
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ピカソの「ゲルニカ」を巡るミステリー。MoMAのキュレーターが主人公の「現代」と、ピカソの愛人が生きる「過去」の、2つの物語が響き合う。キュレーターでもある著者にしか書けない物語。
ホワイトラビット / 伊坂幸太郎 Amazon
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誘拐をビジネスにしているグループで働いている男が引き起こした人質立てこもり事件。登場するのがクセのある人物ばかりで誰も信用できない。著者お得意のトリックが仕込まれた物語。
アキハバラ@DEEP / 石田衣良 Amazon
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アキハバラのオタクたちが作った会社と、そこで開発した画期的な検索エンジンを巡る、大企業との攻防。「不適応者の群れが、新しい時代のチャンピオンになる」痛快なストーリー。
玉依姫 / 阿部智里 Amazon
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ファンタジー、ミステリーファン注目の八咫烏するシリーズの第5弾。「山内」という異界を舞台としてきたシリーズで、突然現代の日本を舞台に。著者は新人ながら物語巧者であることを証明。
不時着する流星たち / 小川洋子 Amazon
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実在する人物や出来事からの連想によって、著者が紡ぎ出した10編の物語たち。何か少しだけ、でも決定的におかしい。例えると「リアルな夢」。そんな物語をたっぷりと楽しめる。
10 罪の声 / 塩田武士 Amazon
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山田風太郎賞受賞。1980年代の「グリコ・森永事件」を題材にした作品。犯人の家族を描くことで、未解決事件のありゆる「真相」を提示。「事件の後」を丁寧に描いたことも秀逸。

 今年の第1位「かがみの孤城」は、昨年の「東京會舘とわたし」に続いて2年連続の辻村深月さんの作品になりました。さらに一昨年は「ハケンアニメ」が第2位。辻村深月さんの作品が好きだとは感じていましたが、ランキングを付けることで「こんなに好きだったのか!」と、自分でも驚いています。

 4位「真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥」、8位「玉依姫」は、シリーズの中の1冊で、その本自体に加えてシリーズとしての評価も加味しました。もし読んでみようと思われたなら、ぜひシリーズの1冊目から順に。そして1冊目がそれほどでもなくても、2冊目3冊目ぐらいまでは読んでいただきたいです。

 選外の作品について言うと、岡田淳さんの「こそあどの森の物語 はじまりの樹の神話」、西加奈子さんの「i(アイ)」 が、心に残りました。その他、小路幸也さんの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」、ジェフリー・アーチャーさんの「機は熟せり」は、長く続くシリーズの1冊で、こちらはシリーズ全体としておススメ。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
みみずくは黄昏に飛びたつ / 村上春樹 川上未映子 Amazon
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川上未映子さんが村上春樹さんに聞いたインタビュー。文字数にして25万字。同業者のインタビューだからか、機微に触れる話も。ファンではなくても、春樹さんに興味があれば楽しめる。
スノーデン 日本への警告 / エドワード・スノーデン Amazon
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エドワード・スノーデン氏が、滞在先のロシアから参加したシンポジウムを書籍化したもの。「言論の自由やプライバシーの権利は社会全体に利益をもたらす」という指摘を重く受け止めたい。
福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」 / NHK取材班 Amazon
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福島第一原発の事故について、6年間にわたる取材によって明らかになったことまとめたもの。「なぜそれが起きたか」「どうすれば防げたか」を調べて考えることが未来のために必要。
ライフ・シフト / リンダ・グラットン アンドリュー・スコット Amazon
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2007年生まれの人が半分に減る年齢は104歳。平均寿命が80歳台なので、人生80年と思っていたら100年だった。それに合わせた人生をしなければならないことに気付かせてくれる本。
歴史の愉しみ方 / 磯田道史 Amazon
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歴史学者の著者のエッセイが52編。「忍者の子孫を訪ね歩き、根こそぎ古文書を見ていく」という、フィールドワーク主体の歴史学者のスタイルを知った。歴史学の存在価値にも触れる本。
言葉にできるは武器になる / 梅田悟司 Amazon
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電通の現役のコピーライターによる「言葉」の指南書。特筆すべきは、言葉を「伝える道具」としてだけでなく「考える道具」としたこと。よりよくより深く考えるためにも言葉を磨かなくてはいけない。
日本会議の研究 / 菅野完 Amazon
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安倍内閣の閣僚の大半が関わりを持つ「日本会議」という民間団体を、ルーツから掘り起こしたレポート。今の世の中の動きと照らし合わせると、本書の内容が説得力を持って迫ってくる。
キャスターという仕事 / 国谷裕子 Amazon
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「クローズアップ現代」を降板した著者が、鋭い問題意識を通して番組について綴る。「映像」が最大の情報であるテレビの世界で、複雑な問題や思想を伝えるための「言葉」の力と怖さを指摘。
新聞記者 / 望月衣塑子 Amazon
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著者は、官房長官会見で有名になった東京新聞の記者。子どものころから書き起こして、駆け出し記者時代を経て現在に至るまでを綴る。著者の新聞記者としてのあり方の理由が分かる。
10 一汁一菜でよいという提案 / 土井善晴 Amazon
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著者料理は研究家。夕食は「ご飯と具だくさんのみそ汁」だけでOK。「きちんとした食事はおかずが何品以上」という固定観念へのアンチテーゼ。毎日の料理をする人は、これで気が楽に。

 下位とは言っても、菅野完、国谷裕子、望月衣塑子と並んでいて、上位の方には原発問題もリストアップされているので、一定の傾向が出ていることは否めません。現在の政治・社会のあり方に対する強い危機感が私にはあって、特に新書を手に取る時にその思いが強く影響しています。

 そんな中で、1位の「みみずくは黄昏に飛びたつ」は、政治・社会をテーマにしたものではありません。学生時代から30年以上も読み続けている、村上春樹さんのことをさらに知ることができました。聞き手の川上未映子さんに感謝です。

 こうして並べてみて気が付いたことがあります。本の間に一見では分からない関連性があることです。例えば、3位の「福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」」と、5位の「歴史の愉しみ方」。「歴史の~」で著者の磯田さんは、原発事故を経験して、歴史学の社会への生かし方について考え行動をとられています。

 また、6位の「言葉にできるは武器になる」と、8位の「キャスターという仕事」は、ともに「言葉の力」について書いています。9位の「新聞記者」にも通じます。そして、2位の「スノーデン 日本への警告」とも「報道の自由」というテーマが共通します。ちょっと面白かったです。

3時のアッコちゃん

書影

著 者:柚木麻子
出版社:双葉社
出版日:2017年10月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2014年の本屋大賞ノミネート作品「ランチのアッコちゃん」の続編。表題作「3時のアッコちゃん」を含む4編を収録した短編集。

 「3時のアッコちゃん」の主人公は、「ランチの~」と同じで澤田三智子。先頃、東京にある大手の商社で、派遣社員から契約社員に昇格した。宣伝部でシャンパンのキャンペーンの企画チームにいる。傍目には順風に見えるかもしれないけれど、実態はそうでもない。

 キャンペーンの企画が行き詰っている。そんな時に三智子の前に現れたのが黒川敦子。三智子の元上司のアッコさん。これまでも突拍子もないことを言い出していたけれど、今回も。自分がアフタヌーンティーを出すから、5日間続けて企画会議を3時に開け、と。

 まぁ、アッコさんが出す紅茶(と三智子に出すアドバイス)が抜群の効果を発揮する。前作もそうだけれど「うまく行きすぎる」と思う部分はある。でも、うまく行く行かないは、こんなちょっとしたことで変わるのかもしれない、と思わせるぐらいには筋が通っている。

 この他の3編は、主人公が、デリバリーサービスの電話オペレーター、お菓子メーカーのデザイナー、就職活動中の女子大生、とそれぞれ違う。後半の2編は関西が舞台で、アッコさんは直接は登場しない。でも、アッコさんが経営するスムージー屋が登場する。関西に進出したらしい。

 最後に。お菓子メーカーのデザイナーが主人公の「シュシュと猪」は神戸の東の端、阪急岡本駅付近が舞台。タイトルと舞台の組み合わせでピンと来た人は、そうでない人よりきっと楽しめるはず。

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X’mas Stories

書影

著 者:朝井リョウ、あさのあつこ、伊坂幸太郎、恩田陸、白河三兎、三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 発行 12月15日 第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 もうすぐクリスマスなのでクリスマス・アンソロジー。朝井リョウさん、あさのあつこさん、伊坂幸太郎さん、恩田陸さん、三浦しをんさん、という私が大好きな作家さんが名を連ねる、夢のコラボレーション。白河三兎さんはたぶん初めて。

 収録作品を順に。朝井リョウさんの「逆算」は、1日に何度も逆算してしまう女性の話。お釣りの小銭が少なるように、時間に間に合うように。街で見かける人のこれまでの人生まで想像してしまう。あさのあつこさんの「きみに伝えたくて」は、好きだった高校の同級生の思い出を抱えた女性の話。ホラーミステリー。

 伊坂幸太郎さんの「一人では無理がある」は、サンタクロースの話。クリスマスにプレゼントをもらえない子どもたちに、プレゼントを配る組織。ケアレスミスが思わぬ結果を。恩田陸さんの「柊と太陽」は、遠い将来の日本の話。「再鎖国」をしてクリスマスの習慣も忘れら去られて久しい。

 白河三兎さんの「子の心、サンタ知らず」は、リサイクルショップでバイトする司法浪人の男性の話。店主は美人のシングルマザー、その子どもは小賢しいガキ。そのガキから共謀を持ちかけられる。三浦しをんさんの「荒野の果てに」は、タイムスリップもの。江戸時代の天草から現代の地下鉄明治神宮前駅に、武士と農民がタイムスリップ。

 どれも面白かったけれど、最後の「荒れ野の果てに」が、心にしみた。「天草」から想像できると思うけれど、キリシタンの迫害が物語の背景にある。タイムスリップして来た彼らから見れば、今は「理想の世界」。大事にせねば、と思う。

 クリスマスをテーマに、趣の違った物語が楽しめた。六者六様だけれど共通しているのは「クリスマスには何か特別なことが起きる」という気持ちだ。そういう気持ちはいいことだと思う。

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