2017年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。小説部門、ビジネス・ノンフィクション部門ともに10位まで紹介します。
  (参考:過去のランキング 2016年/2015年/2014年/2013年/2012年/2011年/2010年/2009年/2008年)

 今年このブログで紹介した本は102作品でした。☆の数は、「☆5つ」が4個、「☆4つ」が50個、「☆3つ」は44個、「☆2つ」が5個、です。
 「☆5つ」の4個のうち小説は1個だけで、少し評価が辛かったかな?と思いました。「☆4つ」(楽しめた(役に立った)。おススメ)が、半分の50個もありますから、今年も読書を楽しんだなぁと改めて実感しました。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
1 かがみの孤城 / 辻村深月 Amazon
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少年少女が鏡を通り抜けてお城に集い、秘密の部屋の鍵を探す、というファンタジックな設定。それぞれに抱えているものがあり、それを丁寧に描くことで、本当に奥深い物語になっている。
2 蜜蜂と遠雷 / 恩田陸 Amazon
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直木賞と本屋大賞のダブル受賞作品。国際的なピアノコンクールを舞台とした出場者たちの群像劇。文章が、音楽と映像の両方の感覚を呼び覚ます。物語の力を示した著者渾身の作品。
3 君たちはどう生きるか / 吉野源三郎 Amazon
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80年前の1937年、日本が戦争を始めたころに出版された作品。倫理や哲学的なテーマを、少年と叔父の対話として身近な問題に引き付けて綴る。今なお大事なことが書いてある。
4 真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥 / 大沼紀子 Amazon
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「まよパン」シリーズの最終巻。真夜中に営業するパン屋と、そこにやってくる入り組んだ事情を持ったヤヤこしい人々が紡ぐ物語。ちょっと欠けた部分のある人間たちの優しさが素敵に感じる。
5 暗幕のゲルニカ / 原田マハ Amazon
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ピカソの「ゲルニカ」を巡るミステリー。MoMAのキュレーターが主人公の「現代」と、ピカソの愛人が生きる「過去」の、2つの物語が響き合う。キュレーターでもある著者にしか書けない物語。
6 ホワイトラビット / 伊坂幸太郎 Amazon
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誘拐をビジネスにしているグループで働いている男が引き起こした人質立てこもり事件。登場するのがクセのある人物ばかりで誰も信用できない。著者お得意のトリックが仕込まれた物語。
7 アキハバラ@DEEP / 石田衣良 Amazon
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アキハバラのオタクたちが作った会社と、そこで開発した画期的な検索エンジンを巡る、大企業との攻防。「不適応者の群れが、新しい時代のチャンピオンになる」痛快なストーリー。
8 玉依姫 / 阿部智里 Amazon
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ファンタジー、ミステリーファン注目の八咫烏するシリーズの第5弾。「山内」という異界を舞台としてきたシリーズで、突然現代の日本を舞台に。著者は新人ながら物語巧者であることを証明。
9 不時着する流星たち / 小川洋子 Amazon
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実在する人物や出来事からの連想によって、著者が紡ぎ出した10編の物語たち。何か少しだけ、でも決定的におかしい。例えると「リアルな夢」。そんな物語をたっぷりと楽しめる。
10 罪の声 / 塩田武士 Amazon
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山田風太郎賞受賞。1980年代の「グリコ・森永事件」を題材にした作品。犯人の家族を描くことで、未解決事件のありゆる「真相」を提示。「事件の後」を丁寧に描いたことも秀逸。

 今年の第1位「かがみの孤城」は、昨年の「東京會舘とわたし」に続いて2年連続の辻村深月さんの作品になりました。さらに一昨年は「ハケンアニメ」が第2位。辻村深月さんの作品が好きだとは感じていましたが、ランキングを付けることで「こんなに好きだったのか!」と、自分でも驚いています。

 4位「真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥」、8位「玉依姫」は、シリーズの中の1冊で、その本自体に加えてシリーズとしての評価も加味しました。もし読んでみようと思われたなら、ぜひシリーズの1冊目から順に。そして1冊目がそれほどでもなくても、2冊目3冊目ぐらいまでは読んでいただきたいです。

 選外の作品について言うと、岡田淳さんの「こそあどの森の物語 はじまりの樹の神話」、西加奈子さんの「i(アイ)」 が、心に残りました。その他、小路幸也さんの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」、ジェフリー・アーチャーさんの「機は熟せり」は、長く続くシリーズの1冊で、こちらはシリーズ全体としておススメ。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
1 みみずくは黄昏に飛びたつ / 村上春樹 川上未映子 Amazon
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川上未映子さんが村上春樹さんに聞いたインタビュー。文字数にして25万字。同業者のインタビューだからか、機微に触れる話も。ファンではなくても、春樹さんに興味があれば楽しめる。
2 スノーデン 日本への警告 / エドワード・スノーデン Amazon
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エドワード・スノーデン氏が、滞在先のロシアから参加したシンポジウムを書籍化したもの。「言論の自由やプライバシーの権利は社会全体に利益をもたらす」という指摘を重く受け止めたい。
3 福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」 / NHK取材班 Amazon
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福島第一原発の事故について、6年間にわたる取材によって明らかになったことまとめたもの。「なぜそれが起きたか」「どうすれば防げたか」を調べて考えることが未来のために必要。
4 ライフ・シフト / リンダ・グラットン アンドリュー・スコット Amazon
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2007年生まれの人が半分に減る年齢は104歳。平均寿命が80歳台なので、人生80年と思っていたら100年だった。それに合わせた人生をしなければならないことに気付かせてくれる本。
5 歴史の愉しみ方 / 磯田道史 Amazon
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歴史学者の著者のエッセイが52編。「忍者の子孫を訪ね歩き、根こそぎ古文書を見ていく」という、フィールドワーク主体の歴史学者のスタイルを知った。歴史学の存在価値にも触れる本。
6 言葉にできるは武器になる / 梅田悟司 Amazon
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電通の現役のコピーライターによる「言葉」の指南書。特筆すべきは、言葉を「伝える道具」としてだけでなく「考える道具」としたこと。よりよくより深く考えるためにも言葉を磨かなくてはいけない。
7 日本会議の研究 / 菅野完 Amazon
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安倍内閣の閣僚の大半が関わりを持つ「日本会議」という民間団体を、ルーツから掘り起こしたレポート。今の世の中の動きと照らし合わせると、本書の内容が説得力を持って迫ってくる。
8 キャスターという仕事 / 国谷裕子 Amazon
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「クローズアップ現代」を降板した著者が、鋭い問題意識を通して番組について綴る。「映像」が最大の情報であるテレビの世界で、複雑な問題や思想を伝えるための「言葉」の力と怖さを指摘。
9 新聞記者 / 望月衣塑子 Amazon
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著者は、官房長官会見で有名になった東京新聞の記者。子どものころから書き起こして、駆け出し記者時代を経て現在に至るまでを綴る。著者の新聞記者としてのあり方の理由が分かる。
10 一汁一菜でよいという提案 / 土井善晴 Amazon
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著者料理は研究家。夕食は「ご飯と具だくさんのみそ汁」だけでOK。「きちんとした食事はおかずが何品以上」という固定観念へのアンチテーゼ。毎日の料理をする人は、これで気が楽に。

 下位とは言っても、菅野完、国谷裕子、望月衣塑子と並んでいて、上位の方には原発問題もリストアップされているので、一定の傾向が出ていることは否めません。現在の政治・社会のあり方に対する強い危機感が私にはあって、特に新書を手に取る時にその思いが強く影響しています。

 そんな中で、1位の「みみずくは黄昏に飛びたつ」は、政治・社会をテーマにしたものではありません。学生時代から30年以上も読み続けている、村上春樹さんのことをさらに知ることができました。聞き手の川上未映子さんに感謝です。

 こうして並べてみて気が付いたことがあります。本の間に一見では分からない関連性があることです。例えば、3位の「福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」」と、5位の「歴史の愉しみ方」。「歴史の~」で著者の磯田さんは、原発事故を経験して、歴史学の社会への生かし方について考え行動をとられています。

 また、6位の「言葉にできるは武器になる」と、8位の「キャスターという仕事」は、ともに「言葉の力」について書いています。9位の「新聞記者」にも通じます。そして、2位の「スノーデン 日本への警告」とも「報道の自由」というテーマが共通します。ちょっと面白かったです。

3時のアッコちゃん

書影

著 者:柚木麻子
出版社:双葉社
出版日:2017年10月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2014年の本屋大賞ノミネート作品「ランチのアッコちゃん」の続編。表題作「3時のアッコちゃん」を含む4編を収録した短編集。

 「3時のアッコちゃん」の主人公は、「ランチの~」と同じで澤田三智子。先頃、東京にある大手の商社で、派遣社員から契約社員に昇格した。宣伝部でシャンパンのキャンペーンの企画チームにいる。傍目には順風に見えるかもしれないけれど、実態はそうでもない。

 キャンペーンの企画が行き詰っている。そんな時に三智子の前に現れたのが黒川敦子。三智子の元上司のアッコさん。これまでも突拍子もないことを言い出していたけれど、今回も。自分がアフタヌーンティーを出すから、5日間続けて企画会議を3時に開け、と。

 まぁ、アッコさんが出す紅茶(と三智子に出すアドバイス)が抜群の効果を発揮する。前作もそうだけれど「うまく行きすぎる」と思う部分はある。でも、うまく行く行かないは、こんなちょっとしたことで変わるのかもしれない、と思わせるぐらいには筋が通っている。

 この他の3編は、主人公が、デリバリーサービスの電話オペレーター、お菓子メーカーのデザイナー、就職活動中の女子大生、とそれぞれ違う。後半の2編は関西が舞台で、アッコさんは直接は登場しない。でも、アッコさんが経営するスムージー屋が登場する。関西に進出したらしい。

 最後に。お菓子メーカーのデザイナーが主人公の「シュシュと猪」は神戸の東の端、阪急岡本駅付近が舞台。タイトルと舞台の組み合わせでピンと来た人は、そうでない人よりきっと楽しめるはず。

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X’mas Stories

書影

著 者:朝井リョウ、あさのあつこ、伊坂幸太郎、恩田陸、白河三兎、三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 発行 12月15日 第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 もうすぐクリスマスなのでクリスマス・アンソロジー。朝井リョウさん、あさのあつこさん、伊坂幸太郎さん、恩田陸さん、三浦しをんさん、という私が大好きな作家さんが名を連ねる、夢のコラボレーション。白河三兎さんはたぶん初めて。

 収録作品を順に。朝井リョウさんの「逆算」は、1日に何度も逆算してしまう女性の話。お釣りの小銭が少なるように、時間に間に合うように。街で見かける人のこれまでの人生まで想像してしまう。あさのあつこさんの「きみに伝えたくて」は、好きだった高校の同級生の思い出を抱えた女性の話。ホラーミステリー。

 伊坂幸太郎さんの「一人では無理がある」は、サンタクロースの話。クリスマスにプレゼントをもらえない子どもたちに、プレゼントを配る組織。ケアレスミスが思わぬ結果を。恩田陸さんの「柊と太陽」は、遠い将来の日本の話。「再鎖国」をしてクリスマスの習慣も忘れら去られて久しい。

 白河三兎さんの「子の心、サンタ知らず」は、リサイクルショップでバイトする司法浪人の男性の話。店主は美人のシングルマザー、その子どもは小賢しいガキ。そのガキから共謀を持ちかけられる。三浦しをんさんの「荒野の果てに」は、タイムスリップもの。江戸時代の天草から現代の地下鉄明治神宮前駅に、武士と農民がタイムスリップ。

 どれも面白かったけれど、最後の「荒れ野の果てに」が、心にしみた。「天草」から想像できると思うけれど、キリシタンの迫害が物語の背景にある。タイムスリップして来た彼らから見れば、今は「理想の世界」。大事にせねば、と思う。

 クリスマスをテーマに、趣の違った物語が楽しめた。六者六様だけれど共通しているのは「クリスマスには何か特別なことが起きる」という気持ちだ。そういう気持ちはいいことだと思う。

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弥栄の烏

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  八咫烏シリーズの第6弾。これにて第一部の完結。 このシリーズの舞台は、八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らす「山内」と呼ばれる世界。ところが、前作の「玉依姫」はいきなり1995年の日本が舞台となった。そして今回は再び「山内」に物語が戻ってきた。

 こんな感じで舞台は大きく振幅するのだけれど、前作と今回は背中合わせに密接した構成になっている。前作で描かれた東京の女子高校生の志帆の物語の同じ時間に、山内の八咫烏たちには何が起きていたか?を描く。

 「大猿」の襲撃を受けた山内は戦々恐々としていた。そこに、その「大猿」の頭が堂々と禁門を通って現れる。厳戒態勢にあった八咫烏たちは、一斉に攻撃するが、矢も刃も効かない。そして大猿は八咫烏の若宮の奈月彦にこう言う「久しぶりだようなぁ、八咫烏の長よ」

 大猿は奈月彦に「山神」の居る「神域」に共に来るように言い、奈月彦はそれを受ける。この後は、前作で志帆の視点で描かれた物語を、奈月彦の視点で描きなおすと同時に、山内の八咫烏たちの動静を語る。物語に厚みが増す。

 色々な謎に答えが出て、色々な出来事に決着が着く。冒頭の繰り返しになるけれど、これにて第一部の完結。ただし、すべての答えが出て、すべての決着が着いたわけではない。私としては「描き切った」感はあまり感じなかった。まぁ、第二部が予告されているのだから当然だ。

 八咫烏シリーズ公式Twitterによると、第二部で終了の予定。つまりここで折り返し。第1巻「烏に単は似合わない」から「ずい分遠くまで来たけれどまだ半分か」と思う一方、「もっと長く読んでいたい」とも思う。来年中には第二部をスタート、が目標とか。ぜひ目標を達成してほしい。

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福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」

書影

著 者:NHKスペシャル「メルトダウン」取材班
出版社:講談社
出版日:2017年9月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、NHKスペシャルの「メルトダウン」という6回シリーズの取材班が、福島第一原発の事故について、6年間にわたる取材によって明らかになったことを1冊の本にまとめたもの。タイトルの「失敗の本質」は、言うまでもなく、大東亜戦争時の日本軍の戦い方を研究した名著「失敗の本質」を倣ったものだ。

 かの本は、旧日本軍の失敗の研究成果を、現代の日本への教訓として活用することを目的とした。同じように本書は、福島の事故を将来の日本への教訓として生かすために、あの時の真相と深層を記録する。

 取材班がまず着目したのは、1号機に付いていた冷却装置の「非常用復水器」だ。英語でアイソレーション・コンデンサー(Isolation Condenser)、通称「イソコン」。電源がなくても原子炉を冷却できる。全電源を喪失した今回の事故のことを考えると切り札的な存在だ。

 この切り札の「イソコン」が有効に働かなかったことが、最大のターニングポイントになった。1号機の冷却が進んでいれば、水素爆発もメルトダウンも起こらなかった、と考えられている。では「イソコン」は動かなかったのか?否、ちゃんと起動した。故障してしまったのか?否、予定通りに動作した。では、なぜ?

 答えをここに書くのは簡単なのだけれど、敢えてそうしない。答えだけを知ると、その原因を作った誰かの「責任」だと思うだろう。その誰かを「犯人」にしてしまうに違いない。でも、この本はそうしたことを望んでいない。本書を読めば犯人探しが目的ではないことは、はっきり分かる。

 それは、特定の誰かが「悪い」と決めたところで「将来の日本への教訓」にはならないからだ。必要なのは「なぜそれが起きたか」「どうすれば防げたか」だ。海水注入を中断させたのは「何と菅総理その人だったのです」なんてメルマガに書いた人がいた。「犯人」を特定して晒して得意がる低俗さを、本書は持ち合わせていない。

 ちなみにこの「海水注入中断」問題についても、本書にとても詳細に記されている。取材班の取材の執拗さから考えて、これがおそらく真相だ。5年半経って重要な事実も判明したのだけれど、これがけっこう切ない。

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素敵な日本人

書影

著 者:東野圭吾
出版社:光文社
出版日:2017年4月5日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 文芸誌の「小説宝石」のミステリー、SFの特別編集号等に掲載された、9編の短編を収録した短編集。著者は重厚な長編ミステリーや軽快なコメディも面白いけれど、小気味いい短編も楽しい。

 収録作品は「正月の決意」「十年目のバレンタインデー」「今夜は一人で雛祭り」「君の瞳に乾杯」「レンタルベビー」「壊れた時計」「サファイヤの奇跡」「クリスマスミステリ」「水晶の数珠」。

 最初の2つだけ紹介。「正月の決意」。正月には書初めをしてお屠蘇をいただく、そういう古風な暮らしぶりの夫婦が、初詣に神社に行くと賽銭箱の前に下着姿の死体が..。警察が来て捜査が始まるけれど、あの人もこの人も何とも無責任で、どうしょうもない感じ。

 「十年目のバレンタインデー」。10年前に突然姿を消したかつての恋人から、食事の誘いを受けたミステリー作家。甘い期待とともに誘いを受け、バレンタインデーのフレンチレストランで再会を果たす。彼女の口からは自身の作品を評価する言葉が..さて彼女の目的は?

 ミステリー作家の作品らしく、謎解きがあるし、何編かには殺人事件も起きる。でも、本書の作品の一番の読みどころはそこではなくて、最後のオチと、その多くが何となく「いい感じ」なことだ。私は、星新一さんのショートショートみたいだな、と思った。

 タイトルの「素敵な日本人」について。登場人物に「素敵」という言葉が素直に当てはまる人は多くないので、多分に皮肉交じりなのだろう。「正月」「バレンタイン」「雛祭り」「クリスマス」という、和洋入り混じった行事を楽しむことを指しているのか、あるいは「正月の決意」の人たちのようなダメダメな人のことも指しているのかも。もちろん全く違うのかも。

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日本会議の研究

書影

著 者:菅野完
出版社:扶桑社
出版日:2016年5月1日 初版第1刷 6月1日 第4刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 昨年のベストセラーで、今年の初めに東京地裁で出版差し止めの仮処分が決定され(後に取り消し)、より一層話題になった本。だから「今さら」感はあるのだけれど読んでみた。(昨年の6月に購入したものの紛失してしまった。ひょっこり出てきたので)

 「日本会議」は、公式サイトによると、「教育の正常化や歴史教科書の編纂事業」「伝統に基づく国家理念を提唱した新憲法の提唱」などを行っている民間団体。それ意味するのは、「いわゆる自虐史観を改めた歴史認識や、個人より国家を優先させる」ことであり、「明治憲法の復元」。「言葉」は物事を表すのと同時に、本質を粉飾することがある。

 まぁ「日本会議」の名前を知っている方なら、これぐらいのことはご存知だろう。さらに言えば民間団体がどんな思想で活動しようと、基本的に問題視されるべきではない。問題は、この団体の主張と安倍政権の政策が気持ち悪いぐらい一致していることだ。

 実は一致しているのは当然で、第3次安倍内閣の閣僚19人のうち16人が「日本会議国会議員懇談会」のメンバー、官房副長官や首相補佐官も5人がそうだ。本書の言葉を借りれば「日本会議のお仲間内閣」なのだ。

 「たくさんいる」と官房長官が繰り返し言っていた「集団的自衛権を合憲とする学者」は3人だった、ということを覚えている人は多いと思う。それは全員、日本会議の関連団体の幹部だった。もっと見逃せないのは、最高裁の元長官も複数が団体の幹部として加わっている。

 この他にも、この国の中枢の様々な場所に、日本会議と志を同じくする人がいる。日本会議の面々はもう何十年もこの活動を続けている。その淵源をたどるとある宗教者に行きつく。本書を読めば、これらのことが説得力を持って分かる。そして背筋が凍る想いがする。

 本書を「結論ありき」だ、「トンデモ本」だと批判する方がいるのは知っている。著者の経歴や人格を問題視する人がいるのも知っている。だけれど、私は、本書に書かれていることは「事実に近い」と思う。

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5年3組リョウタ組

書影

著 者:石田衣良
出版社:KADOKAWA
出版日:2010年5月16日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 先月読んだ「アキハバラ@DEEP」に続いて石田衣良さんの作品。これも友人が私のために選んでくれた。感謝。

 主人公は中道良太。25歳、小学校の先生。舞台は、良太が勤める「希望の丘小学校」。清崎県清崎市、東京から新幹線で北東に1時間半の海と山に囲まれた街にある。かつては清崎市立第一小学校、いわゆるナンバースクールで、今でも地元では「名門校」に位置付けられている。

 物語はこの学校の1年間を、4つのエピソードで綴る。例えば1つ目のエピソードは4月。良太のクラスのとても勉強のできる生徒が、授業中に教室からの脱走を繰り返す。自分のことを「ダメ人間」というその生徒に対して、良太が取った行動は?学校の対応は?というお話。

 この他には、職員室内でのいじめ、生徒の家の放火事件での学校のマスコミ対応、クラス間の競争、がテーマになる。この他に、保護者との関係、生徒の自主性と教師による管理、教師としての目標、障害児教育、ついでに良太の淡い恋愛などが、細かいエピソードとしてちりばめられる。校長以下の教師たちも個性派が揃っている。

 「まいったなこれ」と、ある場面で思った。泣けて泣けて仕方なかった。人前で読んでなくてよかった。物語の中でも、登場人物のほとんどが泣いたり、目を赤くはらしたりしていた。作為のない良太の行動が心に響く。

 念のため。良太はいわゆる「熱血教師」ではない。教師という職業も「さして考えもせずに」なった。物語を通して描かれるクラス間の競争にも、あまり興味がない(おかげで万年下位を低迷して「バカ組リョウタ組」なんて影で言われている)。目の前で起きていることに真っすぐに対応する。ただそれだけ。ただそれだけがとても清々しい。

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川をくだる小人たち

書影

著 者:メアリー・ノートン 訳:林容吉
出版社:岩波書店
出版日:1969年6月16日 第1刷 2004年4月5日 第13刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「床下の小人たち」「野に出た小人たち」に続く、「小人の冒険シリーズ」の3作目。ちなみに「床下の小人たち」は、スタジオジブリ作品「借りぐらしのアリエッティ」の原作。

 小人のアリエッティと、そのお父さんのポッド、お母さんのホミリーの3人家族は、前作「野に出た小人たち」で、野外での放浪生活と様々な危険を潜り抜けて、親戚のヘンドリアリおじさん一家が住む小屋にたどり着く。本書はその続き。

 再会を喜び合うポッドとホミリー、ヘンドリアリとその奥さんのルーピー。ただ、暮らしに余裕があるわけではないし、細かいことで関係がぎくしゃくする。再会の喜びとその後に続く同居生活は別のもの。この辺りは、妙にリアルな微妙な距離感の親戚関係が描かれる。

 こうしたことを前段にして、物語は再びポッドたち3人家族を冒険に送り出す。ナイフの箱ややかんを船にした、水の上を行く冒険。危険と隣り合わせ。小さな動物も、雨降りでさえ、ポッドたちにはなかなか厳しい。でも一番危険なのはやっぱり人間。

 3作目だけれど、巻を重ねるごとに躍動感が増している。ホミリーは気ままなところがあって、時々ちょっと困った人になるけれど、よくも悪くも「真っすぐ」な人なのだと分かった。そして一番カッコいいのは、困ったときにタイミングよく現れて助けてくれる人、ということも分かった。

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ソニー歴代トップのスピーチライターが教える人を動かすスピーチの法則

書影

著 者:佐々木繁範
出版社:日経BP社
出版日:2017年10月17日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者はソニーの盛田昭夫会長と出井伸之社長のもとでスピーチライターを務めていた方。ソニー退社後は、コンサルタントとして、スピーチ講座や個別のコンサルティング通じて、延べ1万人以上のビジネスリーダーを指導したそうだ。

 本書は、その著者が「スピーチ上達のための12か条」を教えてくれるものだ。1か条につき1章、全部で12章で構成されている。例えば「メッセージを明確にする」「主張には理由を添える」「スピーチの構造をシンプルにする」「ストーリーを織り込む」等々。

 ノウハウを記したこうした本の常として、12か条として提示されたものに、あっと驚くような目新しいものはあまりない。私がそれなりに経験を積んできたからでもあるし、そもそも本当の意味での「秘訣」なんてそうそうないからだ。

 だからと言って、本書に価値がないかというと決してそうではない。ノウハウというのは、整理されてこそ「使える」ものになる。いくつかの項目がバラバラの状態では、自分のスピーチがいいのか悪いのかの検証も難しい。その点、こんな風に整理されていると、とても使いやすい。

 もう一つ。先に「目新しいものは「あまり」ない」と書いたけれど、実は私にとって目新しいものがあった。それは第6章の「自己開示する」という項目。「一般論ではなく経験談を」ということで、著者自身の経験談も載っているのだけれど、これで本当に具体的によく分かった。

 人の心をつかむか否かには、属人的な要素も重要なのだ。「何を話すか」と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に「誰が話しているか」に意味がある。「私という人を分かってもらうことで、物事が進みだした」そういう経験が私にもある。

 最後に。「スピーチ」なんて自分にはする機会がない、という人も多いだろう。でも、この12か条は「人に何かを伝える」時に役に立つ。プレゼンをするとき、あいさつ文を書くとき、人に何かを頼むとき。興味がわいた方は一読を。

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