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ブログを始めて20年になりました!

 本日2022年9月4日は、このブログを始めてちょうど20年の記念日です。
 最初の記事は、2002年9月4日の「海底二万海里/ジュール・ベルヌ」でした。

 ここまで続けてこられたのは、読んでくださる皆さんがいたからこそです。この場を借りて御礼申し上げます。

 投稿数は1,689、紹介した本の数は1,585です。本の評価別では☆5つが44、☆4つが747、☆3つが726、☆1~2は67。割合では☆5つは約3%、☆4つは47%、☆3つは46%、☆1~2は4%。

 作家さん別では、伊坂幸太郎さん48、有川ひろさん38、ダイアナ・ウィン・ジョーンズさん38、東野圭吾さん28、三浦しをんさん27、上橋菜穂子さん26、恩田陸さん23、梨木香歩さん21、森見登美彦さん21、の順でした。

 ジャンル別では、一般小説467、ミステリー276、ファンタジー237、ノンフィクション138、経済・実用書138、オピニオン126、エッセイ59でした。(重複の処理が曖昧で実数とは前後するかもしれません)

 2010年から2020年までの11年間は、年間100作品のペースを守れていたのですが、昨年は82作品と100作品に達しませんでした。今年はそれをさらに下回るペースです。

 しかし、気にしても仕方ないので、「続ける」ことを第一に、「続けられる」ことに感謝して、マイペースでいきたいと思います。

2021年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 毎年年末に発表している「今年読んだ本のランキング」、少し遅くなりましたが2021年の分を作りました。小説部門、ビジネス・ノンフィクション部門ともに10位まで紹介します。
  (参考:過去のランキング 2020年2019年2018年2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 2021年このブログで紹介した本は82作品、2010年から11年間続けた「年間100作品以上」が途絶えてしまったのは残念ですが仕方ありません。☆の数は、「☆5つ」が3個、「☆4つ」が51個、「☆3つ」は26個、「☆2つ」が2個、です。
 「☆4つ」以上が2020年と同じぐらい(2021年は54個、2020年は59個)なので、紹介した作品数は少なくてもよい本に巡り合えて、例年どおりに読書が楽しめた、ということでしょう。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
1 滅びの前のシャングリラ / 凪良ゆう Amazon
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「1カ月後に地球に小惑星が衝突する」という世界を描いたディストピア小説。冴えないぽっちゃり体型の主人公が、クラスメイトの美少女を守るナイトぶりを見せる。他にも魅力的なキャラが活躍する。
2 リボルバー / 原田マハ Amazon
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ファン。ゴッホの死を巡るミステリー。主人公が勤めるパリのオークションハウスに「ファン・ゴッホを打ち抜いたもの」というリボルバーが持ち込まれた。極上のアートミステリーの世界に引き込まれた。
3 臨床の砦 / 夏川草介 Amazon
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新型コロナウイルス第3波の下の医療現場を伝えるための緊急出版。感染症指定病院として地域のコロナ診療を一手に引き受ける、長野県の小さな総合病院が舞台。現場の医療関係者の踏ん張りに心打たれた。
4 ザリガニの鳴くところ / ディーリア・オーエンズ Amazon
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全世界で1000万部突破の大ベストセラー。米国ノース・カロライナ州の湿地に暮らす少女が主人公。家族が去って10歳の時から一人で生きてきた。少女の力強さと、悪意が多い中での善意の温かさを感じた。
5 白鳥とコウモリ / 東野圭吾 Amazon
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東野圭吾版「罪と罰」。弁護士がナイフで刺された殺人事件で、あっさりと自白した容疑者。しかし、容疑者の息子と被害者の娘が、その供述に違和感を抱く。30年の時を超える重厚なミステリーだった。
6 犬がいた季節 / 伊吹有喜 Amazon
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三重県の高校が舞台。その学校の昭和63年度、平成3年度、6年度、9年度、11年度の卒業生と一匹の犬の物語。その犬は恋する人の匂いが分かったるする。犬の目から見た高校生たちの青春物語が瑞々しかった。
7 52ヘルツのクジラたち / 町田そのこ Amazon
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誰にも言わずに東京から大分の海辺の町に引っ越してきた女性が主人公。ある雨の日に出会った、やけに薄汚れた体の中学生との関わりを描く。読むのがつらいひどい話もあったけれど、読んでよかった。
8 プリンス / 真山仁 Amazon
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東南アジアの架空の国の大統領選を巡る陰謀。大統領候補の上院議員の息子と、彼と行動を共にする日本の大学生らを描く。民主主義を勝ち取るための文字通り命がけの戦いに、東南アジアの熱気を感じた。
9 三つ編み / レティシア・コロンバニ Amazon
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2017年フランスで出版された大ベストセラー。インド、イタリア、カナダでそれぞれ暮らす3人の女性が主人公。想像を絶する境遇の女性もいるのだけれど、彼女たちのしなやかな力強さに深い感銘を感じた。
10 きのうのオレンジ / 藤岡陽子 Amazon
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冒頭で胃がんの告知を受けた30代の男性が物語の中心。物語が進むにつれていつしか物語は「残された日々」になる。男性の母、弟、高校の同級生の人生も重層的に描かれ、何度か涙がにじんだ。

 今年の第1位の「滅びの前のシャングリラ」は、私は魅力的なキャラクターが登場する物語が好物なので1位になりました。本屋大賞でも1位かと予想していたのですが、第7位と上位にはいりませんでした。

 第2位の「リボルバー」は、原田マハさんの作品でファン・ゴッホを描いたもので、原田さんもゴッホもどちらも私は大好きです。「原田マハさんにハズレなし」と思っています。

 第3位「臨床の砦」は、コロナ禍の地域医療の現場を描いた作品です。夏川さんは現役の医師で、これまでにも医療現場を舞台にした素晴らしい作品が多いですが、本作の臨場感はノンフィクションと捉えてもいいのではないかと思います。

 選外の作品として、 天花寺さやかさん「京都府警あやかし課の事件簿2 祇園祭の奇跡」「3 清水寺と弁慶の亡霊」のシリーズ、青山美智子さん「お探し物は図書室まで」、小路幸也さん「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」が候補になりました。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
1 認知バイアス 心に潜むふしぎな働き / 鈴木宏昭 Amazon
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認知バイアスとは「心の働きの偏り、歪み」で、そのために「実際にはそうではないのにそう思ってしまう」。新型コロナウイルスに対する私たちの(社会の)ありように、たくさんの示唆を含んだ本。
2 多数決は民主主義のルールか? / 斎藤文男 Amazon
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「多数決ならどんなことをどのように決めてもよいのか?」を改めて考える本。「よくない」ということがよく分かった。特に「どんなことを」決めてはいけないのかは、民主主義の国に暮らす者として必見。
3 海をあげる / 上間陽子 Amazon
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著者は東京と沖縄で未成年の少女たちの支援に携わる。著者自身のこと、家族のこと、支援している少女たちのこと、沖縄のことを書いたエッセイ集。本当の現場からのレポートに、強く衝撃を受けた。
4 News Diet(ニュース ダイエット) / ロルフ・ドベリ Amazon
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「生活から(最新情報的な)ニュースを絶とう」という提案。自分の能力の及ぶ外側のことには関与も対応もできないのだから。欠かさずニュースを見ている私には、思い当たることがたくさんあった。
5 デジタル・ミニマリスト / カル・ニューポート Amazon
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「自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否か」を基準に、デジタルツールの最適化を図ろう、という提案。ソーシャルメディアは人間の心理を利用して、意図的にユーザーの時間を奪っている。
6 デジタル・ファシズム / 堤未果 Amazon
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官民を挙げてデジタル化を進める世に警鐘を鳴らす本。デジタル化を進めることで何が危険なのか?私たちは何を差し出すことになるのか?を具体的に指摘。知らないことばかりでとても驚き心配になった。
7 21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由 / 佐宗邦威 Amazon
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「ビジネスをより効率的にする」MBA的思考に対して、デザイン思考は「まったく新しい事業、商品などを創る」。曖昧な感じが残るこの説明も、具体例を読むと「こういうことかな?」ぐらいには分かる。
8 公務員のための情報発信戦略 / 樫野孝人 Amazon
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著者が広島県福山市で実践した地方自治体の情報発信戦略の手法をまとめたもの。民間会社の使い方やプレスリリースの仕方など、公務員向け限定の内容ながらとても実践的で役に立つ。自治体関係者必見。
9 「居場所」のない男、「時間」がない女 / 水無田気流 Amazon
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会社(仕事)以外の場所での関係が築けていない「関係貧困」な男性。1日の中でも人生でも時間に余裕がない「時間貧困」な女性。どちらもこの国の問題の一面を明確に切り取っていて身につまされる。
10 雑草と楽しむ庭づくり オーガニック・ガーデン・ハンドブック / 曳地トシ 曳地義春 Amazon
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雑草との付き合い方を指南する本。庭でよく見る雑草の解説や雑草を生やさない工夫や生かし方などがコンパクトにまとめてある。「雑草の生かし方」いう発想が斬新。肩の荷が下りてとてもありがたかった。

 第1位の「認知バイアス 心に潜むふしぎな働き」は、以前から興味がある分野ですが、新型コロナウイルスに関する報道や身の回りの出来事が、この本に関する関心と評価につながったと思います。

 同様のことは4位の「News Diet(ニュース ダイエット)」と5位の「デジタル・ミニマリスト」にも言えます。毎日毎日繰り返し報道される東京や大阪の感染者の数に「こんなことより知るべきことが他にあるはず」と思い、入ってくる情報を自分でコントロールしようと思いました。

 第2位の「多数決は民主主義のルールか?」、第3位の「海をあげる」は、安倍政権以降の政治や社会に対する不満と不安を反映したものです。再度、政権が変わりましたが状況が良くなるのかどうかわかりません。

 選外の作品として、レイチェル・カーソンさんの「沈黙の春 」、デヴィッド・グレーバーさんの「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」、千葉聡さんの「進化のからくり」が候補になりました。

雑草と楽しむ庭づくり オーガニック・ガーデン・ハンドブック

書影

著 者:曳地トシ 曳地義春
出版社:築地書館
出版日:2011年6月15日 初版 2011年7月1日 2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 雑草についてそれぞれの特性を知り、雑草との共生を含む上手な付き合い方を教えてくれる本。

 著者は、ご夫婦で農薬を使わないなどの、自然環境に配慮した庭づりとメンテナンスを行っている。いわゆる「オーガニック・ガーデン」だけれど、著者たちが考えるオーガニック・ガーデンは、農薬を使わないというだけでなく、「多様な生きものが生き生きとしたつながりを持つ庭」。オーガニックとは「余計ないことをしない。余計なものを持ち込まない」ということにつきる、とも言う。

 本書の構成は三部構成。第一部が「雑草編」。庭でよく見る雑草86種の特性や対処法を解説する植物図鑑。第二部が「実践編」。雑草を生やさない方法や生かし方、草取りの道具などを紹介する。第三部が「基礎知識編」。雑草のライフサイクル、様々な分類と特性、役割などをコンパクトにまとめてある。分量的には第一部が7割超あって、第二部と三部が残りの半分ずつぐらい。

 私にはとてもありがたい本だった。「はじめに」に「せっかくの庭が持ち主の精神的な負担になっているケースを数多く見てきた」とある。私がそうだった。もちろん庭を世話する楽しみは大きいのだけれど、負担にもなっている。広い庭ではないけれど手をかけないと荒れてしまう。それに雑草は庭だけではなくて、駐車場や隣家との間や家の裏にも、とにかく土のあるところなら生えてくる。そういう人がもっと安心して雑草とつきあえるように書かれたのがこの本だ。

 安心につながるのは例えばこういうこと。「それぞれの価値基準による」としながらも「根こそぎ抜く」のではなく「刈りそろえる」ことを提案。5センチで刈ると雑草の生長がもっとも遅くなる、繰り返し5センチで刈っていると5センチ前後の草しか生えてこなくなる。「根こそぎ」から解放されれば、随分と気が楽だ。

 雑草とのつきあいで「なるほど」と思ったのはこういうこと。「好きな雑草を残す」「ここだけは生やしてかまわないという場所をつくる」「雑草を生け花にする」。こんなつきあい方があるとは思わなかった。著者は、植木鉢に土を入れて何も植えないで置いておくこともある。何が生えてくるかお楽しみ、だそうだ。

 雑草の「雑」には「取るに足らない」という意味だけれど、雑木林の「雑」には「多様な」というニュアンスがある。「雑草と言う名の植物はない」という言葉は多くの人が知っているけれど、著者は雑草に多様性を見ることで、その言葉のさらに先を行っているように思う。それは、様々な庭で実際に生き物や土を対峙しているからこそ行き着いた考えなのだと思う。

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ダンゴムシに心はあるのか 新しい心の科学

書影

著 者:森山徹
出版社:PHP研究所
出版日:2011年4月1日 第1版第1刷 8月5日 第1版第3刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「研究って面白いなぁ」と思った本。

 著者は、ダンゴムシやオオグソクムシなどの行動実験を通して「心や意識、私とは何か」を明らかにしようとする研究者。信州大学に在籍して本書執筆の時は助教で現在は准教授になっている。本書は著者の研究成果の一端とその意味を紹介し「心の科学」を展望する。

 タイトルの「ダンゴムシに心はあるのか」は、非常に簡明な問いの文章であるが、その答えは必ずしも明快ではない。「んなものあるわけない」と思う人も、「生き物には心があるに決まっている」と思う人も、結論を急がずに著者の説明を聞くといいと思う。「そういうことなら確かに...」と思うかもしれない。思わないかもしれない。

 まずは「心とは何か」。実はこれが大変に難解な説明になっている。思うに、この「心の定義」がここまで困難なのは、後に「心」を実験で捉えなくてはいけないからだと思う。そのためには観察可能な形で「心」を具象化する必要がある。難解ではあるけれど著者の説明は一歩ずつ進むので、私はなんとか飲み込むことができた。しかしここできちんと説明する自信はない。

 自信がない説明よりも、ダンゴムシの実験を先に紹介した方が分かってもらいやすいと思う。ダンゴムシを出口が複数ある迷路に入れると、出てくる出口が顕著に偏る。これは「交代性転向」という言わばダンゴムシに生物として備わった機能によるものだ。多くの動物種でみられるらしい

 「ああなるほど。それで決まった出口からばかり出てくるのか」と、私なら小ネタを仕入れることができて満足するところだけれど、著者の着眼点は別のところにある。数は少なくてもその他の出口からも出てくるのはなぜか?ほかにも多くの実験で、同様の「予想外の行動」が観察できる。生物として備わった機能に反した行動に、著者は「心」の存在の一端を見る。

 「ダンゴムシの心」の研究にどのような成果が結実するのか?それは分からないけれど、私は前京都大学学長の山極壽一先生のゴリラの研究を思い出した。ゴリラの社会の研究と比較から、人間の社会の輪郭が浮かび上がってきた。ダンゴムシの研究からも私たちの「心」を解明する知見が得られるかもしれない。

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天国旅行

書影

著 者:三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2010年3月25日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 決して楽しい物語ではないけれど、読書としては楽しめた本。

 「心中」を共通のテーマにした短編集で7編を収録。「心中」は「しんちゅう」ではなくて「しんじゅう」、念のため。

 様々な形で「心中」が描かれる。「森の奥」は、青木ヶ原樹海で自殺に失敗した男とそこで出会った男の道行。「遺言」は、これまでの人生で妻と3回心中の瀬戸際まで行った小説家の話。「初盆の客」は、主人公が祖母の初盆に現れた男性から聞いた祖母の過去と不思議。

 「君は夜」は、夢で別人として江戸時代に暮らす女性、夢の中で心中する。「炎」は、主人公の女子高校生が通学のバスで一緒になる男子生徒が焼身自殺する。「星くずドライブ」は、ひき逃げ事故で死んだ(らしい)彼女の霊と暮らす男子大学生の話。「SINK」は、子どものころに家族4人の一家心中で生き残った男性の話。

 「心中」をテーマした物語を読むのは「死」を渕からのぞき込むようなもので、どの作品にも緊迫した雰囲気を感じる。それでもその度合いには作品によって違いがある。例えば心中が既遂なのか未遂なのか?でも違ってくる。どの物語がそうとは言わないけれど「未遂」の中には、少しコミカルな印象を受けるものさえある。小説の中の出来事であっても「死ななくてよかった」と思った。

 印象に残ったのは「初盆の客」。主人公が祖母のウメさんの過去について聞くのだけれど、過去というのは戦時中の話。ウメさんが結婚してすぐに旦那さんは招集され、戦死して帰らぬ人となった。この話をした男性の父親が、ウメさんと戦死した旦那さんの間の子どもだという。男性の父親の出生には不思議なことがあって、その不思議はさらに別の不思議に..。こういう話は好きだ。

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レビュー記事が1500本になりました。

 先日の「JR上野駅公園口」の記事で、このブログのレビュー記事が1500本になりました。2002年の9月に書いた「海底二万海里」が1本目で、それから18年と8カ月です。いろいろなことに感謝です。

 ちょっと分析してみました。

 評価は☆5が42、☆4が696、☆3が698、☆2が60、☆1が4でした。

 カテゴリー別の記事数は、小説が477(279)、ミステリーが276(172)、ファンタジーが242(194)、経済・実用が133(99)、ノンフィクションが130(90)、オピニオンが115(22)、エッセイが59(31)、雑誌が11(4)、その他が144(109)です。
 カッコ内の数字は、レビュー記事1000本の時に集計した値で、比較することで直近500本の傾向が分かります。ファンタジーが減って(2番目に多かったのに4番目になりました)、オピニオンがすごく増えました(2%しかなかったのに16%になりました)。

 作家さん別の記事数では、伊坂幸太郎さん48、有川ひろさん40、ダイアナ・ウィン・ジョーンズさん37、三浦しをんさん26、東野圭吾さん26、上橋菜穂子さん25、恩田陸さん23、森見登美彦さん22、梨木香歩さん21、村上春樹さん19、塩野七生さん19の順でした。

 今回は、テキストマイニングツールという、文章の分析をしてくれるツールに、レビュー記事のテキストを読み込ませてみました。文字数が約133万文字、単語数が約83万語でした。もはや実感をうまく掴めませんが「とにかくたくさん」書いてきたことは分かりました。「頻出単語と関連」も調べましたが、これはどう見たらいいのか?これからゆっくり眺めてみたいと思います。

 集計を自分のために一枚のシートにまとめました。集計結果

 最後に。いつも言っていることですが、こうして本が読めるのは、暮らしに大きな支障がないからです。そのことは本当にありがたく思っています。その幸せを感じつつ、これからもレビュー記事を積み重ねていきたいと思います。

52ヘルツのクジラたち

書影

著 者:町田そのこ
出版社:中央公論新社
出版日:2020年4月25日 初版 7月5日 4版 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。

 子どもがつらい目に会う話が苦手なので、読むのがつらかったのだけれど、読んでよかったと思った本。

 主人公は三島貴瑚、26歳。友人たちの誰にも言わずに東京から大分の小さな海辺の町に引っ越してきた。携帯電話も解約して。周辺の住人の間では「東京から逃げてきた風俗嬢でヤクザに追われている」という噂が立っている。

 貴瑚が、ある雨の日に出会った中学生の濡れそぼった体は、やけに薄汚れていた。ここで別れてはいけない気がして家に連れて帰ったその子の、肋骨の浮いた痩せた体には、模様のように痣が散っていた。それは貴瑚が見慣れた色だった..。

 物語は、貴瑚がこの中学生と関わることで、一旦は自ら手放した「人と関わること」を取り戻していく様を描く。貴瑚が抱える過去はとても重いものだ。「人と関わること」を手放すに至る事情も重い。この中学生の境遇も負けず劣らず重い。この物語の大半が重い空気に包まれている。

 かなりヘビーな本だった。読むのがつらくて途中で本を閉じてしまいたくなる。それでも最後には明かりが見える。ひどい人間がたくさん出てくるけれど、善良で力強い人も闇を照らす明かりのよう登場する。壮絶な人生を送ってきたけれど、それでも貴瑚は人に恵まれた方なのだろう。読者もそのことで救われる。

 最後にタイトル「52ヘルツのクジラたち」について。クジラは海中で歌を歌うように、鳴き声を出して仲間に呼びかける。その音の周波数はだいたい10~39ヘルツ。しかし52ヘルツのクジラの鳴き声が実際に定期的に検出されているそうだ。その声は、広大な海の中で誰にも受け止めてもらえない。「世界でもっとも孤独なクジラ」と呼ばれている。

 この本は、そのクジラと同じように「受け止めてもらえない声を発している」人たち、そして「その声を受け止めた」人たちを描いた物語。

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2020年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。小説部門、ビジネス・ノンフィクション部門ともに10位まで紹介します。このランキングも今年で12年目。干支がひと回り。生まれた赤ちゃんが小学校を卒業するまでの時間です。
  (参考:過去のランキング 2019年2018年2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は101作品でした。☆の数は、「☆5つ」が4個、「☆4つ」が55個、「☆3つ」は38個、「☆2つ」が4個、です。
 「☆5つ」「☆2つ」の一番上と下の評価は昨年と同じ数で、「☆4つ」は一つ多く「☆3つ」は2つ少なくなりました。毎年同じような数に落ち着くのが不思議です。今年は感染症のせいで落ち着かない年になってしまいましたが、私の読書は「例年並み」をキープできました。ありがたいことです。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
1 熱源 / 川越宗一 Amazon
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明治から昭和にかけての北海道、サハリンなどの北の大地を舞台に、樺太出身のアイヌら複数の半生を描く群像劇。「私は何者か?」を問うテーマの訴求力と、実話を基にした物語の構成力に圧倒される。
2 書店ガール3 託された一冊 / 碧野圭 Amazon
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書店員の女性2人が主人公のシリーズ第3巻。そのうちの1人がエリア・マネージャーに昇格し、仙台の書店も担当に。物語の背景に東日本大震災があり、「あの時自分は」と「あれから自分は」を考えさせる。
3 満天のゴール / 藤岡陽子 Amazon
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10歳の息子を連れて実家に帰ってきた女性が主人公。廃屋が点在する寂れた土地で、地域で唯一の総合病院がなんとか支えている地域医療に携わることになった。そこで出会った人々やその人生を描く。
4 天上の葦(上)(下) / 太田愛 Amazon
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物語の発端は渋谷の駅前のスクランブル交差点。信号が変わって無人であるべきその真ん中で、青空を指さして老人が絶命した。大きくは「権力と民主主義」をテーマとした緊迫感に満ちたミステリー。
5 少年と犬 / 馳星周 Amazon
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日本の各地の様々な人々を描く6編の連作短編。すべてに1頭の犬が登場する。犬が出会う人々は決まって問題を抱えている。犬だからセリフはない、ほとんど吠えもしない。でもその存在感は圧倒的。
6 常設展示室 / 原田マハ Amazon
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人生の岐路に立つ人々を描いた6編の短編集。どの短編にも世界各地の美術館で常設展示されている、著名な絵画が登場する。その絵画に絡めて、人生や家族に関わる機微をシャープにしかし優しく描く。
7 線は、僕を描く / 砥上裕將 Amazon
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水墨画の大家に弟子入りすることになった大学生が主人公。その水墨画修行を描く。実は主人公には水墨画に向かう「必然」とも言える事情があった。「紙に一本の線を引く」ことの意味を考える物語。
8 いつかの岸辺に跳ねていく / 加納朋子 Amazon
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生まれた時からの幼馴染の男女が主人公。でも恋とか愛とかとは無縁。とは言ってもやっぱりお互い意識して、という甘酸っぱい話だと思ったら、後半はキリキリと引き絞るような緊張感が漂う展開に。
9 マチネの終わりに / 平野啓一郎 Amazon
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天才ギタリストの男性と通信社の記者の女性の物語。物語の始めには38歳と40歳。女性には婚約者がいた。それでも互いの思いは募る。ドロドロしがちな大人の恋愛を美しく描いたラブストーリー。
10 イマジン? / 有川ひろ Amazon
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連続ドラマの制作アルバイトとして働く若者を主人公に、映像制作の現場を描く。監督、スタッフ、キャストが個性的な面々で、爽快なエンターテインメントになっている。社会への問題提起もある。

 今年の第1位の「熱源」は、北海道と樺太、果ては南極と極寒の地を舞台としているのに、とても熱量を感じる壮大な作品でした。この作品と5位の「少年と犬」は、ともに直木賞受賞作です。私と直木賞は相性がいいようです。

 第2位の「書店ガール3」は、書店を舞台としたシリーズものの第3巻です。2人の女性の書店員が生き生きと描かれている人気シリーズですが、本作はこれまでより飛び抜けて心に残りました。東日本大震災が背景に描かれています。あの震災は多くの作家さんに大きな影響を与えたようです。

 第3位「満天のゴール」は、地域医療の現場を描いた作品です。病院まで車で1時間とか2時間とかかかる集落にお年寄りが住んでいる。私事で恐縮ですが、私の父は私がこの本を読んだ2か月後に亡くなりました。読んでいる時は他人事とは思えず身につまされました。

 選外の作品として、 小野不由美さん「白銀の墟 玄の月」、阿部智里さん「楽園の烏」の、2つの人気ファンタジーシリーズの最新刊、恩田陸さん「祝祭と予感」、原田マハさん「キネマの神様」が候補になりました。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
1 あいちトリエンナーレ「展示中止」事件 / 岡本有佳 アライ=ヒロユキ Amazon
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「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」が展示中止を強いられた事件の克明な記録。「表現の自由を侵す側」対「守る側」という分かりやすい対立構造ではなかったことが分かる。
2 ほんとうのリーダーのみつけかた / 梨木香歩 Amazon
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著者が、2015年当時の社会情勢に危機感を抱いて、若者に送ったメッセージ。それは「社会などの群れに所属する前に、個人として存在すること。盲目的に相手に自分を明け渡さず、自分で考えること」
3 精神科医・安克昌さんが遺したもの / 河村直哉 Amazon
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阪神大震災において、精神科救護所・避難所などで、カウンセリング・診療などを行った医師の記録。震災時だけでなく「その後」の生き方も含めて。心の傷と癒しについて大切なことを教えてくれる。
4 13坪の本屋の奇跡 / 木村元彦 Amazon
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1冊の本を3ケタを優に超える売り上げを出す、大阪の「町の本屋」を追ったノンフィクション。「町の本屋」の苦境のウラには、私たちが知らない書籍流通の悪弊があった。その解消のための闘いの記録。
5 ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー / ブレイディみかこ Amazon
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英国在住の日本人の著者によるエッセイ集。父が英国の白人、母が東洋人というアイデンティティを持った英国の中学生の暮らしを生き生きと描く。英国のことを読みながら、日本のことを考えさせられる。
6 日本の文化をデジタル世界に伝える / 永﨑研宣 Amazon
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日本の文化に関する紙の資料を、デジタルの世界で情報として流通させることの考察。デジタルアーカイブの事業について、考え方から実践・評価まで幅広く、かつ要点を抑えてコンパクトに収めた本。
7 汚れた桜 「桜を見る会」疑惑に迫った49日 / 毎日新聞「桜を見る会」取材班 Amazon
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うやむやのままに忘れられそうになっていた「桜を見る会」疑惑についての詳細なレポート。「明恵夫人の推薦枠」「前夜祭の明細書」「招待者名簿の破棄」などの様々な疑惑を記録し論点を整理している。
8 新聞記者・桐生悠々忖度ニッポンを「嗤う」 / 黒崎正己 Amazon
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満州事変後に世論が軍部支持の一色だったころに、新聞の社説で「関東防空演習」の無意味さ嗤ってみせた記者「桐生悠々」について書いた本。90年前と現代を重ねて、現代の危機と教訓を浮かび上がらせる。
9 女性のいない民主主義 / 前田健太郎 Amazon
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日本では圧倒的に男性の手に政治権力が集中している。それはなぜなのか?それなのに日本が民主主義の国とされている。それはなぜなのか?という問題意識から、ジェンダーを視点にして社会を見直した本。
10 となりの難民 / 織田朝日 Amazon
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突然に収容が決まる。弁護士もつかず身一つで収容される。持病の薬も持ち込めない。期限が決まっていない。在留資格のない外国人「非正規滞在者」を収容する「外国人収容施設」の実態を伝えるレポート。

 第1位の「あいちトリエンナーレ「展示中止」事件」は、報道をなんとなく見ているだけでは分からない、「事件の真相」を垣間見ることができました。「分かりやすい構図」が示されても、そういう時こそ気をつけないといけません。

 さらに4位の「13坪の本屋の奇跡」や10位の「となりの難民」には、おそらくほとんど報道されていない事実が書かれていました。私たちの国や社会は、私たちから見えないところで別の顔を見せているようです。

 第2位の「ほんとうのリーダーのみつけかた」、第7位の「汚れた桜 「桜を見る会」疑惑に迫った49日帝国の慰安婦」、第8位「新聞記者・桐生悠々忖度ニッポンを「嗤う」」は、安倍政権下の日本の社会に危機感を感じた本です。政権は変わりましたが状況がよくなったとは言えません。

 第3位の「精神科医・安克昌さんが遺したもの」は、神戸で生まれ育った私には特別の意味がありました。著者は新聞社の記者だそうですが、よくぞこれだけ取材し原稿を書き、そして一旦は封印したものを出版してくれました。

 選外の作品として、岩田健太郎さんの「新型コロナウイルスの真実 」、内田樹さんの「サル化する世界」、永松茂久さんの「<a href="https://honyominakurashi.com/blog/2020/10/2245/」が候補になりました。

書店ガール2 最強のふたり

書影

著 者:碧野圭
出版社:PHP研究所
出版日:2013年4月1日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 重労働で大変なお仕事だとは知っているけれど、書店員っていい職業だなぁと思った本。

 「書店ガール」の続編。主人公は前作と同じで西岡理子と小幡亜紀の2人。舞台も書店であることは同じだけれど、店は変わっている。前作で二人が勤めていた「ペガサス書房吉祥寺店」は、理子と亜紀ら店員の奮闘にも関わらず閉店となり、半年後にオープンした「新興堂書店吉祥寺店」に移っている。理子はスカウトされた形で店長に、亜紀は文芸書担当の正社員として採用された。

 理子は42歳。亜紀は29歳。前作では衝突の絶えなかった二人だけれど、本書ではいい関係が築けている。理子は亜紀を信頼しているし、亜紀は理子を尊敬している。勤め先の書店が大型書店チェーンになって労働環境が良くなったこと、亜紀が仕掛けた本が評判となって本屋大賞を受賞するなど、文芸書担当としての書店員として認められ充実していることも、二人の関係にいい影響を与えているのだろう。

 物語の初めの方で亜紀の妊娠が分かる。そのことで夫の保守的な面が顕わになる。「子供が三歳になるまでは母親の手で育てた方がいいっていうのは、常識だろ」とか言うのだ。亜紀は亜紀で「いずれは子供をと思ってはいたけれど、もうちょっと後がよかったな」というのが本音。業界的な繋がりも広がりつつあり、仕事が面白くて仕方ない時期で、ここで半年、一年休んでしまったら..という不安がある。

 この亜紀の妊娠や夫との関係を折々に描きながら、物語は多くのテーマを取り込みながら進む。書店業界全体の停滞。大型書店と中小の書店の間の齟齬と協調。言葉狩りのような言論空間の閉塞と不寛容。そんな中で協力し味方になってくれる仲間の有難さ。出版に携わる者の喜び。そして理子の恋愛模様まで。

 面白かった。ほぼ一気読み。ストーリーの本筋からは少し離れているのだけれど、心に残った場面がある。物語の中にいろいろな書店が「五十年後にも残したい本」を選ぶ、というところ。私はその書名を興味津々で追った。「あの本が選ばれてる!」とか思いながら。

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勝手に予想!2020本屋大賞

 明後日4月7日(火)に本屋大賞が発表されます。10作品がノミネートされていて、今年はそのすべての作品を読むことができました。

 その10作品は「線は、僕を描く」「店長がバカすぎて」「夏物語」「熱源」「ノースライト」「むかしむかしあるところに、死体がありました。」「ムゲンのi」「medium霊媒探偵城塚翡翠」「ライオンのおやつ」「流浪の月」です。

 何度も予想して一度も大賞が当たったことがないのですが、懲りずに今年も、私の予想を発表します。

 大賞:「熱源」 2位:「流浪の月」 3位:「線は、僕を描く」 4位:「ノースライト」

 「熱源」は、明治から昭和初期にかけての、樺太のアイヌや祖国を失ったポーランド人らの群像劇で、「自分は何者か?」を問う骨太の群像劇です。正直にって他の作品とは一線を画す秀作だと思います。直木賞も受賞していることが気がかりですが、過去にもダブル受賞の例があるので。

 「流浪の月」は、幼児誘拐事件と、その被害者の「その後」を描いた作品です。事件があると、私たちは分かりやすい説明を求めます。本書は、その世間が納得しやすい分かりやすい説明と事実のギャップを浮き彫りにしたものです。

 「線は、僕を描く」は、著名な水墨画家に弟子入りした大学生の物語です。白い画仙紙に墨だけで描く水墨画の世界が、主人公自身の境遇や成長とともに、魅力的かつユーモラスに描かれています。先輩たち登場人物も魅力的でした。

 「ノースライト」は、一級建築士を主人公とした一家失踪事件を追うミステリーを入口にした、様々な要素が縦横に絡む人間ドラマです。入口から予想したものとはずい分違うところに着地して、心地よく裏切られました。

 最後に少し苦言を呈します。ノミネート10作品に「子どものころの出来事のトラウマ」を扱う作品が多いのです。

 主人公に関して、目前で肉親が殺される作品が2つ、両親の突然の死で心に傷を負う作品が1つ、性的虐待を受ける作品が1つ。主人公が父親に叩かれ、別の登場人物が性的虐待を受けている作品が1つ。つまり半数の5作品が「トラウマ」を描いている。(残りの5作品でも、子どものころの父の死がストーリーに絡む作品が1つ、両親が亡くなっている作品が1つ。)

 本屋大賞は、個々の書店員さんの投票によってノミネート作品が決まりますから、総体としての意思があるわけではありませんが、「書店員はトラウマがそんなに好きなのか?」と思わずにいられませんでした。

—-2020.4.7 追記—-

 大賞は「流浪の月」2位「ライオンのおやつ」3位「線は、僕を描く」4位「ノースライト」で5位が「熱源」でした。私の予想の大賞は5位だけれど、2位が大賞、3位と4位は的中です。かなりいいセンいったんじゃないでしょうか。

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